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ただのおっさんなんだが、自称伝説の古龍(美少女)にからまれて困っている  作者: 木野二九
【第二部】 闇は無慈悲な真夜中の女神 ~Prologue~
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家の子に限って

真夏の暑さが教会を包んでいるが。

ここで仕事を初めて、もっとも平穏な日々を送っている。


聖国から戻ってちょうど1か月。

先日も通信でテイラー宰相が。


「帝国との条約も締結できた。これからお互いに有効な関係が築けそうだよ。

今回聖国王陛下も積極的に働きかけ、混乱していた貴族院もまとまり。

国内の政治や経済も、少しずつだが良い方向に向かっている。

どうやら陛下に良いブレーンがいるようでね」


嬉しそうにそう話していた。


そのブレーンが誰なのか…… 聞くのも野暮だったので、黙っていたが。

どうやらリリーが探している「息の根を止めたい」やつが見付かるのは、もう少し後になりそうだ。


ナタリー司教は帝都の教会で、立て直しの陣頭指揮をとっている。

新しい司祭が職に就くまでの代理と。

帝国との交渉の窓口を行っているそうだが。


「やりがいはあるんだけど。もうね、忙し過ぎて。

あー、サイクロンの温泉にでもつかって、ちょっとのんびりしたいわ!」

とかなんとか…… 毎晩のように愚痴の通信が入ってくる。


サラが帝都の教会に残り、ナタリー司教のサポートをしていて。

なかなか有能で将来が楽しみだが、ドジも多いとも話していた。


ナタリー司教には悪いが。

とにかく頑張ってくれとしか、言いようがない。


うちの教会は、サイクロン領の公認として帝国からも認められ。

改築工事も終わったばかりのせいか。

朝のミサにも人が増え。ぽつぽつとだが、信徒も帰ってきた。


悩みがあるとしたら……


暑さのせいだろうか? シスター・ケイトが、ミサや信徒が訪ねてくるとき以外、下着のようなかっこうで歩くようになったのと。


リリーの身体が16歳ぐらいに成長して……

そのせいか微妙な行動が増えたことだ。


「ディーン様! 聖国からお荷物が届いてます」

今も司祭室のドアを開けて入ってきたシスター・ケイトは『きゃみそーる』と呼ばれる流行りの服に、やたら短いフリルスカートを穿いていた。


「ありがとう、そこに置いといてくれ。それから、その恰好なんだが」


なんだかいろいろ見えちゃいそうで、目のやり場に困る。

今も荷物を置くために屈んだせいで、胸の谷間があれでそれだ。


「その、ダメですか?

前は修道服を涼しく改良してましたが、教徒の皆様がチラチラ見られるので。

通常の状態に戻したんですが。

――それだと暑苦しくて、普段の作業に問題が」


まあ、あの改造修道服は破壊力が高すぎて。

今の状態の教会にはいろいろと問題がありそうだし。この暑さじゃあ、シスターの言いたいことも分かる。


うん、決してシスターの上目遣いの色気に惑わされた訳じゃない。


「まあ、仕方がないか……

しかし、リリーのあの格好はどうにかならないのか?」


「あたしもリリー様に、もう少しかわいい服を着たらって。

いろいろお勧めしてるんですけど、何かこだわりがあるようで」

シスターが可愛らしく首をひねる。


最近のリリーは、普段だぶだぶの『じゃーじ』と呼ばれる体操着を好んできている。そして修道服はスカートが異常に長く、地面をすりそうなぐらいだ。


近所の不良少年少女や、下級精霊や妖魔から。

「あねご」とか「へっど」と呼ばれているそうだし。


リリーが寝室代わりに使っている聖堂の『おしいれ』には。

『やんきい絵巻』が、ギッシリ詰まっていた。


聖国でのあの一件以来、どうも距離を取られている気がしてならない。


あの件を謝ろうとすると逃げられるし。楽しく会話が進んでも、何かのきっかけで急に冷めたように無口になったり。


思春期ってやつだろうか?

子育ての経験のある伯爵あたりに、今度相談してみよう。


「俺も、ちゃんとリリーと話し合ってみるよ。

今は問題が起きてないが、いろいろと不安だからな」


「リリー様の新しいお友達ですか?

