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覚悟


砂漠の女王:タカさん居ますか


タカ:いるぞ


砂漠の女王:早急にこちらに戻ってきていただきたいのですが


砂漠の女王:モータルさんを背負って3キロほどの移動は可能でしょうか


タカ:マジか


砂漠の女王:そこそこの確率で誰かしらが空間の裂け目に両断されますが直でゲートを繋ぐのも可能ではありますよ


タカ:移動しまーす





「相変わらずイカレてやがる」


 事情を伝え、モータルを運ぶ用の担架を持ってきて貰うのを待っている間に俺の緊急招集について考える。


「俺にお呼びがかかるって事は、アルザに聞きに行くだけじゃ解決できない問題だったっつー事か」


「……主殿」


「あ?」


 おっさんが何度か口を開き、躊躇いがちに閉じる事を繰り返す。


「さっさと言えよ」


 そんな俺の言葉で踏ん切りがついたのか、ようやくおっさんが発言した。


「主殿、いざという時の覚悟はしておいた方がよろしいかと」


 いざという時?

 俺は一瞬悩んだ後にその意味を理解した。


「ふざけんな。俺がするのはモータルの命を背負う覚悟だけだ」


「……そうですか」


 おっさんの言った言葉の意味は、こうだ。

 いざという時にモータルを切り捨てられるか?


 ……胸糞悪い。


「十傑に引きこんだのは俺だ。俺が責任を持つ」


 正確には俺とジークだが。


「いえ、いいんです。失言でした」


「あうあう」


 俺の機嫌が悪くなったのを察してかバンシーが俺にお腹をぐいぐい押し付けてきた。

 

「ありがとよ。大丈夫だ」


「あう!」


 気がいくらか落ち着いた。


「……おっさんの心配はもっともだよ。間違った事を言ったわけじゃない」


「なら、良いです。……ところで、モータル殿を十傑に引きこんだ、というのは?」


「ああ――」


 モータルとは聖樹の国の魔物使いとはまた別のMMORPGで会った。PK機能の調整をミスって徐々に人が減っていたやつだ。


「懐かしいな。山賊ロールが楽しかった」


 やがて俺とジーク、そしてやたら対人が上手いモータルのスリートップの山賊団はそこそこの規模になり、周辺の街の治安が悪化してきた辺りで大規模なギルドにぶっ潰された。

 

「よく分かりませんが、ろくな事じゃないのは分かります」


「おっさん、教えといてやろう。世の中はな、ろくでもねぇことに限って楽しいんだ」


「あうあう!」


 バンシーが俺に同調するように手をぶんぶんと振る。


「それについては我輩も否定しませんが、うぅむ」


 非常に不本意ながら、といった様相で俺の発言を肯定するおっさん。

 わはは、そうだろうよ。いや、本当に――楽しかった。

 あの頃みたいに何の責任も背負わずに馬鹿をやりたいもんだが、俺らは本当に十傑になってしまった。

 


「タカさん!担架用意できました!」


「そうか」


 俺は地面に置いていたリュックを背負いなおし、モータルを担架に乗せるのを手伝った。









タカ:おい、そろそろいいだろ


タカ:三キロは進んだぞ


砂漠の女王:もう数百メートル行けますか


タカ:最初からそう言えや


砂漠の女王:いえ、オークの城が予想外に邪魔で


砂漠の女王:と、言うか。この邪魔さは異常ですわね。意図的なものを感じます


砂漠の女王:モータルさんの件が終わったら問い詰めるとしましょう


タカ:うっわぁ


タカ:トラブルが絶えないなマジで


砂漠の女王:ほんとです


砂漠の女王:お代官さんとわたくしを残して全て消滅させたくなります


タカ:やめろ


砂漠の女王:あ、その辺ならいけるので止まってください






「本気で言ってるだろうから油断できねぇ」


「主殿?」


「ん?ああいや、こっちの話だ」


 油断しようがしてなかろうが俺程度、虫けらのように殺すことができるのは分かってるが。


「お代官さんにチクるぐらいの事はするぜ俺は……」


 直後、転移特有の酩酊感が俺を襲った。









「お帰りなさいませ」


「もっと丁寧にやれねぇのかよ。こっちは怪我人もいるんだぞ」


 到着と同時に文句をたらす。


 手が赤くなるほど握った担架。

 その上には相変わらず物言わぬモータルが横たわっていた。


「……これは」


 砂漠の女王の表情が厳しい物に変わる。


「応急処置ぐらいはできると思っていましたが」


「それは僕がやろう」


 砂漠の女王の背後から現れたのはアルザ。


「他の方の準備を手伝うのでは?」


「そんなのすぐ終わったよ。てか僕らは穏便に話し合いをしに行くんだよ?」


「普段は取り出しもしない弓を携帯している時点で説得力はないですよ」


 言われてみれば、アルザは背に弓を背負っている。

 珍しい。いつもは矢単体をぶん投げて戦っているというのに。


 アルザは俺と砂漠の女王の視線に、軽く肩をすくめる。


「口がきけるぐらいにはしてあげるよ」


 俺の持っていた担架が急に軽くなったと思えば、ふわりと浮いてアルザの方へとゆっくり移動していく。


「完全には治せないのか」


「そりゃあそうさ。魔女の生み出した怪物の中でもとびきりの厄介者が施した呪術だ。応急処置ができるだけ有り難いと思いなよ」


「……ああ、分かった。はやく少しでも楽にしてやってくれ」


「はーい」


 アルザがひらひらと手を振り、廊下を歩いていく。

 その後ろを担架がふわふわと追従する。


「……」


 アルザが廊下の角を曲がり、姿が見えなくなるまでただただ見守った。


「主殿。他の十傑の方々と合流しましょう」


「ああ。砂漠の女王」


「会議室に集まっていますよ」


「移動させてくれ」


 そこで砂漠の女王が顔を顰める。


「……できないのか」


「最近使いすぎたので省エネモードです」


「分かった」


 砂漠の女王に頼りすぎかもしれないな。

 俺はおっさんとバンシーを連れて足早に会議室へ向かった。





「入るぞ」


 会議室の扉を乱暴に開ける。


 目に入ったのは、ジーク、紅羽、ガッテン、鳩貴族――ほっぴー、七色の悪魔、スペルマン、お代官さん。

 そしてミノタウロスやケンタウロスアマゾネスら初期魔物。

 ざっくり言えば、モータルを除く十傑の主戦力が勢ぞろいしていた。


 こんな狭い会議室で何やってんだアホ共、だとか、魔女んとこに行くのは四人じゃなかったのかよ、とか色々な文句が浮かんでは言葉に出ず消える。


「……仕事は良いのかよ」


 辛うじて出たのはそんな言葉。

 それを全員が鼻で笑うと、ほっぴーが冗談めかした口調で言った。


「モータルと仕事、どっちが大事なの?」


「は、はは……」


 かすれた笑いだけを返し、一番手前の席に座る。

 それを確認したお代官さんがごほんと咳払いをし、宣言した。


「では会議を始めよう」




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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも内ゲバしてるのにこういう時に協力するのが心にキてちょっと卑怯だと思います
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