神はいつだって理不尽
帝都城を出て、なんとか教会まで歩いた。
あの下品男の精神攻撃をくらったせいだろうか…… 足が、重くてしかたがない。
途中追っ手をまいたり、教会付近に見張りがいないか確認するのに手間がかかったが。ジェシカが思いのほか元気で。
「あれからさらに、気力体力が満ちてきてるんだ。
――たぶん今、人生で一番調子がいい」
体力が消耗した俺にとっては、非常にありがたい言葉だった。
実際ジェシカの動きは、優秀で頼りになったが。
問題は俺がよろけそうになるたびに。
「大丈夫か?」と、抱き留めてきて…… その形の良いおっぱいを押し付けてきたり。時々俺を見つめて、ポーっと顔を赤らめたりすることだ。
回復術に、変な副作用でもあるんだろうか?
いろいろ心配事が尽きなかったが……
――なんとか俺たちは、早朝の教会のドアをノックすることができた。
++ ++ ++ ++ ++
「ディーン司祭…… と、あなたは?」
ドアを開けてくれたのは、妙に可愛らしいパジャマを着たナタリー司教だった。
「すまない…… 追われてるんだが、かくまってくれないか? こっちは財団のシスター、アンジェだ。事情は後で話す」
俺がなんとか言葉を絞り出すと。
ピンクの花柄、半袖・ハーフパンツのパジャマを着たナタリー司教は。
「入って! もう、今あなたお尋ね者なのよ。さっき緊急通信で起こされて。聞いたら、脱獄して指名手配だって? もう、ケイトと一緒におどろいてたとこなんだから」
そう言って、ややツリ目のブルーアイを大きく開き。
倒れそうになる俺を抱きとめてくれた。
その可愛らしいシャツの中には、下着を着けていないようで。例の隠れ巨乳が、ムニュリとおれの胸でつぶれる。
「――あんまり心配かけないでよ」
ナタリー司教は小声で、そう呟いた。
わざとか偶然か、どうやら彼女は能力で大枠を把握してくれたようだ。
「すまない」
俺がなんとか返答すると。
「と、に、か、く。落ち着いたらちゃんと説明してね!」
ナタリー司教は肩に首を乗っけると、俺の後ろに向かってそう言った。
振り返ると、ジェシカが切れ長のパープルアイを引きつらせ。
「ジェシカよ、その。厄介になってもいいかしら?
ダメなら他を……」
申し訳なさそうにそこまで言ったら。
ナタリー司教は、俺をポイと放り投げ。
「安心して、教会はいつだってか弱き者の味方だし。最近は、あっちこっちで無意識に女を口説きまくる、悪徳司祭の被害者の会も運営してるのよ!」
そう言って、ジェシカの手を取った。
そして何かを確かめるように、ゆっくりと握手を交わすと。
「いろいろ大変だったのね、中に入って」
ジェシカにそう伝え。
俺の顔をチラリとみて微笑みながらコクリと頷き、ナタリー司教は彼女を教会の中へ連れて行った。
真贋の巫女の能力が、どんなものか詳細には把握していないが。
ナタリー司教も安心してくれるなら、俺も助かる。
俺が教会の玄関で、転がったままウンウン頷いていたら。
「あのー、ディーン様? なにをされてるんですか?」
ナタリー司教と同じような、可愛らしいパジャマ姿のシスター・ケイトがのぞき込んできた。こちらは薄いイエローの花柄で、やはりブラジャーをしていないせいか。はち切れそうな胸が、けしからんことになっている。
「起き上がるのを手伝ってもらえると嬉しいんだが」
そう言うとシスターは手を貸してくれた。立ち上がると同時に、俺がふらつくと。
「大丈夫ですか、ディーン様」
シスターが寄り添うように俺を抱き留める。
「そこのソファーまで運んでくれないか? しばらく休めば大丈夫だ」
ボインと弾力満点の爆乳が脇にあたり……
薄い生地ごしに、いろいろな感覚が伝わってきて。
ジェシカの形の良いツンと上向きのおっぱいと。
ふんわりと包み込むようなナタリー司教の隠れ巨乳と。
迫力満点のシスター・ケイトの爆乳の素晴らしさを……
――脳内でついつい比較してしまったら。
「もう、ディーン様ったら!」
俺の頭上をチラリと見たシスターに、思い切り尻をつねられてしまった。
よくよく考えたらナタリー司教とシスター・ケイトのコンビは、下手な尋問官より優秀だ。しかしあの2人のエロボディーを前に、そんなこと考えない男がいるのだろうか?
