救うための第一歩
「と、言う訳で」
ほっぴーの眼前に揃って立つ、紅羽、ガッテン、ジーク、鳩貴族の四人。
「準備は良いか?」
その言葉に四人がこくりと頷く。
「ちな二時間しか寝てない」
「は?おい」
ジークがピースサインをしつつ目だけで少し笑う。
「まぁカフェイン摂取すりゃいける」
「お前は……お前は本当に……」
眉間をおさえて深く溜め息をつくほっぴー。
それを横目にジークが懐から取り出したエナジードリンクをあおる。
「んぐっ……はぁ。おい、いいからはやくゲート開けよ」
「……ガッテン、頑張って手綱握ってくれ」
「無茶言うな。腕ごともってかれるわ」
「いやでもホラ、鳩貴族さんも居るし。二人で良い感じに協力してくれ」
鳩貴族とガッテンの視線が交わる。
そして同時に溜め息をついた。
「鳩貴族さん、頑張ろう」
「そうですね」
二人の友情が密かに高まりつつある中、紅羽がポツリと声を漏らした。
「え?あたしもそっち側じゃないの?」
「「それは無いわ」」
「狂犬の自覚がお有りでない?」
「は?」
瞬きをする間に内ゲバを始める四人に慌てて割って入ったほっぴーが叫ぶ。
「砂漠の女王さんさっさとゲート開けて!キリがねぇよ!」
『はい』
ほっぴーの声に応じてゲートが開かれる。
『一応伝達はいってあるので』
「だ、そうだ。行って来いお前ら。話だけ聞いたらさっさと戻れよな」
その雑なエールを背に四人はゲートへと押し込まれた。
「おぉえぇ……さっき飲んだエナドリ出てきたぁ……」
「ようこそ魔王城へ……うっわ汚いなぁ!?」
ジークのリバースカフェインを飛びのいて避けるアルザ。
「睡眠不足が祟ったっぽい……おぇえ……」
「えーと……とりあえず僕の部屋で仮眠でもとるかい?」
「お?マジ?タカ達が魔道書パクってきたあの部屋?」
「いやそことは違……やっぱ本盗ったの君らだったんだね!?やめてよそういうの!」
「あの、そろそろ本題に……」
アルザはまだ何か言いたげだったがそれを無理やり飲み込み、ガッテンの言葉に首肯した。
「まぁ本は後で返して貰えばいいし、うん。一旦保管してもらったと思えば、まぁ」
「あ、あたし達がPDF形式にしちゃったけど大丈夫か?」
笑いをおさえきれなかったのか、鳩貴族の鼻がフスッと鳴る。
「えぇと、PDFって?ひょっとして君ら独自の魔術?」
「え?あぁー……」
回答に困った紅羽の目が泳ぐ。
「いやほら、こっちも切羽つまってたから、な!?」
強引にガッテンが誤魔化すが、アルザは依然として釈然としない表情を浮かべ言った。
「いやそのPDFについて教えて欲しいんだけど」
「本をあらゆる場所に送れる魔法みたいなもん」
ジークが口元をぬぐいながら行った雑な説明。
アルザがそれを吟味するように何度かふんふんと首を振る。
「ひょっとしてアレかな?カーリアちゃんのエロイラストが一気に広まったのってその魔法?」
「いやそれはまた別ですね」
「えぇ……」
鳩貴族の返答に引き気味なアルザにジークが追い打ちをかける。
「俺ら、噂の拡散手段だけはどの種族にも負けない自信あるよな」
「そ、そうなんだ。最低だね……」
完全にドン引きモードに入ったアルザをじっと見つめていた鳩貴族。
その表情が喜色に染まる。
「やりましたね、ガッテンさん。ツッコミは暫くアルザさんに任せられそうですよ」
「だな。いやー、助かった」
「よく分かんないけど、ひょっとして僕とんでもない重荷背負わされてないかい?」
鳩貴族とガッテンはアルザからそっと目を逸らした。
それから数分後。案内されたアルザの自室にて四人は腰を落ち着けていた。
「さて、本題に入ろうじゃないか」
ジークが何か言おうとするのを魔術らしきもので封じ、アルザが続ける。
「幸運なことに、今僕達が会いたい人物と君達が会いたいであろう人物は合致している」
紅羽が何か喋ろうとしたのを威圧して封じつつ、アルザが更に続ける。
「モータル君に呪術を施した古の大狼……を、錬成した魔女だ。彼女には僕らも用があってね」
そこまで喋った辺りでようやくジークの口の拘束が解除された。
「練成?」
「そう。彼女は錬成の天才で……重度の錬成ジャンキーだ」
そこで鳩貴族が挙手をし質問をする。
「話を聞く限り、タダで呪術を解いてくれるような人物には思えませんが、何か策がお有りで?」
「良い質問だね」
「池上彰さん!?」
ジークがアルザの魔術で再び口を封じられる。
「策は君達だよ。いや、厳密に言えば君達の用いる錬成陣かな」
「ガチャか」
「その名称はよく分からないけど、あのランダム性と幅の広さは僕も非常に興味を抱いている。魔女も同じなはずだ」
「……まぁそれは良いけどさぁ、魔女ってのはどこにいるんだよ。あんまり遠出すんならあたしらにも準備ってもんがあるぞ」
「魔女の森だ。遠出ではあるけど、砂漠の女王が協力してくれればすぐにでもいけるはずだ」
アルザの言葉を吟味する四人。
「むーっ!ぐむーっ!」
「あぁ、ごめん」
ジークの口の拘束が解かれる。
「こっちはタイムリミットがどのくらいあるかも分からない状況だ。さっさと行こう」
「ジークがまともな発言を……!?」
「うっせぇ。モータルの命がかかってんだよ」
「そうか。じゃあさっさと行くとしよう」
アルザがすくっと立ち上がり何やら宙に文字のようなものを書き始める。
数瞬後、ゲートが開いた。
「数分したらまたここにゲートを開くよう、砂漠の女王に言っておいてね」
「りょ」
次々と四人がゲートに入り姿を消していく。
そして部屋にポツリと残されたアルザが虚空に向け話しかけた。
「どうです?魔王様」
「……脅威になるようには思えんな」
ふわりと姿を現した魔王。
先程まで四人が座っていたソファに座り込むと、うぅむと唸った。
「人間としては強い部類ではあるが、決して特級レベルではない」
魔王はそこで言葉を区切ると、少しため息混じりに続けた。
「だが砂漠の女王やオークエンペラーを味方につけている……それだけで警戒に値するだろう。全く、どうやって取り入ったのやら」
「そうですね。あ、あとカーリアちゃんも」
「……」
アルザの言葉をうけた魔王が無言で宙をあおぐ。
そしてポツリと言った。
「アレはもうよく分からん」
「僕も同感です」