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魔女との雑談


 あのワーム戦から数時間ほど経っただろうか。

 あと2戦は堅い、と豪語していたアルザの表情は、洋風の館が見えてくるにつれ曇っていった。


「はい勝ち」


「ま、待ってくれ。館内で戦闘を強いられる可能性もまだ……」


「ガルゥ!」


 三人が一斉に狼の背から投げ捨てられる。


「うお!?もっと丁寧にできねぇのかよ!」


 タカの悪態に、狼がフスッと鼻を鳴らす。

 そして洋館とは真逆の方向へ駆け出しあっという間に姿が見えなくなった。


「あの速度を見るに少しは僕らのことを考慮して走っていたようだね」


「……そうらしい」


 タカが土埃をはらいながら立ち上がる。


「おい、ジーク」


「あ?何?」


「レーダーまだ作れるか?」


「無理無理の無理」


「そうか……」


 肩を落としつつも目の前の洋館を見据える。


「入るしかねぇ、よな」


「そうなるね」


 無策で敵の懐に飛び込むのは背筋に薄ら寒さを感じるものだが、だからといって何かが準備できるわけでもない。


「行くぞ」


 タカの後ろに二人が続く。

 ナチュラルに先頭に立たされたタカは納得のいかない表情を浮かべたが、そのまま洋館の中へ足を踏み入れた。








 洋館の中に入って真っ先に目に飛び込んだのは、地平線が見えるのではないかと思うほどの長い廊下と、延々と1メートルほどの等間隔で配置されている扉だった。


「く、空間歪んどる……」


「まぁ空間はとりあえず歪めるものだよ」


「そんな電球はLEDだよね、みたいなノリで!?」


 タカの例えがピンとこなかったのか小首をかしげるアルザ。

 次いでLEDとは何か、とたずねてきたが、説明が面倒になったタカがジークに丸投げする。


「教えてやれ、ジーク」


「はぁ?そんな場合じゃなくね」


 マジレスされた。


「いや、まぁ、そうなんだけど……そうなんだけどさぁ……」


 タカのぼやきをガン無視して扉のいくつかをガチャガチャと動かす。


「だぁーめだこりゃ。アルザは?」


「うーん……」


 アルザも扉を物色し始めたので、つられてタカも近くの扉を開けようと試みてみる。


「……ん?」


「どした」「どうかしたかい?」


「いや……ここ開きそうなんだけど」


 慌ててアルザとジークが駆け寄る。


「どうする?」


「どうせここの主には感知されてるだろうし、さっさと開けようぜ」


 ジークの提案に、アルザがこくりと頷く。


「僕も同感だね」


「じゃあ開けるわ」


 ガチャ


 呆気なく開いた扉のせいか、つんのめり、そのままタカが室内へと飛び込む。

 それに慌てて続く形で二人も入室した。


「やぁ、やぁ。遠路はるばる、よく来てくれたね」


「……」


 洋風な机と、豪華な椅子に腰を下ろしている……ボロボロの黒いワンピースをまとった女性。

 彼女の皮膚は顔に至るまで繋ぎ目まみれであり、ところどころ緑や黄色、青、赤、等の別種の物と思わしき皮膚が用いられていた。


「さぁ。君達の椅子も用意してあるよ。座って」


 鷲の脚のような右腕で銀髪をかきあげつつ、赤い鱗がびっしり生えた左腕で着席を促す。


「あ、ああ。そうさせてもらおう」


 我に返ったアルザが慌ててタカとジークを引っ張り、座らせる。


「さて。私達はヒトと話をするのは久しぶりだから。こちらのリハビリを手伝うつもりで、雑談に付き合ってくれると嬉しい」


 そう言うと、ニコリと笑う。

 それは異常な皮膚の色さえ無視すれば、美しい笑みであった。


「……雑談?」


 何とかショックから解放されたタカが絞り出すようにして声を出した。


「そうだな。例えば。今日君達は私達に練成陣を教えてくれるそうだけど。それは私達の方が理解していると思うんだ」


 それを聞いた三人の表情が固まる。


「ついさっきね。拾った子がいるんだけどね。その子を調べたら、理解しちゃったんだ」


 魔女がそう言うと、部屋の奥から1人の男が歩いてきた。


