影を追い詰めた者達
「さて、どうしたもんかな」
大見得を切ったはいいが、俺一人では潰されて終わりだろう。
「やっぱ魔法主体での攻略になるか」
そうなると紅羽の出番だろう。
あとはほっぴーの火精ペリ。
……
「あれ……?」
俺達の戦力、魔法職率低すぎ……?
これはまいった。どうしよう。
物理職が討伐に貢献できる作戦を考えないと厳しいかもしれない。
考えなきゃ。
「…………よし、ほっぴーに丸投げしよう」
「呼んだか?」
声の方を振り返る。
ほっぴーだ。
「お前血まみれじゃん」
「お前もな」
そう言われ額を拭うと、手の甲が真っ赤になった。
「うわぁ」
「まぁ傷は塞がってるみたいだけどな」
塞がってなかったらやばいだろ。
「で? 状況は?」
「あー。魔法防御やら転移魔法とかに回してたリソースを全部火力とでかさに振り分けた、みたいな?」
「……チッ、俺らの編成じゃ厳しいな」
それだけ聞いてすぐにその結論にいきつけるのは流石だな。
「物理職も攻撃に参加できるような作戦は?」
「第一こっちの魔法がどれだけ効くかも分からんからな……」
ほっぴーが眉を寄せ影を睨む。
俺も同じようにして影を睨みつつ必死に頭を回す。
「……紅羽とスペルマン呼んでこい。悩んでる暇があったら一発でも多くぶちこんだ方が良い」
「わかった」
どの辺に倒れているか分からないが、とりあえず駆け出す。
「おーい! 紅羽ー! スペルマンー! ってか起き上がったやつ全員ほっぴーんとこ集合ーーーーッ!」
手をメガホンにしてそう叫びながら走り抜ける。
各所からちらほらOKだの了解だの聞こえるから、一応伝わってはいるだろう。
「主殿ーーーッ!」
途中ノイズが混じったが構っている場合ではない。
俺にはやらなければならないことがある。
「あうーーーー!」
バンシーちゃんのお腹にダイブし流れるような動作で腹枕に移行する。
いやー、これされないと回復した気になれないんだわ。
「あうあう!」
いやもうほんとあうあう。
もうつらすぎてあうあうになっちゃう。
「あ、主殿」
「あう?」
「いや、そのー……」
「なにもごもごしてんだハッキリ喋れやおぉん!!?」
「えぇ……」
しばらく口ごもっていたファーストおっさんだったが、意を決したように口を開いた。
「セカンドが、ですね。我輩と一つになりたいと」
「そ、そう。お幸せに……」
「そういう意味ではなくッ! 合成をしてくれとッ!」
え?
「俺を信用するまでそういうのやりたくないって話じゃ?」
「我輩にとって主殿は信用に値すると感じた、と。そういうことですな」
ファーストの後ろからセカンドが出てくる。
幽体離脱でもしたのかと思ったぜ。
「理由は?」
「器の広さ」
マジ?
やっぱ出ちゃったか。広さ。
いやもうほんと俺ってば器でけぇかんな。25mプールにも引けをとらねぇサイズだから。
「我輩は。自分を一度殺した者すら自分に利する者と分かれば引きいれる、その器に感服したのですぞ」
レオノラについて特に喋った覚えは無かっ……いや巡回中に暇すぎて自分語りしてたわ。
「そうか」
正直片方を経験値タンクにしたかったが……
まぁそこは本人の意思を尊重したいし、ちゃちゃっと合成しちまおう。
俺は寝そべったまんま合成の魔法陣を書いた。
「じゃあファーストがそっち。セカンドはそっち」
ファーストとセカンドが所定の位置についたのを確認すると、俺は魔法陣に魔力を流した。
「オ……オオオオオオオオオオオオオ……」
電流のようなものが迸り、おっさんが唸り声をあげる。
汚いなぁ。
しばらく待っていると、目も開けられぬほどの発光の後に、片方のおっさんだけが残った。
「……」
「主殿」
「おお。気分はどうよ」
「ほぼ全てを思い出しましたぞ」
合成直後だからか、口調が以前の物に戻っている。
「そうか」
「我輩は――」
「でも今それ聞いてる場合じゃないからさっさとほっぴーんとこ集合な」
「はい」
俺はバンシーちゃんを抱えるとほっぴーの元へ急いだ。
「遅ぇーぞタカ!」
「悪ぃ」
ペコッと頭を下げつつ、合流。
「で? 作戦は?」
ほっぴーがチラリと紅羽の方を見る。
「え? あたしが説明すんの?」
「いやもう説明よりやった方が早いかなって」
「ああ、そう。じゃあ」
紅羽が影の方を向く。
「スペルフォーカス」
「ドラゴンブレスッ!」
一点に集中した業炎が未だ蠢くばかりの影に放たれ、着弾する。
ゴォオ……
足元をずしんと揺らすような音。
影が心なしか苦しげに身をよじらせた。
「効いてる、か?」
「効いてないなら詰みだな!」
ほっぴーがそう言いあっはっはと笑う。
「……おい、作戦は」
「あぁ? 今やってるだろうが」
いや作戦じゃないだろ。
「俺ら物理職の仕事は!?」
「ああ。紅羽のドラゴンブレスのクールタイムの間に突っ込んでとにかく叩く」
ちゃんとあるじゃねぇか! 普通に先に言っとけや!
「あれ近寄って大丈夫なやつなのか!?」
「わかんねぇから一発ぶっこんで様子見たんだろうが。よし、全体前に進めー! まだ突っ込むなよー」
ほっぴーを先頭に全員がじわじわと影に近付いていく。
「タカ。掲示板魔法の起動よろしく」
「はあ? 何でだよ」
「避難所の連中に、あの蛇の化け物をこっちに向かわすように言え」
「……」
その指示を告げたあと、すぐに影の方を向いたほっぴーの肩を強く掴む。
「んだよ」
「蛇の化け物じゃなくて、ヤワタな?」
「名前つけてたっけ」
「俺がつけた」
ほっぴーが肩をすくめる。
「悪いな。じゃあヤワタを呼んでくれ」
「……領域を破壊する力をまだコントロールできてるとは言い難いぞ」
「だろうな。まぁ転移能力や機動力は死んでるっぽいし壁はもう壊しても大丈夫だろ。来ることのリスクリターンを考えると、圧倒的にリターンの方が多い」
「オークエンペラーは領域を弄くりすぎてヤバい状態らしいが」
そこでほっぴーは俺が言わんとすることを察したのか、呆れたような表情を浮かべた。
「おい、モータルの為に多数を犠牲にするって堂々と言い切ったじゃねぇか。ありゃ嘘か?」
「……いや。そうだよな。変な事言った、すまん」
俺は、何とも形容し難い気持ちに襲われつつも、掲示板魔法を開いた。