せい力、絶倫なんですね?
ライアンと2人で窓の外を眺めて、男の哀愁を漂わせながら、たそがれていると。
「それで、なにか作戦はあるの?」
あきれた感じで、お嬢様が訪ねてきた。
「相手が西壁騎士団なら、方法はいくつでもある」
どうやらお子様には、俺のシブさが伝わらないらしい。
まあ本意ではないとはいえ、さんざんセクハラまがいのことをしてしまったから。しかたがないかもしれないが。
この中で軍事に詳しいであろう、ルイーズから質問の声が上がる。
「それは、どんな方法なのでしょう。
西壁騎士隊が総力をあげてきているとしたら、兵は5千人規模。
最新の応用魔法兵器も備えています。
奴らは市街地戦も得意ですし、こちらにはディーン様や副隊長が居られるとはいえ…… 戦力と呼べるほどのモノがありません」
「ああ、だからまず戦わないことが前提条件だ。それに、こんなつまらんことで死者を出したくないしな。俺たちはもちろん、相手にも」
俺の発言に、ルウルが首をひねる。
「でも隠れて逃げるには、あたいたちの人数が多すぎるし…… 地の利は奴らの方が上だろう。そもそも西壁地区の警備兵なんだから」
「なら、正面から堂々と出ればいい。
――西壁騎士団の団長は、知ってるやつなんだろ?」
お嬢様に確認すると。
「まあそうね。あまりいい思い出はないけど…… 知らない奴じゃないわ」
嫌そうにこたえる。
そういう感情なら、作戦に入りやすい。俺が頷くと。
ライアンがポンと手を打ち。他のメンバーもお嬢様を見つめた。
「へっ、あたし?」
とまどうお嬢様に。
「ブラウンモールまで一緒にきてもらえないか? 以前伯爵から聞いたが。
そもそもの生まれはブラウンモールで、親戚もいると」
俺が再度確認すると。
「いまさら別行動をする気なんてないわよ。
そうね、ブラウンモールなら子供の頃よく遊んだし。お父様の兄妹も何人かいるから…… 力になれると思うわ」
ハッキリと、そうこたえてくれた。
だから俺は、感謝の念を込めて。
「ありがとう、助かるよ。じゃあ早速で悪いが…… 人質になってくれ」
――お嬢様に、そう申し込んだ。
++ ++ ++ ++ ++
お嬢様に脱出のための馬車の準備と。
「派手な衣装でたのむ…… 遠目にも目立つようにしたい」
作戦の意図を話すと。
「ニックの嫉妬心を逆なでするのは面白そうね!
わかったわ、ちょっと待ってて」
さっそく着替えに出かけた。
「しかし、馬車で移動するにも。
ブラウンモールまでの旧街道も、別の騎士団が警備についているでしょうし。
そこを突破できても、夜の街道は魔物の出没も有り得ますから……
――このメンバーでは、少々不安が残りますね」
悩むライアンに。
「南壁騎士団の団長は、まだカイエル・レバンズか?」
聞いてみると。
「そうですが、お知合いですか?」
ライアンは不思議そうに、そう言った。
「俺が傭兵として参加した、カルー城戦の直属の上司がヤツだった」
先の大戦では伯爵と並ぶ英雄のひとりだ。
「なら、馬車で旧街道を抜ける必要はないな。
――列車でのんびりと移動しよう」
ライアンは、俺の言葉にさらに悩む仕草をしたが。
カイエルの性格を考えると、この作戦に真面目に取り組んでいるとは思えない。おおかた、駅の警備が南壁騎士団の仕事だから、いやいや出陣しているんだろう。
それを聞きながら、落ちたアイギスと思われる魔法石を囲んでいた、ルウルとナタリー司教が顔を上げた。
「なあディーン、こいつはどうすんだ?」
ルウルは今朝渡した短刀と、床の魔法石を交互に見る。
「いま彼女から話を聞きましたが。
こちらも間違いなく狼の牙、短刀『ガロウ』でしょう。
虎の爪、盾の『アイギス』と、聖典に記されている『3つの聖具』のうち、2つがそろったことになります。あと、闇の心は魔法石『マーガ』があれば……
