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時間は不可逆で、未来は永遠

リリーの魔術はアイギスとガロウに連れて行かれた空間で戦った、新龍のスケールアップ版だ。


技や術式が同じでも、そのスピードやパワーが桁違いで。

しかもほとんど溜めがなく連続で攻撃する。


俺があれほど手を焼いた『龍』の攻撃を、老人は見事にかわすが。

そのスキに俺が投擲する聖力(ホーリー)を込めたナイフは苦手なようで。

ヒットするたびに、顔を歪めた。


それを繰り返すと、徐々にやつの動きも鈍くなり。

リリーの攻撃も、避けきれなくなってゆく。


「下僕よ! 次で勝負をかける」

今までの事から考えると、投擲ではやつに致命傷を与えるのは困難だろう。

そう判断した俺は、老人のバックをとった。


「喰らえ!」

リリーが両手をアゴの形にして突き出し、『ブレス』を放つ。


絶妙のタイミングで放たれたブレスを、やつは避けれないと判断したのだろう。

腕をクロスして防御態勢に入ったスキに、俺は机の陰から飛び出し。

両手で聖力(ホーリー)を放出したまま、ナイフでやつの背を突いた。


「うむ…… その判断力と、その力。

高く評価しておったつもりだが、それ以上だな。やはり惜しいが……

しかし放っておけば脅威だ、私の計画を潰されてもかなわん! 慣れ親しんだこの身体を捨てるのも惜しいが。

――君にはここで消えてもらうとしよう」


老人はそう呟くと俺にしがみつき、さらに黒い影が全身を覆い包む。


「下僕よ! くそっ、そうはさせるか!」

それを見たリリーが、俺たちに体当たりして。


「やめろ! リリー、危険だ」

黒い影を吸収し始めた。


「こやつはこの身体を捨てて下僕の命を奪うつもりじゃ!

お主まで我の前から消えるつもりか」


いくら古龍が丈夫だと言え、この黒い影は危険だ。

苦痛に歪むリリーの顔に、俺の本能が危険信号を出す。


しかしいくら聖力(ホーリー)をつぎ込んでも、やつはビクともしない。


「ラズロット、どこかで見ているんだろう! 力だ、俺に力をかせ!」

俺は死力を振り絞って叫ぶと。


「そうしたいのはやまやまだけど…… 僕にも事情があってね。

確かにこのままじゃ、あの子の命が危ないが。物事には対価が必要だよ。

――この魔術を破りたいなら。キミの命の残り半分か、光の半分。どちらかをいただくことになるけど、良いかい?」

悪魔のようなささやきが聞こえてくる。


崩れ落ちそうなリリーの顔を見て。

「好きなだけ持っていけ!」

迷わずそう答えると、低い笑い声が脳内に響き。


「じゃあ、左目をもらおう。

心配しなくても…… あの子が飲み込んだ『闇の心』マーガの半分があれば、たぶん代用は効くよ」


その言葉が終わると同時に、激痛が体中に走った。失いそうになる意識を強引にとどめ、握りしめたナイフに力をこめる。


手元が青白い光を発しはじめ、ローブの中の老人が白骨と化し。

最後にニヤリと笑った。


「下僕よ、いったい……」


リリーにまとわりついていた黒い影も霧散する。

左目を失ったせいだろう。


倒れ落ちそうになるリリーに手を伸ばそうとしたが、空を切った。

そして遠近感が消えた世界で。



俺はゆっくりと……

――意識を手放していった。



++ ++ ++ ++ ++



目覚めると、俺はベッドの上にいた。

黒髪に黒い瞳の、美しい少女が心配そうに俺をのぞき込んでいる。


顔に包帯が巻かれ、左半分がおおわれていた。

「リリー? いや、テルマか……」


俺の言葉に、少女が微笑む。


「あらー、よくわかったわねー。

この姿じゃあー、ほとんど見分けがつかないのにー」

確かに見た目は同じだが、テルマの方が落ち着いてると言うか。


「あいつはいつも騒がしいからな」

俺が苦笑いすると。

「まあー、愛ってやつかしら?」

テルマは、嬉しそうに笑ったが。


「それはぜったい違う」

念の為、俺は完全否定しておいた。


「俺は長く寝ていたのか? 他の連中は?

――あの後いったいどうなった」

俺の質問に、テルマはため息をひとつもらすと。

「じゃー、順番に説明するね」

ことの顛末を話し出した。



「ディーンさんはー、3日間ずーっと眠ったままだったのよ」


その間シスターやお嬢様やルウルやナタリー司教が、入れ替わり俺の看病をしてくれたそうだ。


他の傷は回復魔法で癒えたが、目だけは治すことができず。

そのせいか、意識がなかなか戻らなかったらしい。


「姉さんはずーっと側にいたんだけどー、ディーンさんの意識が戻り始めたらー、コソコソと部屋を出て行っちゃった」


テルマは部屋のドアを指さし。

「きっとあの変で、ウロウロしてるわー」

小声で笑いかけてくる。


ペンタゴニアの被害は大聖堂の火災だけですんだそうだが。

あの男は逃げたようで。


「ローブと中身の白骨は見つかったけどー、魂は滅んでないかなー?

