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幕間:???と魔王


「死体を回収しておけ」


 少し疲労が滲んではいるが、確かな威厳を持った声が玉座の間に響く。


 その声に応じ現れた魔族三人。

 血と破壊に塗れた玉座を申し訳程度に清掃した後、倒れ伏した人間三人を背負い部屋を去っていった。


「……」


 玉座に座る魔王の全身を覆う黒い鎧。その鎧の隙間からギラついた赤い光が漏れ出ていた。








 

 場面は変わり、死体を運ぶ魔族達に移る。


「いやぁ、マジで魔王様一人で殺しちまうなんてなぁ」


 グロテスクな程に赤い一対の角を持ったいかつい魔族がガハハと豪快に笑った。


「ええ、さすが我が王です。これならばこの戦争も勝つに違いない」


 腰にレイピアをさし、まさに貴族といった服装を身に纏ったヴァンパイアも釣られて口元が弧を描く。


「ちょっと、もっと丁寧に運びなさいよ。魔術の触媒になるんだから」


 浮ついた様子の二人をたしなめたのは、ローブをまとい腰に杖をさしたサイクロプス。

 その言葉に渋々頷きつつ、二人は死体を背負い直そうとし――


「ッ!?」


 ヴァンパイアが泡を食ったような様子で死体を投げ飛ばした。


「何やってんのよッ」


「御二方、構えてください」


 その表情を驚愕に染めたままヴァンパイアが叫ぶ。


「ソレはまだ生きています・・・・・・!」


「はぁあ!?」


「何だと!?」



 赤角がファイティングポーズを取り、サイクロプスが杖を構える。


 ゴクリとつばを呑む音すら聞こえそうなほどの静寂。

 そんな時間が数刻ほど続き――



「まぁヴァンパイアに素手で抱えられてたら流石にバレるか」


 ひょっこりと死体であったはずの男が起き上がった。


 その男は、十傑と魔王の伝令役との間でも話題にあがった「正体不明の男」である。


「……動くな」


「おいおい、せっかく死んだふりを止めたばっかりだってのに。動くなって?」


 男はその端正な顔を笑みの形に歪めると、底冷えのするような声で言った。


「お前らの方こそ動くな」


 その言葉を言い終わるかどうかのタイミングで、サイクロプスの魔法が男の身を襲った。

 男の全身が鎖のようなもので覆われる。


「わたしの手でもう一度死体にしてあげるわ!」


 そう叫ぶサイクロプスに男は冷めたような視線を返した。


 その次の瞬間、鎖を燃やすようにして消すと、子供をあやすような口調になり言った。


「魔王サマを呼ばなくていいのかい?」


「……ここは魔王城だぞ、愚か者め」


 ヴァンパイアがニヤリと笑うと同時に、三人の魔族の合間をすり抜け、黒い巨大な物体が男へと直撃した。


「あまり部下をいじめないでくれるかな?」


「魔王様!」


「下がっていろ。この戦いで数は利にならん」


 魔王の言葉に頷き、三人がこの場を去る。


 残されたのは魔王、そして正体不明の男。


「よう、魔王サマ。まだ証拠は集まりきっちゃいねぇが……現行犯逮捕だ。罪状は要るか?」


「何を言っているかさっぱり分からんな」


「とぼけてんじゃねぇよ。俺が何なのか分かるだろ?」


 その問いに魔王の鎧の奥から嘲笑が響いた。


「魔術の触媒だ」


「……身の程知らずが」


 瞬間、男が駆けだす。

 魔王の懐にもぐりこみ、煌々と燃え盛り始めた片腕を突き出す。


「燃えろ……何ッ!?」


「貴重な燃料を浪費しないでもらいたいな」


 魔王の鎧と接触し甲高い金属音を立てた男の片腕。魔王はそれをガッシリと掴むと男を床に叩きつけた。

 そのまま追撃を加えようとする魔王の懐から慌てた様子で抜け出した男は、そのまま後退し距離を取った。


「お前、その鎧は、いったいどうやって……ッ!」


「ふむ。研究の成果は上々なようだな」


「……殻か!」


「ご名答。君ほどの触媒があればこの殻で世界を覆える」


「そんな事を異世界管理局が許すと思っているのか」


 男から出た「異世界管理局」という言葉を耳にした途端、魔王が悪態をついた。


「管理ね。フン、偉そうに。神にでもなったつもりか」


「神と呼べるべき存在は死んだ。俺達はその代理をやってるんだよ」


「代理とは言え神なのだろう?ならなぜ――争いをなくそうとしない」


 魔王の問いかけ。今度は男がそれに対し悪態をついた。


「下らん。神の役割も知らんのか。神はな――ただ視るだけ・・・・だ」


「視るだけ?ハッ、じゃあ今お前がやっていることはなんだ」


「視ていたモノに覆いをされそうになれば止めるのは当然だ」


 会話が止まるその数瞬、両者が一気に接近し格闘戦が始まった。


 だが「殻」なるものに邪魔されているのか、男は徐々に押されていく。


「視るモノがいなくなれば、覆いの中がどうなるか分かってるのかッ!」


「……お前らは人を派遣するとき、たいていペアで派遣する」


「それは!?……お前、どこまで知っているッ!」


「監視が得意な友人が居てね。砂漠に引きこもったままなのが玉に瑕だが」


 そこで魔王の足払いが決まり、男が体勢を崩す。


「やめ――――う、ぐぅ!!?」


 姿勢を崩した男の腹に魔王の手がズブリと沈んだ。


「観測の役割はそのもう一人にやらせるとも……まぁ、もし死ぬか職務放棄をされても砂漠のあの友人が居るがね」


 魔王の腕がズブズブと沈み、それと同時に男の身体に魔法陣が次々に浮かんでくる。


「やめろ……やめろぁああああああッ!」


「表面の薄皮一枚だ。殻に変えてあげよう」


「いぎゃぁあああああああああああああああ!!!!」


 男が悲鳴をあげて必死に抵抗するも、ピシリピシリと音を立てて男が、魔王の鎧と同じ黒い光沢を持ったナニカに覆われていく。


「では、さらばだ。魔術の触媒君。しっかり有効活用させてもらうよ」


 その魔王の愉悦の混じる声に言葉が返ってくることは無かった。




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[良い点] 魔王様マジ魔王様
[一言] 魔王様強え…!
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