――伝説の再来ですね」
ナタリー司教の言葉に、なぜかリリーがそわそわし始めたが。
「ガロウは、ルウルが探していたものなんだろう…… ハンドリーさん、問題なければ。彼女たち狼族に、その短刀を返してあげたいんだが」
俺の言葉に、ハンドリーさんは頷き。
「もちろんかまいません、聖具と言えば教会の秘宝ですが。
そもそも『ガロウ』の持ち主は、狼族でしょう。
滅びたと云われる種族に、お返しできる機会があるのでしたら。
――これも、神のお導きですから」
両手を組んで、祈りを捧げた。
「ありがとう、その気持ちは凄く嬉しいよ。
けどな、ディーン。あたいじゃ、この短刀を鞘から抜く事すらできない。
しかも、今は力が必要な時だ。
だから…… ディーンに託したい」
ルウルがそう言って短刀を差し出すと、横にいたナタリー司教が続ける。
「すると、残りの問題はこの『アイギス』ですが。あたしたちじゃ、触ることもできません。力が足りないんです。
可能なのは…… サラと、たぶんお嬢様。
そして、ディーン司祭。 ――あなたです」
「力って……」
俺が聞き返すと。
「聖なる力、ホーリーです。さき程アイギスを外す際に確認しましたが。
サラは常人の10倍以上のホーリーを有していました。
お嬢様も同じです。
列車の中でカードゲームをした時に、同じような聖力の噴出を確認しました。
そうです、あたしはそのためにカードゲームをしたんであって。
決して、一獲千金を狙ったわけじゃないですよ!」
途中から、なんだか言い訳がましいセリフが混じった気がしたが。
クライもお嬢様が『聖人』候補のひとりだと言っていたし。
サラもそこを利用された節があるから、頷ける。
「俺も、その聖なる力があるのか?」
ラズロットの影響か、その手の力を多少使えるようになってきたが。
「あなたは…… サラやお嬢様の数十倍。
あたしでは、正確に把握することが困難なぐらいの。
聖の力が、放出されています」
ナタリー司教の言葉に、シスター・ケイトが追いすがるように。
「ディーン様の『せい力』は、旺盛ってことですか!」
突っ込んでいった。
「せ、聖の力が豊富ってことなんだけど……」
しどろもどろのナタリー司教に。
「せい力、絶倫なんですね?」
さらに質問を重ねる、シスター・ケイト。
話が不穏な展開になりはじめたら。
「下僕はヘタレなだけじゃ! せい力はむしろ常人以下じゃろう。
やつの変な行動は、ただ溜まっておるだけだ!」
妙な発言で、リリーがそこに参戦してしまった。
――ダメだよ、子供がそんなこと言っちゃ!
俺が戒めようとしたら。
「そーだよな、あいつ。溜まってんだ」
ルウルが冷ややかな目で、俺を睨み。
ナタリー司教とシスター・ケイトとリリーとルウルの4人で。
円陣を組んでしまった。
俺が室内唯一の同姓であるライアンに、助けを求めようとしたら。
「言ってくだされば…… いつでもお相手いたしますが。
ああ、ルイーズもおりますし」
薄ら笑いで、そう切り返された。
ライアンの隣にいたルイーズが、赤ら顔でモジモジし始めたら。
「そうかルイーズ…… キミは押しが弱そうだからね」
そう言って、なにかをルイーズに耳打ちし始め。
「えっ、そんな」とか「キミの美しさなら可能さ」とか。
ライアンがルイーズを口説いてるとしか思えない言葉が聞こえてきたので。
俺は、ため息をついた。
「おまたせ! 皇位の授与式で着たドレスだから、ちょっと地味だけど。今あるので一番目立つと思うの」
ど派手なドレスで、お嬢様が部屋に飛び込んできた。
スカートは長く、ひとりで歩くことも困難そうだし。コルセットで持ち上げられた胸は、もう半分以上こぼれちゃってる。
「まあ、まるで歌劇の主人公のようですね。 ……とても美しいです」
ハンドリーさんが、ニコリと微笑み。
「歌劇と言えば、ハンドリー様!