お話したことありますが、皆さん良い人たちでしたよ。まあ、誤解を受けやすそうな格好をしてましたけど」


シスターがそう言うなら安心かも知れないが……

家の子に限って。と、考えてはいけないと聞いたこともあるし。


俺がため息をついたら。


「ディーン様、そんなに心配されなくても」

シスターはもう一度可愛らしく笑って、部屋を出て行った。


クルリとターンしたせいでチラリと見えた。

シスターのプリプリとしたお尻と、純白のパンツを思い浮かべながら。



真夏の危機を……

――俺は、予感し始めていた。



++ ++ ++ ++ ++



聖国から取り寄せたのは、13人の高弟がラズロットの死後記した『預言の書』13巻の最後の本。


『アームルファムの預言』だ。

この本の冒頭はこう記されていた。



  善行を成したものが天国へ導かれるのなら。

  悪行を犯した者こそが天国へ行き、救われなくてはいけない。


  なぜなら神は、愚かなる者を救うのが術であり。

  教えとは、悪行の闇に苦しむ者を導くのが業であるからだ。



歴史上、彼の書は外典や禁書として取り扱われたこともあり。その影響か、サイクロンの教会には『預言の書』は12巻までしか存在していなかった。


巨額の財を有していたアームルファムには子孫がなく。

その弟子たちが「アームルファム財団」を運営し。


転神教会が彼をラズロットの弟子と認めなくなってからも、『財団』はアームルファムを預言者のひとりとして崇め。

商人を中心に広い信仰を集めた。


先々代の聖国王カレンディア1世が財団と和解し、正式にラズロットの高弟のひとりとして認められてからも、教会内ではアームルファムを認めない神学者は多い。


その教えの奇抜さも原因だが…… ラズロットに死を招いた。

闇の王の甘言による弟子の裏切りの中心人物が、アームルファムだと言う説が有力だからだ。


そのせいか、財団は闇族を毛嫌いし、13番目の聖騎士隊、別名『真夜中の福音』と呼ばれる女性ばかりの対闇族専門部隊がいると言う噂まである。


また、アームルファムと言えば『アームルファムの秘宝』も有名だ。

彼の財と魔術の粋を集めた『秘宝』が存在し、その秘宝は神をも殺すと。



都市伝説だが……

――その噂は、現在に至っても廃ることなく語り継がれている。



++ ++ ++ ++ ++



「下僕よ! 主を訪ねて人が来ておる。

そんな所で引きこもっておらず、とっとと降りてこい!」


リリーの叫び声で、俺はいったん本を閉じ。


「今行く、待っていろ!」

司祭室を出た。


声がした応接室に行くと、じゃーじを着たリリーときゃみそーる姿のシスターが、ソファーの上に寝かされた少女を介抱するように囲んでいた。


「ディーン様、その。彼女はずいぶん疲弊していますので。

――回復の術をお願いできますか?」


ボロボロのフードをかぶったその少女は、あちこちに傷があり、シスターの手渡した水を飲むのがやっとと言った感じだった。


俺が聖典を取り出し、回復の祭辞を唱えると。


「あん!」

少女は一瞬身じろいだが閉じていた大きなブルーアイを開き、ゆっくりと俺を見つめた。


サラサラの青い髪に、やや垂れた大きな瞳。

年の頃は12~13歳ぐらいだろうか? どこか誰かに似ている気がしたが……


「大丈夫か?」

俺が彼女にそう問いかけると。


「あなたは…… ディーン。

ディーン・アルペジオさんですか?」


少女は絞り出すような声でそう聞いてきた。

俺がゆっくり頷くと。


「ああ、やっぱり、話に聞いてた通り。

――会いたかった!」

そう叫んで突然抱きついてきた。

思ったより大きな胸の膨らみに、慌てていると。


「えっ? お知合いですか!?」

「なんじゃ、どうした?」


シスターとリリーがおろおろと俺を見る。


「いや、いったい」

なにがなんだか、理解できない。


やっと落ち着いた少女が俺から離れると。

「お父さん、お願いです! 母を…… メリーザ・カフスマンを。

――助けてください」


その言葉に。

「お、お、おとうさん……」

シスターが少女の頭上を確認した後、崩れ落ちるように倒れ。


「な、な、なんと……」

その後ろでリリーがまったく同じ格好で倒れた。

2人はやっぱり仲良しだなー、と。関係ないことを考えながら。



俺は夏の日の危機を……

――深く実感した。

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