まったく、神はいつだって理不尽だと……
――心の中で俺はクールにため息をついた。
++ ++ ++ ++ ++
気が付くと見知らぬ草原に俺は佇んでいた。潮風に揺らめくのは牧草だろうか? 夕日に照らされる柵ごしに羊が群れている。
その柵にしがみつくように、夕日より赤い髪の少女がひとり。
柵の向こう側に広がる海岸線を、ぼんやりと眺めていた。
どこか寂し気な雰囲気に、ついつい話しかけてしまう。
「どうしたんだ?」
少女は俺の声に気付き、大きな瞳をいっぱいに広げ、見上げながら。
「おじさん誰? 司祭様の服だけど、あたし見たことないわ」
ニコリと笑った。
年の頃は12~13歳ぐらいだろうか。子供用の修道着を着ているが…… やけに胸がデカくて、けしからんことになっている。無邪気に笑うエロ可愛い顔も、どこかで見たことがあるような。
「あらやーだ! 普通は他人の記憶にもぐり込んだら、会話なんてせーりつしないのに。ラズロットちゃんだって、そこまで出来なかったわよ」
突然野太い男の声に呼び止められ、俺が振り返ると。
そこには、ピンクのど派手なドレスを着た。やたら筋肉質な男が……
妙なしなをつくって立っていた。
「お前は? いや、そもそもここはどこなんだ?」
確か俺は、力尽きて帝都の教会のソファーで寝ているはずだ。
「はーじめましてになるのかな? ディーンちゃん、龍姫様やアイギスやガロウから話は聞かなかったの? 申し遅れたけどあたしがマーガよ♡ 宜しくね!
それからここはあのエロ可愛いシスターちゃんの記憶の中……
今回の件をちゃーんと説明しようと思ったら。
ここから始めないとねー、どーも具合が悪いのよ」
そのオカマは、俺に向かってバチリとウインクする。
精神攻撃か何かだろうか? 背筋に得体のしれないものが走った。
「マーガなら、伝説ではリリーと比肩される美女だが……」
しかしリリーの例もある。伝説なんてねつ造されるものかもしれないが。
……しかしこれは、いくらなんでも度が過ぎているだろう。
「まあ! 伝説にしてはちゃんと伝わってるみたいね」
そのへんのコメントは避けたいが。
金色のウエーブのかかった長髪に、やや垂れ目だが整った顔立ち。
ちゃんと男の格好をしていたら、イケメンとして目立つ男なのは確かだ。
マーガを名乗る男は、ピンクのフリフリドレスをたなびかせながら。妙な歩き方で俺に近付いてくる。
「それが本当なら、シスター・ケイトの記憶を利用して ――いったい俺になにをしたいんだ?」
「そんなにあせんないで! 順序ってものがあるでしょ。
誰もちゃんと話してないみたいだから、まず、あたしの自己紹介からするわ」
そして俺の肩に手をのせると、ウフンと…… 気色悪く微笑んだ。
マーガの話を要約すると。
そもそも闇族は少数種族で、女性の出生率は50分の1以下。
その希少な女性も、成人まで成長することはまずないそうだ。
「だからあたしたちは他の種族の女性と結婚して、子孫を残してきたのよ」
しかしその方法では、種としての血が薄れてゆくが。
「もともとそう言う遺伝なんでしょうね…… あたしたちの血を受け継いだ種族の何世代かにひとり、純血と呼んでいい子供が生まれるのよ」
その子供たちを、闇族は『宝子』と呼んで、仲間に取り入れ。
宝子ばかりの『純血の集団』を形成して、種を守っていた。
「そもそもその長が、あの男『闇の王』なんだけど……
どーっかでなんか、思想がぶっ飛んじゃったみたいでねー」
闇の12使徒の始まりはその闇の王の部下、純血の集団の高位能力者たちで。
バド・レイナーとマーガ・アレイの2名が、実質上のトップだった。
「本当は13人いたんだけど、あたしを欠番にして、そー名乗ってるみたいよ。もっとも今は、何人生き残ってるか知らないけど」
多少のズレはあったが、そこまでは『ラズロット聖典』や賢者会の『ドーンの言葉』に、似た記述はある。なら、信用にあたいする話だろう。
「それでラズロットちゃんに会って、あの男を止めたいって言ったら。
いっしょに冒険することになったんだけど。
まあ、途中で肉体を無くしちゃって…… 今じゃこのなりよ。
しかも最近までその身も半分に割られて、変な状態で保存されてたんだけどね」
そう言いながら、マーガは俺の耳の後ろに吐息をかけた。
恐ろしい精神攻撃で、俺の身体が固まる。
はたしてこの悪魔から、逃げきることができるのだろうか?
