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ただのおっさんなんだが、自称伝説の古龍(美少女)にからまれて困っている  作者: 木野二九
【第二部】 闇は無慈悲な真夜中の女神 ~Prologue~
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真夜中の福音

ローラの行動は速かった。


「ぐおっ!」

司祭服を着たグールのような男がそう叫んで吹っ飛ぶ。

同時に落ちた旅行カバンには、傘は無く。


「あんたさあ、息が血生臭過ぎるんだよ」

そう呟くローラの手に、レイピアが握られていなければ。

何が起きたか、理解できなかっただろう。


いつ剣を抜き、何発突きを入れたのか……

左目のマーガですら。

ぼんやりと、あの明るい赤髪が揺れたことしか確認できなかった。


俺は懐のアイギスとガロウに手をかける。


室内に明かりはあるが、薄暗く。

俺でもはっきりと血の匂いが確認できた。


「ディーン、どっちが先頭になる?」


アタッカーとして勇者パーティーで活躍した、千剣の(サウザンド)ローラが先陣を切るべきかもしれないが。


「夜目は俺の方が効くからな、せっかくのデートだ。

並んで仲良く踏み込むとするか」


俺は念のために、左目のマーガに聖力(ホーリー)を供給する。


視界が開けて、内部がハッキリと確認できたが。

この場所は聖堂なのだろうか? 祭壇には見慣れない宗教画(イコン)が描かれ。100人は入れるであろう広々とした室内には、これと言った装飾もなく。


質素な机と椅子が無造作に並べられているだけで、誰ひとりとして人がいない。


「あら? それも素敵ね」

ローラは特徴的なツリ目を細めて、楽しそうに笑い。

倒れて動かなくなった司祭服の男を蹴り上げ、生死の確認をすると。


「じゃあ、行きましょう!」

レイピアの血のりを振り払い、俺に腕を絡めてきた。



押し付けられた弾力のある胸が、グニュリと形を変える……

――これ、シスター・ケイトより大きいんじゃないだろうか?



++ ++ ++ ++ ++



部屋の奥、祭壇の横に扉が在り。

そこを開けると明かりは灯っていなかったが、血の匂いが増した。


「こっちね」

ローラが何のためらいもなく、その回廊に進む。

ゆっくりとだが下がっているから、地下室があるのかもしれない。


「あの司祭服の男は、魔物だったんだろうか?」

確認してから潜入したかったが、ここまで血生臭いとその時間も惜しかった。


回廊は徐々に狭まり、いくつかの階段を下ると。

1枚の扉の前についた。


「さあ、答えはこの先にあるんじゃない?

