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八つの首と数多の触手

「ギャオッ!」


 ヤワタが影に組み付く。

 影は特に抵抗もなく引き倒され、大音量の甲高い金属音が戦場に響いた。


「よっしゃいいぞぉ! やっちまえッ!」


「いけぇ! そこだッ! 噛み千切れッ!」


 皆から温かい声援……というよりは競馬場の野次に近いものがとばされる。


「これ加勢しようにも出来ないな。あ、紅羽。ドラゴンブレスは」


「撃てる。やっちまって大丈夫か?」


 よし。

 

「ヤワタに当たらないようにな」


「分かった。――ドラゴンブレスッ!」


 炎の奔流が影に直撃する。


 

 ――ア、ハハハァ――――



 戦場に不快な笑い声がこだました。おそらく影だろう。

 こんな状況においてもキモさの最大瞬間風速を更新してきやがる。


「……うっわぁ」


 ドラゴンブレスが直撃した箇所。

 どろりと鉛色の表皮が剥げ、内部の黒い何かが露出していた。

 

 すかさずその黒い部分にいくつか魔法がとんでいく。

 火精ペリとオクテリの攻撃だろう。


 だがその魔法が到達するよりも速く、影の内部から触手が飛び出た。


 触手が互いに絡み合い防御の型をとる。


「おーっとそれはノットインテリジェンス!」


 オクテリが何やら叫んでいる。

 だがその感想は正しい。


「ギャウッ!」


 フリーになったヤワタがここぞとばかりに八つ首を駆使し殴打し、噛み付く。

 影が苦しげに触手を悶えさせ、ヤワタを押さえにかかる。


 そのまま触手と首の取っ組み合いが始まった。


 いてもたってもいられなくなってきた俺は後方にいるほっぴーに向け叫んだ。


「おいほっぴー! 俺らがアレに参戦できるような策は!?」


「はあ!? 俺を孔明かなんかと勘違いしてんじゃねぇだろうな!?」


 ほっぴーが悪態をつきつつ、眼前の戦いを睨む。


「……ヤワタによじ登って、影の上に着地して切りまくる」


「死ぬだろそれ」


「そうだな」


 そうだなじゃないが。


「んー、 その作戦、やりようによってはインテリジェンスでは?」


「うわ」


 ほっぴーの肩にそっと手を置き、即座にはねのけられるオクテリ。

 

「着地せずとも、一つの首に一人いて、攻撃を補助するだけでかなりインテリジェンスかと」


「あんな激しく動き回ってるのに乗ってられるわけねぇだろ」


「私は乗っていられますが」


「種族マウントか? 殺すぞ」


「オーウ、バイオレンス……」


 ほっぴーが無言で剣を抜き斬りかかる。

 オクテリはそれを杖で軽くいなした。


 何やってんだあの馬鹿共。


「なぁなぁ、タカ」


 隣の紅羽に肩を叩かれ振り返る。


「どうした」


「オクテリはアレに乗ってられるんだろ? ならあたし背負って乗っかればド至近距離でドラゴンブレス当てられるんじゃね? てか位置次第で首に乗らなくてもいいかもだし」


「……それは、そうかもしれんが」


 大丈夫なのか?

 言外にそう問う。


「いけるっしょ」


「軽いなぁ」


 一応提案してみるか。


「おいそこのじゃれあってる二人」


「あァ!?」


 こっわ。


「俺からインテリジェンスな提案があるんだが」


「ほほう!」


「……言ってみろ」


 オクテリが興味深そうに、ほっぴーは渋々といった風にこちらの話に耳を傾けた。


「オクテリが紅羽を背負ってヤワタに乗っかる」


「なるほどなるほど! ドラゴンブレスを至近距離で放つということでしょうか! それはなかなかにインテリジェンス!」


 オクテリが気合いを入れるように肩をぐるぐると回す。


「……まぁ、ギリ有りか?」


 ほっぴーもあまり乗り気でないにせよ、提案に頷いた。

 それを見ていた紅羽がニッと笑う。


「よし、じゃあさっそく行こうぜ」


「ええ! インテリジェンスな乗り心地を保証しましょう!」


 さぁ! といった風にオクテリがしゃがみ、背を差し出した。

 そしてその差し出した背に、横から思い切り蹴りが入れられる。


「ぐむぅ!?」


「私の盟友たる紅羽がそのような下賎な背中に乗るものかッ! さぁ、盟友よ。私の背に乗れッ! 共に戦場を駆けようではないか!」


 横からいきなり割って入ったのはレオノラだった。

 勢いのまま紅羽をかっさらうようにして背負う。


 そしてそのままその場で跳んだり軽く走ったりを繰り返した。


「どうだ! 私の乗り心地は!」


「あー……良いと思う」


「そうか! では出発だな!」


 レオノラが意気揚々と駆けていく。

 凄まじいブレの無さだ。どういう体幹してやがるんだアイツ。


「お、おぉう……まさか女帝から蹴りをいれて頂けるとは……」


 俺はオクテリの発言を聞かなかったことにしつつ、戦況を見守った。







 周囲の景色がどんどんと移動していく。

 この速度で良好な乗り心地をキープしているのだから尚更驚きだ。


「紅羽!」


「何?」


「楽しいな!」


「まぁ、ちょっとは」


 そう言うと速度が少し上がった。

 喜びどころが謎だ。


「そこの! ヤワタなる勇者よ!」


 レオノラがよく響く声でそう叫ぶ。

 ヤワタが首の一つをこちらに向けた。


「助太刀してやろう! 私達を乗せろ!」


「グルゥ」


 ヤワタが影への猛攻の手を少し緩め、首の一つを離脱させこちらに向けてきた。

 

「素晴らしい。是非この戦いが終わった後にじっくり語り合いたいものよ」


 レオノラが獣のように豪快に笑う。

 そして差し出された首に跳び乗った。


「うっわ!?」


「む、すまない。少し揺れる」


 そう言われ、レオノラの背により強くしがみつく。

 しばらくの揺れの後に、レオノラがこちらに向けて叫んだ。


「では、さっそく一発目を食らわせてやれッ!」


「もうちょっと待て」


「……分かった」


 こちらに気付いたのか影から伸びた触手がレオノラの乗る首に殺到する。

 ヤワタはそれを読んでいたらしく、その触手の殆どを横から噛みつき粉砕した。


「ハハ! 甘いぞ影!」


 残った触手はレオノラの懐から産み出された大量の救世の兵により阻まれる。


「……レオノラ、普通に強いじゃん」


「そうだ、私は強い」


「あたしも負けてらんないな。そろそろ撃てるよ」


 紅羽の動きを察してレオノラが前に出る。

 


「ドラゴン、ブレスッ!」



 圧倒的な炎の奔流が影に至近距離で直撃する。

 少し余波がきたのかヤワタが身体をよじった。


 

 炎がおさまった後に見えたのは、鉛色の大部分が剥げ落ちた影の姿。



 ――オオ……オォオオ……――



 遂に、影が苦悶の声をあげた。



 

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[良い点] 乗る………マウント…………………鳩貴族さん⁉︎
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