表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/131

困った姉妹

ペンタゴニアの正門からあふれ出た魔族軍の先頭は、短剣を片手に持ったオーク兵だった。数にして10はいただろうが、半数近くをローラひとりで戦闘不能にしてしまう。


その間にアオイが詠唱を終え、ローラをかいくぐったオークたちを一撃で葬る。

後ろに控えていた勇者は、それを眺めているだけで1歩も動かない。


「な、なんで? なにが起きてるんだ?」

慌てふためく騎士隊長を、お嬢様が一喝した。


「整列! 隊を乱すな!」

その清んだ声に、20人ほどの聖騎士たちが慌てて隊を成す。

……これじゃあ、どっちが隊長だかわからない。


だが、お嬢様が指揮権を握るなら、後ろの兵も戦力として計算できる。

それに予想通り、むかえに来た聖騎士はこの襲撃を知らなかった。なら、この戦いに勝ち目は十分にある。


剣を握ったオーク兵の後ろから、第2弾として応用魔法兵器を持ったオーク兵があらわれた。魔族軍が好んで使う戦法のひとつだ。


勇者キドヤマが、無詠唱で軽く手を振ると。

オーク兵たちが持っていた銃器が一瞬で崩れ落ちた。


「ご主人様、高度の魔力干渉が観測されました」

アイギスからあきれたような声がもれる。


「あれが勇者の能力、魔法ハッキングだ」

俺もこの目で見るのは初めてだが、魔力を自在に干渉して敵の戦力を削り。

時には自分の戦力として利用する。


帝都戦ではたった3千の勇者を支持した軍勢で、5万の魔族軍を蹴散らし。

しかもその大半の軍勢は、勇者キドヤマひとりに敗れたというから……


フレッド先生はいったいどうやって、こんな規格外の能力を制したのか。

――想像もつかない。


「次は主力のバケモノが出てくると思うけど。さて、どうしよう?」

勇者が俺に話しかけてきた。


「ちょうど暇だったからな、付き合おう」

体長3メイルを超えるオーガが5体、大型の魔剣をぶら下げ近付いてくる。


その後ろには、ぼんやりとしか感じられないが。

駅で襲撃してきた幼女の気配と。もうひとつ、よく知る殺気が混じっている。


「ディーン様、あの獲物には手出し無用ですから」

ライアンが、妖艶な笑みを浮かべて魔剣を抜いた。狙いは例の幼女だろう。


「ほどほどにしとけよ」

その執念が、悪い方向に転ばなきゃいいが。


走り出すライアンと、その護衛についたルイーズを横目で確認しながら。

俺はホルスターから、ゆっくりとアイギスとガロウを引き抜いた。



乱戦になればなるほど、勇者の能力は圧倒的だった。文字通りあふれ出る魔物たちを、手玉に取るようにカウンターで次々と撃退してゆく。


俺もそれに合わせるように、アイギスとガロウで攻撃を加えてゆくが。


「しかしこれじゃあ、キリがない。

どこからあの魔物たちはあらわれてるんだ?」

正門前に倒れる魔物の数は、既に100を超えているだろう。


俺の呟きに、勇者が。

「空間のゆがみがあるね……

正門自体が、なんらかの召喚魔法として使われているのかな」

そう答える。


「なら、正門を破壊するか?」

俺の質問に勇者は。

「それも手だけど…… あからさま過ぎない? まるで壊してくれと言わんばかりの布陣だ」

首をひねった。


正門は高さ5メイル幅10メイルの石造りのアーチに、木製の扉が2枚重なったものだが。扉は完全に開いていないし、その奥が確認できない。


すきまから魔族軍が溢れるように出現するが、誰も門を守ろうとしない。


「例えそうだとしても、それ以外に方法はなさそうだ」

俺がもう一度勇者に話しかけると。

勇者はコクリと頷き。