――案ずるより産むがやすしよ!」


ローラが回廊の突き当りの扉を蹴り壊す。 ……剣士にしては足癖が悪いようだが。その度に見える、黒いレースのパンツが素敵だから。

俺としては、なんの文句もなかった。


扉が粉砕されると同時に、俺たちは姿勢を低くして室内に飛び込んだ。

ローラは右側の物陰に潜み。

俺は、左側のテーブルの下に滑り込む。


ここは…… 地下倉庫なのだろう。備蓄用の食料や、酒樽が置いてあったが。どれも血塗られた状態で、引きちぎられたような腕や足。

――四肢を失った遺体が、床に散乱している。


息を潜めて状況を確認していると「キュイーン」と、聞きなれない機械音が響き。腕が1本、俺の顔面めがけて飛んできた。


ガロウでそいつを受け止めると。

とんでもない力で、身体ごと吹き飛ばされる。


「ダーリン、こいつは魔力で動いてない! あたしじゃあ力を吸収できないよ」

ガロウの叫び声を聞きながら、受け身を取って距離を稼ぐ。

ローラを確認すると。


「ちっ! なんなのコレ」

同時襲撃されたようで。

14~15歳ぐらいの華奢なシスター服の少女に、剣を突き刺したまま。

それが抜けないことに、おどろいていた。


その緑の短髪の少女は、痛みを感じていないのだろうか? 感情が無くなったような顔で、刺さった剣を握りしめ。

――素手で反撃に出ようとした。


「もう!」

剣をあきらめたローラが、まわし蹴りを少女の顔に入れると。

ゴキン! と、鈍い金属音が響き。

首がへし折れたが…… そのまま、少女はさらなる攻撃を繰り出す。


「ローラ!」

アイギスに聖力(ホーリー)を込め、鞘ごとローラに投擲すると。

――そいつを器用に片手で受け取り。

ローラは、レイピアに変形したアイギスで反撃に出た。


俺の目の前にも、二十歳前後の修道服姿の女があらわれる。


紫の長髪を振り乱し、返り血を全身に浴び。

躍動感あふれる美しい姿は、悪魔のような淫猥さと、聖女のような清らかさを感じさせ。――どこか悲し気なパープルアイを揺らめかせていた。


「なんだ…… お前はさっき逃げてった『感染者』じゃないね。

どっから紛れ込んだんだ?」


攻撃の意図が感じられなかったから、俺はガロウを下げ。


「転神教会のディーン。

――ディーン・アルペジオだ。

ウチの教会に、逃げ延びた村人から救助の依頼があった。

そっちにいるのは、サイクロン領の騎士団長ローラ・ラングスレンだ」

そう名乗る。


床に散乱している死体と同じ、禍々しい魔力は……

――この女からは感じられない。


状況からして…… 彼女たちが『旅人』の可能性が高い。

念の為ブーツに仕込んだ投げナイフには、手をかけたままにしておいたが。


「ああ、あんたが…… 噂には聞いてたけど、どおりで。

腕を貫かれたのは、何年振りかしら?」


女は自分の左腕を不思議そうに見た。

そこにはガロウが貫通した後があるが、自分の血は一滴も流れていない。

ただ返り血が滴っているだけだ。


「お前たちは誰だ? それから感染者って……」


「ここは財団の管理する教会だよ。

聖国の犬は黙ってて。

まあ、お互い情報が錯綜してたみたいだから、今回は大目に見てやるけど。

次はないから。 ――有名人(ヒーロー)さん」


ローラと戦っていた少女が、ガシャガシャと機械音をたて。

自分で折れた首を力業で直し、腹に刺さった剣を引き抜いた。


「ブラディ隊長、この女はどうすれば?」

少女の声に。


「エマ、そこのビッチは…… 闇族でも、その使徒でも、感染者でもなさそうだから、今日の作戦はもう終わり。

あなたもそろそろ、その隠しナイフから手を離してくれないかな?」

ブラディ隊長と呼ばれた紫髪の女が答える。


俺がブーツからゆっくりと手を離すと。

女はクスリと微笑んだ。


「ビ、ビッチ!?」

ローラがもう一度レイピアを構え直したが。


「やれやれです、おばさんは執念深くて」

無表情のまま、エマと呼ばれた少女は両手を広げ。

ギリギリと壊れた機械のような音をたてながら、左右に首を振る。


「ふん、貧乳軍団が…… 妬みかしら?」

ローラの言葉に、残り2人の視線に殺気がこもった。


ああ、確かに2人ともスレンダーで貧乳だが。

それは言ったらダメだろう。 ……特にローラは。


無意味な緊張感が徐々に高まり。

俺が戸惑っていたら、通信魔法板が緊急通信の点滅を始めた。


「ディーン司祭、今大丈夫?」

懐から取り出すと、ナタリー司教の慌てた声が響いてくる。


俺は辺りを見回し。

「微妙かな?」正直に答えたら。

「なにそれ?」と、返されていまった。


「今聖国から撤退の命令が出たわ、財団から圧力がかかったみたい。

――見なかったことにして戻れ。

ただそれだけで、なにを言っても。 ……応じてくれないのよ」


横では、ローラも通信魔法板で話を始めた。

こっちの会話が聞こえてたようで。


「イザベラからよ。同じように、帝国から連絡があったみたい」

ローラはそう言いながら、俺にアイギスを投げ返した。


「じゃあ、ここはもうお開きね。後片付けは、あたしたちに任せて。

そうそう、まだあたしは名乗ってなかったかしら。

――第13聖騎士隊長、ジェシカ・ブラディ。

『真夜中の福音』の方が分かりやすいかな?」



ジェシカはそう言うと、切れ長のパープルアイを揺らし……

――また、少し悲しそうに微笑んだ。



++ ++ ++ ++ ++



俺たちは村を出ると、少し離れた丘の陰で隊を隠し。

念の為待機しながら様子をうかがっていた。


「ねえディーン、ここから見えるの?」

左目のマーガに聖力(ホーリー)を込め、視界を調整していると。

ローラが訪ねてきた。


「なんとかな…… いま黒服を着こんだ数人の男が、死体を教会から運び出して燃やしてるが。たぶん被害者は4~5人だ。後はどう見ても魔物だな。

生きてる村人は、無事救助されてる。結構な人数が教会から出てくるから。

あの倉庫の奥が、避難所だったんじゃないか」


こういった辺境の村には、魔族襲撃に備えた地下の隠れ家があると聞いたことがある。きっとここは、教会がそれを管理していたんだろう。


「凄いわね、暗闇であの距離で、村の詳細が分かるなんて」

ローラが俺の隣に座ると、お嬢様も近付いて来た。


「帝国からまた連絡があったわ。今回の件の口止めを財団側が要請してるのと。

あの子のお母さんが、あなたと子供に会いたがってるって。

それから、ようが済んだらさっさと撤退しろとも言われたわ!

ここに隠れてるのも、バレてるみたい。

――財団には、帝国の経済界の重鎮も多いみたいで。

あまり無理は言えないってゆうか…… もうこれじゃあ言いなりね」

ため息交じりにそう言って、お嬢様も俺の近くに座る。


「今回の魔族の襲撃の狙いが分からないのが痛いな。

どう考えても、あの村を乗っ取って……

――街を襲撃しようとしていたとしか思えん」


サインロード村を起点に、戦力を増強されれば。

サイクロンの中心街は危険にさらされる。


問題はそんなことをして、魔族に何のメリットがあるかだが…… 強固な平和協定下にある『帝国』と『魔族合衆国』の間に、問題があるとも思えない。


「でもこうなったら、手も足も出ないわよ。

それに、情報戦は苦手だし」

ローラがそう言ってゴロンと寝転がった。


まだあの破壊力の高い修道服を着たままだから、その。

いろいろ見えてるんですが……


俺がローラからそっと目をそらすと。

「ねえ、あっちから人が歩いてきてない?」

お嬢様が、村の方向を指さした。


そちらに目を向けると。懐かしい青髪の女性が、ゆっくりと近付いて来る。


「あらディーン、いい男になったわね。

娘が…… ジュリーが迷惑かけたみたいだけど、元気?」

少しやつれたような気もする、その照れたような笑い方は。

時間を超えて、俺の心を揺らした。


「ああ、ウチの教会で元気にしている」

俺がメリーザに笑いかけると。

娘のことで安心したのか、ホッと一息ついて。


「それでディーン、駆け落ちの相手ってどっちなの?」

変な事を聞いてきた。


「あっ! はーい。それ、あたしだけど」

その質問に答えるように、ローラがニコニコと手をあげると。


「か、か、かけおち……」

お嬢様は。

また不思議な格好で、崩れ落ちるように倒れた。


それ、絶対わざとだよな?



俺は、いろんな疲れを飲み込んで……

――心の中でクールにため息をついた。

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