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影を追え side:タカ班


「おいタカ」


「あん?」


 背後のほっぴーに話しかけられ、そちらに顔を向ける。


「そろそろ遭遇すると思うぜ」


「なんで?」


 俺としては可能なら顔すら見たくないんだが。


「アイツお前のこと大好きじゃん。んでやられかけつったらお前の方に来るだろ」


「うわぁ」


 最悪すぎる。

 トドメの瞬間とか絶対気持ち悪いこと言ってくるじゃんアイツ。


「主殿」


「ん?」


「この班だけいささか人員が多いのは、最初からここだけは確実に会うと予想されているからでは?」


「まぁそうだろうな」


 まず俺。ファーストおっさんセカンドおっさん。バンシーちゃん。

 んでほっぴー。ケンタウロスアマゾネス、火精ペリ。


「火精とか役に立つか?」


「機動力が高い妨害役だ。火魔法でダメージは入らずとも視界を塞いだりはできる」


 ほっぴーの横で火精ペリがぐっと頑張るぞい!のポーズをとる。

 

「ならいいか」


 そこで会話は途切れ、無言の巡回が再開される。




 数分ほど歩き回っただろうか。

 オークエンペラーの声が耳元に届いた。


『七色の悪魔班が第二兵舎の前で交戦中だ。タカ班は食堂方面の廊下から接近せよ』


「あいよ」


 ほっぴーがケンタウロスアマゾネスに騎乗、バンシーがファーストおっさんに抱えられる。


「最速で行ってやるよ」


 






 景色があっという間に流れていく。

 この感覚にも慣れたものだ。


 食堂の前を通り過ぎた辺りで金属同士が接触し合う音を聞き取り、短剣を構える。



「七色の悪魔さんッ!」


「おお。影さん、挟まれてしまいましたね?」


 見れば、鳩貴族さんに散々デバフを付与されたらしい影と、スペルマンによりガチガチにバフを盛られた七色の悪魔さんが激しい打ち合いを繰り広げていた。


「やあ、ボクの光! また会えたね!」


「ああ、そうだな。そして次回は無い」


 間髪入れずに斬りかかる。

 

 ギャリギャリと金属を引き裂く音。

 当たった。


「はッ、ははは!」


 影が笑う。

 何がおかしい。さっさと死ね。

 そう思いながら放った二撃目は(すんで)のところでかわされる。


「背後が留守ですね」


 だが回避の隙が大きい。

 七色の悪魔さんの剣が影の肩に食い込む。


 ギャリギャリと甲高い金属音。

 

 影が触手を出し七色の悪魔さんに掴みかかる。

 

「おっと」


「ク、ソ……ッ」


 七色の悪魔さんがあっさりと剣を引いたことによりその触手は空を切った。


 ギャリギャリ。

 甲高い金属音が続いている。


「……」


「おや? 斬りかかってこないのかい?」


「なんだその姿は」


 金属音と共に影の身体が時折膨張し、傷口から手や顔や足……様々な人体のパーツが覗く。


「あぁ。切り札」


「チッ、おいさっさと殺すぞ!」


 そう口にした次の瞬間。


 俺の視界が鉛色で埋まった。












「う~ん、インテリジェンス・ヒール!」


 そんな間抜けな声と共に目が覚める。

 目に映ったのは青空と城壁。


「……どう、なった」


「ふむ。起床して即状況確認とはグッド・インテリジェンスですね」


「はよ言え殺すぞ」


「あっはい」


 オクテリに肩を貸されながら起き上がる。


「あちらをご覧下さい」


 オクテリの指差す方向にあるのは、何やら蠢く巨大物。


「……はッ、第二形態ってワケか」


 ほんとに死ねばいいのに。というか絶対殺す。

 そう決意を新たにしつつ、オクテリにたずねる。

 

「俺以外のやつはどうなった」


「我が王の迅速な対応により致命傷で済んでおりますねぇ」


「死者は出ないか?」


「ええ。まぁ、影も今はまだお着替え中のようですし。アレが完全体になる前に全員を復帰させてインテリジェンスを一発かましておきたいところですが。……では私は一旦これにて。次の患者をインテリジェンスせねばなりませんのでね?」

 

 インテリインテリうるせぇ。

 俺は去っていくオクテリの背中を横目に、お着替え中らしい影の方を見やる。


「……鉛色の巨大スライム、か?」


 いよいよまんまアレになってきやがった。

 サイズはあんなじゃねぇけど。


 城がまだあればその半分は満たしたであろう体積の何かが、ギャリギャリと音を立てて蠢いている。


「タカよ」


 声をかけられ振り返ると、オークエンペラーが口元から血をたらしつつ歩いてきていた。


「どうした」


「我を労わってくれても良いのだぞ」


「……ありがとよ。助かった」


「ガハハハハ! その素直さは貴様の美徳だな!」


 うっせぇ。


「して、アレの対処だが」


「俺に聞くなよ……つーかこっちの攻撃効くのかアレ」


「ふむ。我の見立てでは、魔法攻撃が通りやすくなっているはずだ」


「へえ。なんでだ?」


「おそらく転移魔法や魔法耐性に費やしていたリソースを別のところに回している」


「そりゃ、なんつーか……倒しやすくなったのか?」


「ああ。倒しやすくなった。お互いにな」


 なるほど。諸刃の剣を使ってきたってワケだ。


「つうかでけぇな」


「うむ。よほど変換術式が複雑なのだろう。あの巨大化は術式空間の確保もあるだろうな」


 流石に魔法のある世界出身なだけある。

 俺らじゃそんなことは絶対に分からなかっただろう。

 やはりオークエンペラーは優秀な人材だ。


「コイツぶっ殺せた暁にゃ、裏切り未遂の件は水に流すように砂漠の女王に進言しといてやるよ」


「そうか。程々に期待しておこう」


 おう。程々にな。


「……ふむ。タカよ。我をあまり戦力として期待はしないでくれ」


「何でだ?」


「領域を一気に弄りすぎた反動だ。専用の魔法陣を組んだヒールでないと回復し切れそうにない。砂漠の女王ほどの領域魔法の玄人であればこの程度でここまで負傷することも無かったのだろうが……」


「具体的にどうなってんだそれ。俺の傷と何が違う」


「魔術的な傷だ。分かりやすく言うなれば、異常な状態が正常な状態として上書きされている」


「……そうか」


 そのまま無言になる。


 しばらくして、オークエンペラーの元にオークジェネラルらしき個体が近寄り、耳元に何やら囁いた。

 

「どうした」


「ほぼ全員の復帰が完了とのことだ」


 そうか。

 立ち上がり、腰の辺りを探る。


「やっべ、短剣落とした」


 流石に拳じゃ抵抗できねぇ。

 周囲をキョロキョロと見回していると、おっさんが駆け寄ってきた。


「主殿!」


「ファーストか? ファーストだな!」


「ええ、そうです!」


「短剣よこせ」


「えっ」


 呆けるファーストおっさんから短剣を強奪する。

 まぁまぁの質のやつを持たせておいて良かった。


「あ、あの主殿」


「俺の短剣を探して持ってきたら返す」


「しょ、承知……」


 うむ。

 さて、久々なレイド戦だ。

 正直、渦風魔シルフィード戦やヤワタ戦で散々な目にあってっからレイド戦には苦手意識がある。

 でもやるしかねぇな。


「ぶっ殺してやっから覚悟しろよ影ェ!」


 俺はおっさんから強奪した短剣の切っ先を影に向け、そう叫んだ。

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