「扉が邪魔で、どんな術式かハッキリとわからない。あの扉が完全に開けば、僕の能力で召喚魔法を止められる」

そう言って、俺に笑いかけた。


気配はするものの、例の幼女も。レイヴンも姿を見せない。これだけの大きな騒ぎなのに。聖国の兵士が、正門の騎士隊しかあらわれていない。


「どっちにしても、こじ開けるしかないか」


俺はため息をひとつのみ込んで……

――正門に向かって、走り始めた。



最前線は、ローラとライアンとルイーズの3人の剣士がオーガを抑え込み。

後方をアオイが魔術で援護している。


アタッカータイプの千剣のローラをライアンたちがタンクとして援護している。

即興の連携だが、ライアンが上手く立ち回り見事に機能していた。


しかし、ライアンの加勢に入ると。

「数が多すぎますね」

さすがの竜人剣士も息が上がっていた。


「門をこじ開ける、援護をたのめないか」

俺の言葉に、3人の剣士が同時に頷き。

門からあふれる魔物が途切れた瞬間、ライアンが強引に前に出た。


その後ろを俺が追走する。


「そうはいかないから!」

幼女の声が響き、長い木製の杖が門から延びた。


「待ちくたびれたよ」

ライアンが杖をかわしながら、喜びの声を上げる。


門から幼女が半歩飛び出すと、右からルイーズ。左からローラが同時に剣を叩き込む。驚くほど、息の合った連携だ。


幼女が防御魔法を展開した瞬間、俺はライアンの背から飛び出し。

正門の開いた扉の隙間に飛び込んだ。



++ ++ ++ ++ ++



……想像通り。

そこにはニョイを構えたレイヴンとフェーク・イミテルが対じしていた。


「ばーさん、年寄りにはきついだろう。助けが必要なら声をかけてくれ」

「あらーディーンさん、思ったより早いとーちゃくねー。

そー言ってもらえると嬉しいわー」


俺たちの会話に気付いたレイヴンが、苦笑いをしながら。

「勇者まで引っ張り出して、僕たちをハメたつもりだろうけど。あの御方は既にペンタゴニアの中に入られた。

ここで時間さえ稼げば…… すべては思惑通りだ」

ニョイを俺に向ける。


ばーさんの能力の詳細を知らないが。

今までレイヴンを抑え込んでたのなら、接近戦能力も高いのだろう。

あんなこと言ってるが、表情には余裕がある。


形としては、俺とばーさんでレイヴンを挟み込んでいるし。

周囲に他の敵もいない。


ペンタゴニアの結界で、魔物が中に入れないのだろう。かろうじて侵入できたのは、レイヴンと幼女、それから例の『あの御方』ぐらいか。


(ハツ)!」

レイヴンが俺に向かってニョイを発動させると。


「そろそろ、返してもらおーかしら」

ばーさんがレイヴンの背中に向かって左手を振った。


ドンと鈍い音が響き、地面が揺れ。

「なにをした!」

レイヴンが振り返りながら悪態をつく。


「時間稼ぎをしてたのわー、あなただけじゃないのよー。

よーやく役者がそろったからー、こっからは本気かもー」


ばーさんの手にはニョイが握られている。返してってことは…… もともとあれは、ばーさんの物なんだろうか。

1メイル半ほどの長さにして器用に振り回す姿は、堂に入っている。


以前セーテン老師が神龍と100日間戦い続け、和解したときに友好の証としてもらったと言っていたが。その話が本当なら……

――ばーさんの正体がだんだん怪しくなってくるが。


得物をなくしたレイヴンが腰から剣を抜き、ばーさんに襲いかかる。しかし、レイヴンの剣はことごとくばーさんにかわされた。


「今なら封印できないか!」

俺はアイギスとガロウに問いかける。


「ご主人様、どちらを……」

「男の方だったら、イケるんじゃね?」


「安心しろ! 俺は年寄りに優しいんだ」