「……シュウト、か?」


「おう」


 その男は、タカがオーク城内で天の石を砕いた際に現れたシュウトであった。


「逃げたかと思ってたが魔女に捕まってたのか……ああいや、ついさっきって言ってたか」


 どういう事だ?とタカが首を傾げる。


「お前らが来るタイミングで侵入すれば魔女が拾ってくれる……って影が言ってたからだよ」


「そう。影。小賢しい子だよね。一丁前に私達と取引をするつもりだったらしいよ。まぁ私達に会う前にオークに捕まってしまったようだけど」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。情報量が多い」


 タカにそう言われ魔女が口を噤む。


「……ごめんね。私達ももっと上手く喋りたいんだけど」


 うまく喋るとか喋らないとかの問題ではないだろう。

 彼我の持っている情報に差がありすぎる。


 それはアルザとジークも同じなのか、黙ってタカが質問を始めるのを待っている。


「あー、っと。一つ一つ潰してくぞ? ひとまず俺達の練成陣について、だ。理解したって言ったよな」


「うん。ありきたりと言ってしまえばそれまでだけど。面白いと思った点は幾つかあるよ。周囲の魂の残滓を積極的に取り込む性質とか」


「情報を増やすな……!」


 唸るようにタカが言う。

 まるで理解の及ばないタカに対し、アルザは少し思うところがあったのか眉がピクリと動いた。


「あ。あ。そうだよね、アルザ君は心当たりがあるよね」


「……すごーく、不愉快ではあるけどね」


 アルザが背を深くもたれたのか、椅子が微かに軋む。

 そのリアクションに、無垢な笑みで返す魔女。


「えへ。だって。アルザ君が殺した蝙蝠屋敷の主が復活してるんだもんね。不愉快だよね」


「……はぁ!?」「えっ」


 タカとジークがバッと一斉にアルザへ向き直る。


「そんな風に見つめられると照れるな」


「アルザ、てめぇどういう事だ。てかなんでもっと早くそれを言わないんだよ!?」


「イメージ悪いし、どうやら誰に殺されたか覚えてないみたいだったし。ほら、アレだ。言わぬが花って言葉が君達の世界にはあるんだろう?それだよそれ」


 そうあっけらかんと言ってのけたアルザに、二の句が継げなくなるタカとジーク。


「あれ。君達は知らなかったの?」


「……ああ、いや」


 練成陣の情報はこちらの取引の材料の一つだ。

 だがここまで解明されたものが未だに材料として使えるのか……

 いまいち踏ん切りのつかないタカが口ごもる。


「そう、だな」


「えへ。そうなんだ。思ってたより、ずっと、下等なんだね」


 とんでもない畜生発言をされ、タカの顔にうっすら青筋が立つ。

 それを察したのか慌てて魔女がフォローした。


「でも。私達は。どんな命でも価値があるって知ってるから。ね?」


 まぁこれがフォローになっているかは怪しいところだが。


「……そりゃどうも」


「えへ。えへ」


 にこにこと笑う魔女。

 それには相反して、気まずい空気が流れる。


 ……


「魔女、雑談中に悪いが本題について聞いておきたい部分がある。良いよな?」


 我慢ならなくなったのか、ジークがついに口を開いた。


「いいよ」


「モータル……俺達の仲間の呪いを治してくれるか? というか、治せるよな?」


「うん。でも、ね。治して欲しいんだったら、持ってきて欲しい物があるんだ」


 やっぱり、そうなるか。

 練成陣を先に理解された時点で予定していた取引は崩壊している。

 ではアレとは別に何を要求してくるのか……


 タカとジークがごくりと生唾をのみこんだ。


「……その、持ってきて欲しい物っていうのは?」


「魔王の首、だね」


 部屋の空気が、完全に凍りついた。




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[一言] おう……そうきたか
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