納品:魔王の首一ツ
「よいしょっと」
刎ね飛ばした魔王の首を拾い上げる。
……凄まじい形相で死んでいる。
「さっさと魔女に届けねぇとな」
首を抱え、ほっぴー達が集まっている方へ戻る。
ぼたぼたと落ちる血が数メートルほど線を描く。
「ほっぴー、皆の様子はどうだ?」
「……その辺は俺よりアルザの方が分かるはずだ」
ほっぴーに指名されアルザが少し前に出る。
「えっとね。まず紅羽。君は内部の魔力回路がとんでもない事になってる。一週間は安静にしなきゃいけないね」
「わかった」
紅羽が地面に伏したまま返事をする。
お前意識あったのか。
「そんで次に砂漠の女王」
「診察など結構」
砂漠の女王が杖をつきながらよろよろと立ち上がる。
あれだけの攻撃を受けてもう意識が回復して立ちあがれるのか。やっぱすげぇな。
「んー? でも初めて見るレベルで弱ってるけど大丈夫?」
「ええ。構いません」
「そっか。じゃあ次にヤワタだけど――」
「一週間は安静ですわね。今すぐ魔女の所へ行く気でしょう?」
アルザの言葉を遮るようにして砂漠の女王が発言する。
チラリと周囲の反応を見てから口を開く。
「まぁ、そうだな」
「そうでしょうね。ではゲートを開きます」
「ちょっと、ちょっと! こんなボロボロで魔女の森を突破しろって言うのかい!?」
「モータルさんは限界が近い。一日休んで、等と言える状況ではありません」
砂漠の女王の口の端から血が伝う。
「紅羽さんとお代官様を除く十傑全員を転移させます。さっさと救ってきなさい。わたくしがここまで身体を張ったのですから失敗は許しません」
そこまで言うと砂漠の女王がドサリと倒れこんだ。
慌てて駆け寄ろうとしたところで、いつもの感覚が身体を襲った。
世界がぐちゃぐちゃに回され、悪寒が走る。
――転移特有の感覚だ。
「……う、お」
気付けば正面には鬱蒼とした森。
誰に言われずとも分かる。魔女の森だ。
そうだ、首は。
……ちゃんと持ってるな。心なしかさっきより表情が酷い気がするが。
「皆居るか!?」
そう言って後ろを振り返れば、紅羽とお代官さん以外の十傑メンバー。そしてアルザが各々力なく反応を返してくる。
無論、その中にはモータルも居る。
あと何故か人狼も。
「誰かモータルを抱えてやってくれ」
「いや、俺は」
「俺が背負って行くよ」
提案を断りそうなモータルを人狼が無理やり背負った。
おそらくこの為に砂漠の女王は人狼も転移させたんだろう。
「じゃあ行くぞお前ら」
短剣を構え、森へと一歩踏み出した。
ワオォーーーン―――。
瞬間、狼の雄叫びが森に響く。
「……一応、お迎えはしてくれるってワケか?」
気付けば眼前に立っていた巨大な白狼。
頬をひきつらせながらそんな言葉を口にすると、白狼は小さくワフと唸った。
「俺ら結構大人数で来てんだけど。いけるのか?」
俺の言葉に、白狼が背を向け、くいっと顎を森の方へ向ける動作をした。
ついてこいってか?
「おいお前ら。走る準備はできてるか? あと足が遅い奴は誰かに背負われる準備も」
背後から疲労の滲む声で返事がきこえる。
大丈夫そうだな。
その返事を白狼もきいていたらしく、颯爽と森の中へと駆けていく。
とんでもねぇ速度だが、俺なら一応追いつける。
なんとか白狼を見失わず、かつ後続に見失われないよう距離をとったまま走る。
「うお!?」
突如として針が飛来する。
「どこから……おいおい」
そう言って戦闘体勢をとろうとするよりも前に。
針の発生源らしきキノコの怪物がズタズタに裂かれ、屍を晒していた。
「今回はその辺ちゃんとアシストしてくれるワケね」
白狼の戦闘能力の高さに寒気を感じつつも、なんとかその背中を追う。
ちょうど五匹目の魔物の死骸が投げ込まれてきた頃。
見覚えのある洋館が姿を現した。
「ガルゥッ!」
白狼が唸る。
それと同時に洋館の玄関扉が開く。
「乗り込めぇッ!!」
勢いそのまま洋館へ入る。
洋館の中はあの時のような長い廊下は無く、一枚の扉が配置されているだけだった。
「魔女ッ!! 持ってきてやったぞさっさと治しやがれッ!!!」
叫びながら半ば蹴破るようにして扉を開ける。
「うんうん。確かに。魔王の首、だね?」
黒いボロボロのワンピース。繋ぎ目まみれでとても人間とは思えないカラフルな色合いになった皮膚。
魔女だ。
魔女がゆっくりと歩いてきて、俺の持つ魔王の首をそっと抱える。
「あ。あ。斬りたての内に、持ってきてくれたんだね?」
「生首は鮮度が大事だからな」
「だね」
適当な事を言ったら同意された。
やはりコイツは頭がおかしい。
「おいさっさとモータルを運べ!」
「わぁってるよ!」
ほっぴーの怒号と人狼の焦ったような声。
モータルが運びこまれてくる。
途中から容態が悪化したらしく、汗をだらだらとかき、顔からは完全に血の気が失せていた。
「ハイヒール……効果無し、ですか」
鳩貴族さんが回復魔法をかけるが特に楽になった様子はない。
七色の悪魔さんも何やらスキルを行使しているがそれも効果がないようだ。
「おい、魔女。何見てんだ。さっさと治せ」
ジークがいらだちを隠す様子もなく魔女を睨んだ。
「待って。せっかくだから新鮮な内に。ね?」
魔女はそう言うと、魔王の首をそっと机に置いた。
「いったい何を……」
俺が声をかけようとしたその時。
魔女の口がガパリと、裂けた。
そしてその裂け目から大量の細い触手のようなモノが溢れ出し、魔王の首の中へと侵入していく。
「う……お、え……ッ」
ガッテンが嘔吐する声が聞こえる。
ふざけんな釣られゲロするだろうが。
「あ、はァ……。私達に、こんな凄い術式を隠してたなんて。酷いなぁ」
不快な声だった。
多方向から一斉にひそひそ声で話しかけられているような、そんな不快感。
「うん。うん。そっかァ」
熱に浮かされたような顔で、何度も頷く魔女。
気味が悪いだとか、そういうレベルを超えている。
そんな光景をいったい何十分ほど見せられたのだろうか。
「こんなとこ、かな?」
しゅるりと音をたて、触手が魔女の口へと戻っていく。
触手が収納され、裂けていた口が接合されていく。
「……待たせた?」
「ああ、待ったよ。で? 治療は」
「今から。するよ?」
ふらふらとモータルを背負う人狼の元へ近寄る魔女。
「ちゃんと。セットで持ってきてくれたんだ」
「はぁ? いやまぁ確かにそいつらはセットと言えばそうだけどよ」
俺がそう言うと、魔女がこてんと首を傾げる。
「あれ。言ってなかった。かなぁ?」
なんだ。嫌な予感がする。
「おそらくきいてない。説明しろ」
「そうなんだ。えっとね。解呪って。かなり負担が大きいんだよね。とても一人の生命エネルギーじゃ、耐えられない。だから――」
――生贄がいるの。