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虚無への黙祷(R)  作者: 芝田 弦也
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ボーナストラック

 ×年後


 今日も幾つもの爆撃機が編隊を組んで、空の彼方に消えていく。

 青空に浮かんだ飛行機雲が、搭乗していた人の生きた証として束の間だけ残るのだろう。

 誰かの記憶に留まることもなく時間とともに消え去っていくだけなのに。

 くだらない大義名分と一方的な正義を振りかざして市民を扇動し、無駄な戦に立ち向かわせている。

 そのせいでどの位の人が無駄死にしたか分からないほどに。

 そんな奴らのせいで、自分の故郷は……。

 屋上のベンチに座って小さくなっていく姿を見届けながら、思いを巡らせていた。

『どうせ戻ってこねーな』

『でしょうねきっと』

 誰も座ってないベンチが沢山有るにも関わらず、物言いたげに左隣に座ってきた上司と先輩。

 青空を仰ぎ見ながらタバコを燻らせはじめた。

『英一きいたぞ。おまえそこの出身なんだってな』

 上司が虚空に向かって煙を吐き出した後、探りを入れるように訊いてきた。

 何も言わないけど、こちらの返事を意識してか流し目で見続けている先輩。

 悪いけどプライバシーに関係しているから話す気にはならない。

 何も言わずに黙ったままでいたら、痺れを切らしたように勝手に喋り始めた。

『噂で聞いたんだけどさ』

『なんですか?』

『元は人だったみたいだな』

『ぁぁ! 聞いたことありますそれ』

『まぁ。所詮噂なんだけどよー』

『ですねー』

 上司はわざとらしく立ち上がったあと、手摺に寄りかかって空を眺めている。

 先輩は話に興味を失ったようで、煙の行き先をぼんやりと見つめているだけ。

『英一。どうなんだ?』

 上司だけは懲りずに訊いてきたけど、口を開くことはしない。

 片手間の時間だけで済ます事でもないし、興味本位で話す事でもない。

 黙ったままでいたら、上司はポケット灰皿にタバコを詰め込んだあと、諦めがついたのか出入り口に向かって歩き出した。

 先輩はその後をコバンザメのように張り付いて追っていく。


 小うるさい人たちが消えて一人の時間になったけど、なんだか満たされない。

 どこで見ても同じ空な筈なのに、ここで見る空はぽっかり何かが欠けているみたいで物足りない。

 それはきっと、自分の心が欠けてしまったからなんだろうね。

 自分も屋上から離れようとしたとき、角に配置されているルーフドレンが目についた。

 ソフトクリームを包んでいる上蓋みたいな形をしているけど、見方によってはまるでお墓のようだ。

 胸ポケットに刺さったままのボールペンの存在を思い出し、ルーフドレンの天辺にある穴に突き刺した。卒塔婆に見立てて手を合わせて祈りを捧げた。ここにはいないかつての人たちに、黙祷を。

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