レイヴンの背に、ガロウを投擲しようとすると。正門がゆらりと揺れた。勇者が結界に干渉したのだろうか? そちらに目を向けると。


「ま、間に合ったか!」

リリーが扉の隙間から入り込んできた。

俺が慌てていると、後ろから。


「えい!」

可愛らしいかけ声とともに、ばーさんがレイヴンをニョイで殴り倒した。

あまりのことに、あっけに取られていたら。


「下僕よ! 伏せるのじゃ!!」

突然リリーが俺に覆いかぶさり。その上を、高濃度の魔力が通過して行った。


「あらー、今までこそこそ隠れてたくせにー。やーっぱり…… 邪魔をするの?」

ばーさんがリリーを睨む。


「下僕をどうするつもりじゃ!」

リリーは俺に乗っかったまま、動こうとしない。ばーさんは殴り倒したレイヴンを踏みにじりながら、ゆっくりとニョイをこちらに向け。


「せーっかくあらわれた聖人候補なんだから……

あのヤローと、勇者を呼び寄せるために開いた『破滅の門』をー。閉じるのに使うに、決まってるでしょー」

ニコニコ笑いながら、不審なことをおっしゃる。


ばーさんが勇者や『選ばれし魔族の男』をペンタゴニアに集めるために動いていたことまでは、想像がついている。


そもそも彼女がサイクロンの教会に来ていたのも。シスター・ケイトの問題だけが理由じゃないだろう。なにせ、怪しい動きが多すぎた。


しかし、主体的に事件を動かしていたわけでもない。選ばれし魔族の男がおこす事件や、皇帝陛下の狙いを利用しながら。

――俺や勇者を導いてきたのだろう。


なぜなら、ばーさんの行動にはいつも優しさがあった。正確になにを考えているかまではわからないが。今もそうだ……

あの魔力は完全に俺とリリーを狙っていなかったし、殺気すら感じなかった。


やはり俺の考えは間違っちゃいない。


「リリー、いいかげんあのばーさんの正体を教えてくれ」

「うむー! そ、そうじゃな。もう、隠し立てする必要もあるまい」


リリーはうつ伏せに倒れた俺の背で立ち上がり。


「テルマよ! そんな姿で、いったいなにをたくらんでおる!」

両足でグイグイ俺を踏み付けながら、そうわめいた。


「姉さん…… そーんなこと、ペラペラしゃべるわけないでしょー!」

ばーさんはそう答えると。


全身を淡く輝かせて……

――黒髪に黒い瞳の17~18歳ぐらいの少女に変貌した。


顔つきもリリーそっくりで。

あと5~6年歳を重ねたら、リリーもそうなるんじゃないかと思える姿だ。


テルマと呼ばれた少女がニョイを俺たちに向けて構えると、ブルンと大きな胸が揺れる。今のリリーが成長しても、あのサイズは無理じゃないかと…… ふと、そう思ったら。 ――リリーに頭を踏まれた。


「下僕よ、なにを考えておる」

「いや、妹なのにあっちの方が成長してるな…… と」

「あやつは封印されておったわけじゃないかのう」


そう言ってさらにグイグイと頭を踏み付ける。

――地味に痛いんだが。


テルマも、対抗するようにレイヴンの頭をグイグイ踏み付けた。

まったく困った姉妹だ。男を虐待する趣味でもあるのだろうか?


さっきまでピクピクと動いていたレイヴンの手が、パタリと地に落ちる。テルマがなにかを確かめるように、ニョイで動かなくなったレイヴンを数回突くと。


グイーンと低い音をたて、正門の扉が開いた。


「姉さん、じゃーまたねー!」

それを見たテルマが慌てて走り出すと。


「ま、待つんじゃ、テルマ!」

リリーは大声で叫んだが。



俺の後頭部に乗せた足を強く踏み込んだだけで……

――なぜか、追いかけようとはしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