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洗礼、または魔女式挨拶

「……さぁて、と。魔女の森に到着だね」


 少し強張った表情のアルザ。

 無理もないだろう、たった今転移してきた俺達の眼前には――



「グルゥウ」


 ――巨大な白い狼が、立っていたのだから。


「お、おいどうすんだアルザ」


「安心しなよ。魔女なりのお出迎えだよ……多分」


「ほんとぉ?」


 ジークの煽り顔をスルーしアルザがその狼に話しかける。


「やぁ、ひょっとして君が魔女の場所まで案内してくれるのかな?」


「……」


 狼が無言でクイッと顔をあげ、背を向ける。


「背中に乗れって事かい?」


「ガァウッ!」


 分かってんならさっさとしろとばかりに吼えかけられ、アルザが肩をすくめる。


「というわけで。乗ろうか」


「アルザさん狼のよだれついてますけど」


「うるさいな!知ってるよ!」


 ジークとタカが、どちらがよだれ付きアルザの後ろに座るかの相談を始めたのを横目に、アルザが狼の背に跳び乗る。


「二人とも!はやくしなよ!」


「じゃんけん、ぽん……ハッハー!どうだ雑魚がぁ!」


「うわ……最悪……」


「ねぇそこまで嫌かい!?」



「グルゥッ!」


 なかなか乗ろうとしないタカとジークに業を煮やしたのか、はやく乗れ!とばかりに狼が抗議の意を込めた唸りをもらし、前足で地面をたしたしと叩いた。

 

「おらさっさと乗れよジーク」


「りょ」


 ふてくされた態度でジークが狼に乗る。

 そしてそれに続けてタカがジークの後ろに跳び乗った。


「ジーク君。僕の腰に手を回しておくといい。これは予想だけど……かなり揺れるよ」


「え?胸ないじゃん」


「そりゃ男なんだから無いに決まってるだろッ!」


 アルザの叫びが森に響き渡った直後、狼が魔女の根城に向け出発した。










「吐きそう」


「頼むから降りてからにしてくれるかな」


 乗車客のことなどまるで考慮しない走りで森を駆け抜ける狼の上で、ジークの顔がだんだん蒼白になっていく。


「乗り物弱いんだよ俺……」


「普段部屋に篭ってるからだろう!運動をしなよ運動を!」


「モータルの治療が済んだら考えとく……ウェッ」


「誰かLemon歌った?」


「歌ってねぇ」


「君達いったい何の話を……うぁあああああ!?」


 唐突に狼が停止し、上に乗っていた三人が転がり落ちる。


「グルゥ」


「と、到着って事かな?」


「……」


 狼はアルザの問いに答えるでもなく、ただ一点を見つめたまま固まっていた。

 だがその視線の先には人の住むような場所どころか森の他の場所と変わらない光景があるばかり。


「アルザさんよ、隠し扉的なサムシングがあると俺は睨んでるんだがどうよ」


「む、確かにそうかもしれないね。探してみようか」


 タカとアルザがそう話している間に、ジークが懐から金属を取り出しカチャカチャと何かを組み立て始めた。


「何を作ってるんだい?」


「レーダー。まぁアイテムにもトラップにも同じ反応示すから微妙だけど」


「そういやお前のジョブ製作士だったな」


「おうよ。メインで育ててたのは狙撃手だけど」


 ある程度組み立てたところで魔法陣がふわりと浮かび、レーダーというよりは虫眼鏡に似た形状のアイテムが生成された。

 そしてジークがそのレーダーにあるレンズのような部分を覗きこむ。


「あー……反応、無し!」


「おい」


「しょうがねぇだろ。素材もしょぼいし低ランクのレーダーしか作れなかったんだよ」


 使用した事でボロボロと崩れ砂となったレーダーをその辺に捨て、肩をすくめるジーク。


「まぁそこにコストは割けないから仕方ないっちゃ仕方ないか」


「つーかさっきの素材も現状じゃ結構入手しんどいやつだからな」


「そうか。おーい、アルザ。こっちはもう手詰まりだ」


 しきりに手を動かし何やら探っていたらしいアルザがその動きを停止させ、タカとジークに呆れたような視線を返す。


「んな目で見られても無いもんは無いぞ。な?」


「エネミーレーダーも作ってみるか」


「それもあったか。……うーん、意味あるか?」


「一応な、一応」


 ジークが再び製作の準備に入る。

 先ほどと同じような工程を経た後、スコープのようなものが生成された。


「お?」


「なんかあったか?」


「地面の中になんかいるっぽい」


「マジか。アルザ!地面の中だ!探ってみてくれ!」


「なんかいるって言われた直後にかい!?」


 アルザが抗議の声をあげつつ手持ちの矢を手に取る。


「……ああ、バレてるな。君達、武器を――」


 ふわりと腐敗した肉と、使い古した牛皮の靴を混ぜたような強烈な臭いが漂った。


「うぉおおおああああ!?」


 地面から次々にカギ爪のついた触手が生えてくる。

 それをジークを抱えとびのくことでギリギリ回避するタカ。


「きっしょくわりぃ!?なんだコレ!?」


「魔女なりの歓迎だろうさ!……ふふ、でも僕を初撃で落とせなかったのは残念だったね!」


 アルザが背負っていた弓を手に持ち、ぐいと引き絞る。


「食らえッ!」


 ドン!という鈍い音。

 その直後、地面が爆ぜた。



「おわぁあああああああああ!!!?」


 余波で吹き飛ぶタカとジークを狼がキャッチした。


「お、おぉう。助かった」


「ガウ」


 そのままもうもうと立ち込める砂煙を見つめる。


 しばらくすると、アルザが砂塵をはらいつつ出てきた。


「やぁやぁ。ジーク君、助かったよ。君のレーダーが無ければもう少し手間取るところだった」


「ガウ」


 狼に催促され背に跳び乗るアルザ。

 タカ、ジーク、アルザの順で三人が乗ったのを確認すると、狼は再び進み始めた。


「……アルザ、お前やべぇ臭いするけど分かってる?」


「ワーム系モンスターにはよくある臭いじゃないか。慣れなよ」


「いやキツいわ」


 ガクガクと揺れる狼の背で、三人が身を寄せ合い話し合う。


「ところで二人とも、賭けをしないかい?この手厚い歓迎についての賭けだ」


「は?」


「大穴として、魔女の歓迎はこれで終わりで僕達はこの後無事に魔女の根城に到着できるってのがあるけど」


 ジークとタカが目を合わせ、声を揃えて言った。


「「大穴で」」


「ひゅう、チャレンジャーだね。僕はあと二戦あるに賭けるね」


 その言葉に、二人から呻き声が漏れた。



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