「そーんなにおびえなくても大丈夫よ。取って食おうってわけじゃないから」
そう言いながら、俺の身体をまさぐるように触ってくる。
なんとかマーガから距離をとると。
「ふふっ、照屋さんね。
ああ、あっちを見て! ちょうど伝えたかった記憶が始まったわ」
柵ごしの少女をマーガが指さす。
そこにあらわれたのは初老のシスターで。遠目からハッキリと判断できないが、シスター・フェイクで間違いないだろう。
少女がシスター・フェイクに気付くと、嬉しそうに走り寄り。
シスター・フェイクはその少女を抱きしめると、幾重にも重なる複雑な魔法陣を輝かせた。
「さすが龍姫様の妹、テルマ様ね…… あんな高度で優しさに満ちた魔術なんて、見たことないわ!」
マーガは慈しむような眼でその光景を見ると。うっとりするようにそう呟いた。
以前フェーク名義の手紙で読んだが、あれがシスター・ケイトを安定させるために行っていた制御術なんだろう。
「この記憶と、今回の出来事がどうつながるんだ?」
俺がマーガからもう一歩離れて、そう聞くと。
「バドが探してるのは宝子なのよ。
例の村を襲ったのは、その噂を聞きつけての事でしょうね。
ディーンちゃんにいた半分のあたしがバドに見つかった時に。
……それをハッキリ感じたのよ。
そして帝国に捕まってたあたしの半分は、あの地下牢で何が起きてたのか知ることができたわ。財団とか新学院とか呼ばれてる連中も宝子を探してるのよ。
そして、人工的な宝子じゃなくて。本物の純血の闇族は……
女性で、しかもテルマ様のおかげか。成人としてすくすくと育ってるの。
ディーンちゃん、そろそろ時間だから今日はここまでしかお話しできないけど。
――あたしたちの子供を、守ってくれないかしら?」
マーガはそう言うと、また禍々しいウインクを寄越した。
「まだ聞きたいことが残っている、回復術の異常はお前のせいなのか?」
「それなら安心してディーンちゃん。あたしの力は能力の増強なの。
回復術もそのせいで、あなたの優しい心が強く相手に流れ込むようになっただけよ。決して惚れ薬的な効果は無いから。
そうね、今晩の2人……
――あの財団の可哀想なシスターちゃんや、あの品の無い男の子の態度は。
ただディーンちゃんの本心に触れた反応なのよ」
そうなると余計あの下品男の態度に不安が残るが。
この件より、まだ大切なことが残っていた。
「それから陛下の……」俺がそこまで言ったら。
マーガはウフッと気持ち悪い笑みで、人差し指を口元にあて。小声でなにかを詠唱した。すると突然、浮遊感が襲ってきて。
俺は強引に……
――シスター・ケイトの記憶から、弾き飛ばされた。