ディーン様の『カルー城に散った花嫁』はご存知ですか?
あたし何度も行ったんです。 ――あの歌が素敵で」
シスター・エラーンが突然叫び。
サラも同調するように。
「エラーン先輩は、修道院でもよく歌ってましたよね。
おかげで、あたしも歌えるようになりました」
その輪に入る。
「あたしも、もちろん知っております。今度一緒に歌いましょう」
ハンドリーさんがそう答えると。
3人で、和気あいあいと会話が進む。
お嬢様が、妙な室内の雰囲気に首をひねり。
「ねえ、いったいどうしたの?」
不思議そうに聞いてきたが。
「まあ出撃前の緊張感は、これぐらいがちょうどだよ」
俺は、そう……
――クールに微笑むしかなかった。
++ ++ ++ ++ ++
その馬車は、式典などのパレードで使うらしい。
白く塗られた車体に、金銀の装飾がびっしりで。椅子は真っ赤なベルベッド。ホロを開けるとオープンになり、御者台の後ろにはお立ち台まである。
しかも白馬の六頭立てで…… 目立つことこの上ないが。
「もう少しその…… 地味なヤツはないのか?」
これに乗るのは、ちょっと恥ずかしい。
「総勢11人でしょ。2台に分けるなら、他にも馬車はあるけど。
これが一番確実じゃないかしら?」
お嬢様の言葉に。
「六頭立てでも操作できますし。2台に分けるのは、はぐれる危険がありますしね。それにこれは、なかなか良い馬だ」
ライアンはなぜか嬉しそうだ。
しかたなく俺がお立ち台に乗り込むと、お嬢様が嬉しそうにそれに続き。
ルイーズとライアンが御者台に入り、馬の調子を確認する。
その後ろの椅子の前列に。
ルウル、ナタリー司教、シスター・ケイト、リリー。
後列に。
ハンドリーさん、シスター・エラーン、サラが乗り込む。
……確かにこれは大人数だ。
全員が馬車に乗り込んだのを確認していたら。
シスター・エラーンが。
「まるで歌劇みたいです! 美しいお姫様に、豪華な馬車と白馬。しかも本物のディーン様がいるなんて!」
感動の悲鳴を上げた。
俺が面食らっていると。
「エラーン先輩は、ディーン様のファンなんですよ。修道院のお部屋にも、『ぽすたあ』がはってありましたし」
サラが楽しそうにそうこたえた。
「帝都じゃ…… そんなもんが売ってるのか?」
俺の言葉にお嬢様が。
「知らなかったの? 若い頃のやつよ…… 今とはちょっと別人だけどね」
含み笑いでそういう。
――きっと美しいお姫様って言われて、ご機嫌なんだろう。
俺が苦笑いしていると、外からニック騎士団長の声が響いた。
「ディーン・アルペジオ! そこにいるのは分かっている。
素直に投降すれば、命までは奪わない。
――その後、八つ裂きにしてやるがな!」
まるで安い悪役みたいなセリフに、お嬢様がため息をつくと。
「どうやら舞台の幕が開いたようですね。それでは、主役の登場だ!」
ライアンが楽しそうに叫び、ルイーズが馬たちにムチを入れる。
椅子席の女性陣から「キャー」っと、歓声が上がり。
馬車が正門で構えている騎士団の前までゆっくりと移動して、足を止める。
それを目撃した兵達がざわめき始めると。
お嬢様が芝居っけたっぷりのセリフで。
「ああ、あたしは人質に取られてしまったの……
どうか手を出さないで、このまま見過ごしてください!」
そう叫んで俺の首に手を回し、兵たちにウインクして。
俺の頬にキスをした。
静まり返る騎士団と、怒りに震えるニック団長。
次は俺のセリフなんだろうが、もう、さっぱりと言葉が浮かばない。
俺は椅子席の女性陣の冷たい視線に耐えながら……
――心の中で、深くため息をついた。




