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会議は踊り……

「では、会議を始めよう」


 お代官さんの声に応じてほっぴーが立つ。


「はい。じゃあ俺らの目標を確認しようか」


 ガラガラと時の呪術師がホワイトボードを引っ張ってくる。


「モータルの治療、だ」


 ほっぴーがペンでそのままホワイトボードに書き込む。


「んな事分かりきってるだろ」


「分かってても脱線するのがお前らだからな」


 俺は言い返そうとしたが言葉に詰まり、もにょもにょ言いながら引き下がった。


「んでこれを確実に達成できる条件は魔女の協力。この認識までは皆、相違無いな?」


 ほっぴーが会議室をぐるりと見渡す。

 特に意見はない様子を確認したのか、一度頷き話を続けた。


「で、だ。ここで確認しときたいのは……俺達の交渉の場はどういうとこなのかって事だ」


 ホワイトボードに雑な雲のような絵が描かれ、「森」と書き殴られる。

 そしてその中心に雑な丸が描かれ、「魔女」と書き殴られた。


「えー、魔女のいるとこはこんな感じで――」


「雑すぎる」


「その図要る?」


「有能面してっけどホワイトボードに落書きしてるだけじゃん」


「うっせぇな!!!!黙って聞いてろ!!!!!」


 鬼の首をとったように騒ぎ立て始めた十傑達をほっぴーが一喝し黙らせる。


「いいかお前ら。この森ってのは単なる森じゃない。魔女とやらが練成したらしい化け物が闊歩する裏ボスダンジョン並の場所だし……どうやら転移が完全に阻害されるらしい。これがどういう事か分かるか?」


 その問いに対しお代官さんが挙手をする。


「いいかね?」


「形として問いかけをしただけで本当に問いかけた訳では無かったんですけど、そう言うのなら正解が分かってるはずなのでどうぞ」


「言い方の悪意がえぐすぎないかね!?……あー、アレだ。魔女の一存で出入りの可不可が決まるという事だろう?」


「流石お代官さん」


 しっかりと手のひらを返したほっぴーは更に続ける。


「つまり、だ。無茶な条件ふっかけられても迂闊に抗議が出来ないっつーこったな。で、まぁそれに関しちゃ魔王軍側も同じなはずだが……それだけのリスク払って得ようとしてるものが何なのか……」


「……ああ、すまん。そこはメインじゃねぇんだわ。重要なのはその何かを得る為に相応の対価を用意してるはずって事だ」


「対価ってあたしらの錬成陣じゃないのか?」


「んなわけねーだろ。こんな運だよりのクソ錬成だけが策なんざ嘘に決まってる……本命の対価は他にある。絶対にな」


 ほっぴーがそこでニヤリと悪人そのものといった笑みを浮かべる。


「だから、それを奪う」


 しん、と会議室が静まり返る。


「……出来るのかそれ」


 思わずといった風でそんな言葉を口にしたタカ。それに続くように数人が懐疑的な声をもらす。


「まぁ待てや。俺の見立てじゃその対価を持ってくのは今回じゃねぇ。今回はおそらく話をするだけだ……こういう取り引きができますがどうですか?ってな具合にな。アルザが言ってたろ?話し合いをしに行くんだって」


「じゃあ次回……本命の物を届けに行く時を狙って奪う、と。そういう事ですか?」


 七色の悪魔の発言にほっぴーが頷く。


「ふむ。確かに一度ここ……砂漠を経由して出発するわけですから不可能ではないですね」


「だろ?やれる。んで奪ったもんと引き換えにモータルの治療を要求しに行きゃ流石に頷くはずだ」


「盗品と取引をするような人物なのかね?魔女というのは」


 お代官の疑問の声に少し眉尻を下げるほっぴー。


「そこは今回の話し合いで判断するしかねぇ。ダメならこの案は丸々ボツだな」


 そこでほっぴーがピッと人差し指を立てる。


「ただこれはもしもの時のサブプランだ。あくまでメインプランは今回の交渉で治療をして貰えること」


 そこまで言うとほっぴーが少し肩の力が抜けた様子になる。


「てなわけで俺のプレゼンはおしまい。他にサブプラン用意してきてるってやつは挙手な」








 数十分後。


「ほっぴーのサブプランが一番まともか。運ゲーに変わりはないけど」


 ホワイトボードに書かれた数々の案を眺めながらガッテンが呟く。


「じゃあサブプランの第一候補は俺のにするとして今回の編成を考えるか」


「俺が行こう」


 挙手したタカに視線が集中する。


「……あぁ?んだよ。俺は割と適役だと思うが」


「まぁ口が回るからな。よし……じゃあタカは決定として……」


 ほっぴーがうぅんと唸る。


「今回はそんなに人員を送る意味がないんだよな。タカとあと一人ぐらいに留めたい。サブプラン実行の準備があっから俺は無理として……口の回るやつが欲しいな。タカの悪知恵やら嘘に瞬時に乗っかれるような……」


 ほっぴーの視線が会議室の中をさまよい、やがて一人に固定された。


「は?俺?」


「お前だ、ジーク。行け」


「命令かよ。別に良いけど」


 ジークが席を立ち、背伸びをしてから言う。


「じゃあとりまアルザんとこ行くか」


「分かった」


 タカが席を立つ。


「おーい、砂漠の女王ー!アルザのいる部屋に移動よろしく!」


 その声の直後にタカとジークの姿が会議室から消えた。









「アルザ、今どんな感じ?」


「うっわぁ!?」


 唐突に声をかけられ肩をビクリと跳ねさせたアルザ。


「あのねぇ!君達さぁ!」


「モータルの容態の詳細はよ」


 ジークの急かしに文句を遮られたアルザが、諦めたように深く溜め息をつく。


「……応急処置は済んだよ」


「アルザの目から見て最低何日はもつ?」


 タカの直球な質問にアルザが渋面を浮かべる。


「かなり厳しいね。でも一週間かな。治療後の後遺症を考慮しない日数だけど」


「……クソが。アルザ、さっさと魔女のとこに行こう」


 はいはいと返事をしながらアルザが地面に置いていた武器や鞄を背負う。


「一応、言っておくけど……行くって事は伝わってる、でも問答無用で化け物をけしかけてくる可能性はあるからね」


「狂ってやがるな」


「ああ。彼女は狂ってるよ」


 飄々としたアルザの表情の中に微かに浮かんだ、激しい感情。

 ジークがそれを伝えるためか、タカの脇腹を軽く小突き、タカもそれに小突き返す。


「どうしたの?」


「いや何でもない。……出発しよう。砂漠の女王、頼む」


 その言葉の直後、三人の姿が一瞬揺らぎ、消失した。







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