でも大打撃を与えたのはー、間違いないわよ。いくらアイツでも肉体の入れ替えはー、そうそうできるモノじゃーないからね」


テルマの口ぶりからの俺の推測だが。


自分の命とペンタゴニアを引き換えに、あの男の消滅を狙ったが……

それが失敗してもこの結果なら、悪くはないという感じだった。


帝国との取引はお嬢様と先生が、皇帝陛下と連絡を取り始めたそうだ。


「テイラーがブツブツ文句言ってたからー、ディーンさん。

ちゃんと後でフォローしに行ってねー」


どうせ時間のかかる交渉になるだろうから……

そのへんは、追々考えてゆこう。


「聖国王陛下もー、会いたがってたわ。

あの子とー、なんか約束でもしたのかなー?」


「それは男同士の秘密だ。

時間を取ってくれれば、会いに行く。 ……そう伝えておいてくれ」

陛下の心境を考えると、こいつにペラペラしゃべるわけにはいかないだろう。


「そーお? んー、分かったわ」

テルマも気付いているんだろうが…… こうゆうのは、言わぬが花だ。


「真実の扉は、その後どうなった?」

確信を問いかけると、テルマは首をひねって。


「もー、大変かなー?

あなたがごーいんにペンタゴニアを開いたせいで。西の海岸線の一部がー、凄い事になっちゃったわよー。

今日も勇者たちが調査とか言ってー、そこでため息ついてるわ。

あっちもフォローしといてくれない?」

ちょっと楽しそうに微笑んだ。


「ああ、了解だ。どうやらそれは俺の仕事のようだしな」

そういう事なら、俺の考えはやはり間違っていなかったのだろう。


「そーなると…… 後はディーンさんの目の問題だけねー。

どーするつもりなの?」


俺が光を失う瞬間の。

ラズロットとの会話を伝えると。


「あー、そーゆーことか…… ラズロットも片方の光を失って。

その後マーガを義眼として使ってたもんなー。

あいつって、どっか信用できないってゆーか。なに考えてるか分かんないとこがあったからー、ディーンさんもあんまり信用しないほーが、いーかもねー」


「それは重々承知してるよ」

俺がそう答えると、テルマは突然シャツのボタンをはずし。

自分の胸元に手を突っ込んで、以前俺に渡した魔法石を取り出した。


どうして胸のデカい女は、そこにモノを入れるんだろう?

はだけた胸元に、右目が釘付けになる。 ――やはりかなりの巨乳だ。


「これはー、聖力(ホーリー)を利用してー、闇魔法の邪を取り払う術式がー、仕込んであるの。ケイトちゃんの治療用だったけどー、使ってなかったでしょ。

今の話だとー、姉さんがマーガで治療してたのかなー?

あたしたちの龍力じゃあ、完全に闇の邪は消せないからー。

姉さんもまだちょーし悪いみたいだし。

これでディーンさんが姉さんを治してくれないかな?

それからマーガがディーンさんの目になるなら。

これからはケイトちゃんの治療、よろしくね」


「ああ、わかった」

俺が魔法石を受け取ると、テルマは俺の目線に気付き。


「お礼はこれじゃなくてー、こっちの方が良かった?」

両手でその大きな胸をボヨンボヨンと持ち上げた。

……その、なんかいろいろ見えちゃってますが。


「あのなあ……」

そんなことしたら、聖国王陛下に申し訳が立たない。


「とにかくー、ありがとうね」

テルマはそう言って無邪気に微笑む。


俺はなんとか巨乳の誘惑から視線を外し。


「過去の経緯まで詳しく知らないが。

――時間は不可逆で、未来は永遠だ。

つまらんことを考える暇があったら、明るい未来ってやつを考えてくれ」

きっと陛下も。いや、俺や他の連中も。心からそれを望んでいるはずだ。


復讐は何も生まない。

俺はカルー城戦の後、それをいやというほど学んだ。


「そーね。時間は不可逆で、未来は永遠だものねー。

じゃあ、明るい未来のために…… お邪魔虫はそろそろ退散するわー」


テルマがそう言い残して部屋を出ると。

ガタガタと部屋のドアが何度も揺れては、静かになった。


「おいリリー、いい加減にしないとそのドアが壊れちまうぞ!」

俺が叫ぶと、静かにドアが開き。


「う、うむ。下僕よ…… 意識が戻ったのか?

その、身体の調子はどうなのじゃ?」

うつむいた、14~15歳ぐらいの少女が入ってきた。


古龍の年齢や人化の条件が今ひとつ理解できないが……

初めて会った時の話を思い出すと。

リリーは何かのきっかけで、精神的に成長でもしたんだろうか?


相変わらず修道服を着ているが、スカートは少し伸びて膝丈になっているし。

もじもじする態度も、恥じらいを覚えた少女のようだ。


「最悪だよ…… 寝すぎて体がだるいし、ひげもずいぶん伸びちまった」

俺があごをさすりながら、そう言い捨てると。


「こ、この、阿呆がっ!」

涙ぐんだリリーが俺に抱きついてきた。

ふにょんと当たる、思ったより大きな胸におどろいたが。



俺はクールに微笑みながら……

――その感触を、しばし楽しむことにした。

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