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嵐の戦場


「なるほど。まさか砂漠の女王に恩を売れる者がいるとは。驚いた」


 俺と砂漠の女王の会話を遮るように魔王が発言する。

 ……こんなえげつない猛攻の中、平然と会話ができるんだからそりゃあ大物ではあるんだろうが、妙にカンに触る奴だ。


「ほらよ、殺す理由が知れたな。満足か?」


「……砂漠の女王よ。我の成そうとしている事は話したのか?」


「さて。なんのことやら」


「この世界を救う方法。この世界を、殻で覆い尽くす魔術のことだッ!」


 魔王が叫ぶ。

 その際に生じた僅かな隙。

 それを縫うようにして砂漠の女王の一撃が魔王の右肩へと叩き込まれた。


「ぐぅ!?」


 魔王の鎧に、僅かにヒビが入っているのが確認できる。


「チッ……逸らされましたか」


「……」


 先ほどまで饒舌だった魔王が途端に押し黙った。


「おいおい魔王さんよ、話は終わりか?」


 無反応。

 攻撃に対する防御や受け流し、迎撃は行なっているが……どうにも不気味だ。



「何をする気だ?」


 ほっぴーの怪訝な声。

 司令塔のその様子に、僅かに全体の攻撃が緩んだ瞬間。





「————ォオオオオオオ………ッ!!!!」




 心臓を鷲掴みにされたかのような、殺意と、圧。

 気がつけば俺は腰を抜かしていた。


 朦朧とする意識の中、砂漠の女王の声が聞こえる。


「お代官様。領地民の避難の方は……ええ、そうですか。では——領域、モード変更。撃滅」



 視界を埋め尽くすほどの、砂塵が舞った。






「あうーっ!」


 ……ハッ。


 一瞬意識がとんでいた。


「バンシー!」


「あう!」


 バンシーに肩を貸してもらい立ち上がる。

 正面では、黒い巨大な怪物……恐らく魔王と、砂嵐を纏う砂漠の女王がさながら大怪獣バトルの如き激しい争いを行なっていた。


「いや一応作戦会議で聞いてはいたけどこれは……」


 俺ら大怪獣バトルに混じらされる率高くない?



「おい! タカ!」


 声の方向へ振り向くと、顔が砂まみれになったほっぴーが駆け寄ってきていた。


「乗ってたケンタウロス・アマゾネスはどうした」


「別の気絶した奴を守ってる。それより空を見ろ! やべぇぞ!」


 空? ……おいおい。



 空にはカラスの群れのように——魔王から呼び出されたらしい魔族が複数飛び交っていた。



「攻撃にリソース割いたとしても転移はある程度阻害してんじゃねぇのか!?」


「魔王が逃げてねぇとこ見ると最低限は阻害してるんだろ。この数は想定以上だが……一応、作戦通りではある」


 そりゃあそうなんだがよ……。


「多すぎだろアレ。俺一人仕留めるのに普通に死にかけたんだぞ」


「幸い死ぬ以外はかすり傷だからな。安心して死にかけようぜ」


「嫌すぎる」


「何呑気に会話してんだ劣等種共ぉ」


 視界の端にカエル面の魔族がうつる。


「あっぶねぇ!?」


 咄嗟に飛び退くと同時に、先ほどまで立っていた地点にクレーターができる。

 カエル面の魔族の拳による物だ。とんでもねぇな。


「おいタカ! やれッ!」


「言われなくてもやるっての!」


 バンシーと連携し、一気に飛び出す。



「フン!」


 そしてカエル面の拳の衝撃波で吹っ飛ばされた。



 ……


「駄目だわこれ! 相性最悪!」


「ふざけんな!」


 転がった先で流れるように口論に入る。


 そんな俺たちの横を撫でるように、赤熱した何かが通った。


「熱っ!?」


「ははははははッ!」


 その赤熱した何かが聞き覚えのある声で笑った。


「……紅羽!?」


「はっはー! 最高の気分! あたしが最強っ!」


 紅羽のジョブは単なる魔術士ではない。

 ドラゴン・ブレスや火龍砲等の限られた系統の魔術のみを扱う——火龍術士だ。

 ではこのジョブが行き着く先はどこかなど、言うまでもない。



 ——火龍に、成る事だ。



龍人回路ドラゴニック・サーキットォ!」


 紅羽の内部の魔力回路が、作り変わる。

 かなり無理を利かせた魔術で、数分保てば良い方だ。


 だが、その数分だけは、確かに彼女は。


「あたしは」



 ——火龍だ。



 紅羽の髪色が全て紅く染まる。

 勝気な目にはギラつきが宿り、牙は鋭く、全身が赤褐色の鱗で覆われていく。


「がァ……ッ!」


「なんだ貴様……ぐおぉ!?」


 一つ。魔族にも負けないパワー。


「甘イ……!」


「ご、お……おぁッ!?」


 二つ。掴んだ腕からも放出されるドラゴン・ブレス。



「おい紅羽ッ!」


「あァ?」


「能力が切れそうになったらさっさと撤退しろよ!俺らがしっかり回収する!」


「分かッてるよ」


 三つ。飛翔。


 これらが龍人回路の力。



「……いや一応話には聞いてたけどよ」


 空中で魔族を相手に普通に戦っている紅羽を呆然と眺める。時折回復がとんでいるところを見ると、どこかで鳩貴族さんが頑張っているらしい。


「よし、これでしばらくは大丈夫だな。俺らは俺らで地上でちんたらやってる魔族を囲んでボコろうぜ」


「あいよ」


 短剣を構え直す。

 俺に派手さはねぇ。ただ誰よりも速く喉笛を掻き切れるだけだ。

 地道にやってこう。


「あう!」


 元気よく返事をしたバンシーを撫でてやりつつ、領域民の避難担当の奴らの事を考える。


 ……一応、表向きは会談として呼び出した為、全領域民を外に出しておくと怪しまれる可能性があった。

 その為に残った数十人と、避難の際にそれを守る人員数人。


「無事だといいが」


 魔王に負ければ俺らごと皆殺しなのは当然で、結局は俺達が勝たなきゃ話にならない。ならないんだが……。


 空を見る。想定外の数の魔族だ。

 あちらに数体行くような事があれば……。


「おーい、タカ!」


 遠くにガッテンが見える。ヴァンプレディも一緒だ。

 俺は余計な考えを頭から排除すると、ガッテンとさっさと合流すべく駆けた。




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