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幕間:とある領域民


 朝、頭痛と共に目が覚めた。

 どうにもベッドから出る気になれず、もぞもぞと寝返りを繰り返す。


 そうしていると、自室のドアがノックされ、ほどなくして人が入ってきた。


「おーい、そろそろ農作業の時間だぞ……どうした? 体調悪いんなら七色の悪魔さんとこの部署まで届け出してこい」


 もうそんな時間か。

 重い身体をベッドから無理やり引きずり、起床する。


「皆頑張ってるし、休むわけにはいかないよ」

 

「いやいや。今朝の朝礼でお代官さんが君達は貴重な人材だからちょっとでも身体に違和感あったら休めって言ってたばかりじゃないか。あまり無理をするな」


 そう言ってポンと俺の肩に手を置いた。

 そこまで言うならそうさせて貰おうかな。


「分かった。七色の悪魔さんのとこまで行ってくるよ」


 腰掛けていたベッドから立ち上がり、部屋を後にした。








「あの、七色の悪魔さんはいますか」


「七色の悪魔さんですか? 今は居ませんね。諸用があって外しているとのことです」


「そうですか。体調不良で作業を休むのでその届け出を出したかったんですけど」


「代理の者が居ますので受理できますよ。お名前をお伺いしても?」


「田中です。田中圭介」


 分かりました、と言って受付員の女の人がファイルを取り出し、中の書類をぺらぺらとめくる。

 領域民ひとりひとりのデータか何かだろうか。

 することも無いのでぼーっとその作業を眺める。


「……ああ、田中さん。残りの作業は全てこちらでやりますのでもうお部屋で休んで頂いて結構ですよ。正午には診察担当がそちらの部屋に伺いますので、その時間帯は寝るにしてもドアの鍵を開けておいて下さいね」


 俺はペコリと頭を下げ、自室へと戻った。








 さて、と。

 なんとも手持ち無沙汰な時間だ。

 掲示板魔法でも起動しようか。


 ベッドの隙間から魔法陣を書いた紙を引っ張り出す。

 ふわりと光った後に、見慣れた物が浮かび上がった。





・農家やってたけどなんか質問ある?part8


・【癒し】カーリアちゃん総合スレpart13【生きがい】


・ゴブリンのドロップ品を煮込んで食ったら下痢した


・武器がぶっ壊れて素手で戦い始めてから1週間経過した件について


・魔法考察総合スレpart10


…………

……





「相変わらずすごいな……」


 ドロップ品食ったり素手で戦ったりと、どうやら領域外でサバイバルを行なっている人間は苦労しているようだ。

 やっぱりこうやって具合が悪いってだけで休めるのは幸せなことなんだろう。


 そんな事を考えながらスレの一つを開いた。







46:名無し(スレ主)


 ゆくゆくは波動拳を出したい


47:名無し


 ウィッチに転職した方がはやそう


48:名無し


 やっぱウィッチが安定じゃね?

 武器の供給とか領域に住んでるやつでもない限り無理だろ


49:名無し


 領域に入れたやつほんま羨ましいわ

 つうか動画とかでのほほんと遊んでるやつらよりよっぽど俺の方が強いし使えるのに

 

50:名無し


 カーリア動画はカーリアちゃんにしか目がいってなかったわ


51:名無し


 カーリアちゃんは癒し

 カーリアちゃんは救い

 カーリアちゃんは宗教


52:名無し


 カーリア信者は総合スレいってどうぞ


53:名無し(スレ主)


 おい俺のステゴロ戦法考えてくれるんじゃないのかよ


54:名無し


 ジョブ変える方法見つかるまでパワー上げて殴るしかないと思われ


55:名無し


 領域から援助とかねぇのかな


56:名無し(スレ主)


 要望送ってっけど九州住みだから遠くて無理っぽいのよな


57:名無し


 領域はさっさと技術開示しろ





「技術開示、か」


 言われてみれば、この空間は異常だ。

 普段はこんな事を気にする人間ではないのだが、今だけは無性に気になった。


 時計を確認する。

 まだ午前9時。診察担当はまだ部屋にこないだろう。


「うぐッ……」


 頭痛がする。一瞬視界が暗転したような気さえする。

 でもそんなことは関係ない。はやく、行かなければ。










 気が付いたら会議室のような場所にいた。

 机には書類がいくつも広げられ、手にも数枚書類を握っていた。


 頭痛がする。


「このタイミングで十傑全員が遠征とはな。どうにもきな臭い」


 はて。

 今喋ったのは俺だろうか、それとも――




 ――意識が再び暗転した。











「…………きてください。田中さん。起きてくださいってば!」


 うぅ。


 目を開けると、見知った天井と、俺を不安そうに覗き込む男の人の顔。


「し、診察、ですか?」


「目が覚めましたか。ええ、そうですよ」


「いやすみませんすっかり寝入ってしまって……」


「いえいえ。構いませんよ。体調の方はどうですか?」


「……そうですね。頭痛が酷いです」


 寝起きだからかもしれないが、目の奥がチカチカと明滅しているのが分かる。

 不快だ。


「ふむ。頭痛ですか。熱の方は……おや。ありそうですね。風邪かもしれません」


 おでこに手を触れたあと、診察担当がふーむと唸る。

 そして掲示板魔法を起動し手を動かした。

 診察用のグループチャットを作っているのだろう。


「あの」


 俺が声をかけると、診察担当は視線をこちらに向けぬまま、なんでしょうかと口にした。


「十傑、ってどう思ってます?」


「へ? ああー、うん。正直よく分からない存在かな」


 頭に電流が走ったような痛み。直後、意識が一瞬黒く塗り潰される。


「……よく分からない、とは?」


「レクリエーションとかでその姿を見ることも多いんだけど、結局何をしてるのか不明っていうか。なんであんなに強いのか、なんで本名じゃなく変なコードネームを使ってるのか、とか。全部分からないんだよね。こっちの世界の人間じゃないんじゃないか、なんて話もあるけど……世界がこうなる前から知りあいだったって人も何人かいるからその線は無いと思うし」


 そこまで言って診察担当は不思議そうに自分の口をおさえた。


「今現在、十傑が全員遠征に出ている理由について思い当たることは?」


「全員じゃないよ。モータルって子はまだ領域にいる。遠征の理由については、うぅん、なんだろうね。資材の調達じゃないかな」


「そのモータルってのはどこにいる」


「三階の角部屋だよ」


「そうか。ではもう部屋を出て行ってもらって結構だ」


 診察担当がコクリと頷き、部屋を出て行く。


 頭痛が、する。



「オークの城への遠征。影の討伐作戦。臭うなァ。いったい魔女からどんな提案をされた? 十傑ども」


 俺が。獰猛に笑った。





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[一言] 何か憑いてる……? 十傑に対する民衆の認識利用されそう
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