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虚無への黙祷(R)  作者: 芝田 弦也
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12/27

11曲

『いい目してるね』

 英一は冗談なのか本心なのか良く分からない事をのたまったので、黙ってやり過ごした。

『平たく言うと、戦争はだいぶ前に終わっている。終わった事にすると厄介な事が残るから続いている事にしている』

 終戦していると言われても、テレビの向こうでは現に今も醜い争いが映し出されているのに?

『毎日流れているテレビの戦争はなんですか? 警報やミサイルはなんだって言うんですか!』

『はやる気持ちは分かるけど、最後まで言わせてくれないかな』

『はい……』

『飛翔体はミサイルでもロケットでもいいけど、中身は火薬じゃなくて生物兵器が積まれた見せ掛けのものだ。細菌や真菌に近いものが飛行中と、爆発後に拡散して周囲に撒き散らしている。既存の生物に寄生して蝕んでいくようなんだ。姿形を変えさせるくらいにね。君が見たキノコもそうだろうね』

『元はキノコであってるんですか?』

『だろうね。冬虫夏草って知ってるかい? キノコが虫に寄生して宿主の栄養を吸い取って生長する事なんだけど、それに近い事が起きている。むしろそれよりも酷いか。人にも感染して身体を蝕んでいくのだから』

『なんでそんなものが?』

『生物兵器なんだから殺すために決まってんだろうが』

 いきなり声を荒げた薫。そんな怒る様な事言ったかな?

『君も。ここの街の人たちはそう遠くない日にいずれ死ぬ』

 淡々と恐ろしい事を口にしてるけどいまいち実感が湧かない。

『え? 薬とかあるんじゃないんですか』

『無いから作って試しているんだよ。君の友達をも利用してね。』

『だから二人はマスクをしているんですか?』

 英一と薫を交互に眺めてみて、その格好の意味がやっと分かったけど。

『気休めでしかないけどね』

 英一はどこか芝居がかった様に、乾いた笑いをしている。

 話が飛躍しすぎてるし、目の前にいるこの人は信用できるのかな?

『信用できていない? 顔にそう書いてあるよ』

『まぁ、そうですね。いきなりこんな事言われてもいまいち……』

『だろうね。なら疑問に思っていること訊かせてよ教えてあげるから』

 いきなり質問を問われても何を聞いたら信用に値する答えを得られるのか。

 悩むよりも先に、芳樹の顔が浮かんできたから思い出した。

『任命ってなんのためにあるんですか?』

『さっき迄ので分かんない?』

 質問を質問で返してくるのは流石にウザすぎるけど、素直に応じて見せた方が賢明だろうね。

『全然わかりませんけど』

『感染者が無作為に選ばれて研究所に連れて行かれてるんだろうね』

『研究? 徴兵じゃないんですか!?』

『あのな。単独で招集する徴兵がどこにあんだよ。まぁ、お前らはそれで納得してたんだろうけど』

 薫は露骨に鼻で笑って、私の事を嘲笑っている。

 なんでこんなに上から目線なんだろう。

『何かを知っているからってバカにするの止めてもらえませんか?』

『薫。さすがに口がすぎる。少しは慎め』

『すみません』

 薫は英一に弱いのか素直に謝罪の言葉を口にしているけど、私には一言も無かった。

 なんか気分悪いし、言い方悪いけど荒唐無稽過ぎてこれ以上聞くになれない。

『もう、帰ります』

 踵を返そうとしたら、薫に右手を掴まれた。

 前にも似た様な事があったっけ。

『お前の覚悟はそんなもんなの?』

 黙ってやり過ごそうと思ったけど、つい口を滑らせた。

『今日はここまででいいです』

『今日? ここまで? お前な! 明日は来ないかも知れないのに半端すぎんだよ!』

『落ち着け薫。言い過ぎなんだよお前は』

『さすがに我慢なりませんよ英一さん!』

 薫が大声をあげたと同時に、薫の胸ぐらを掴んでいる英一。

 なんで仲間割れみたいな事してるの?この英一って人は薫と比べたら手が出るタイプ?

『熱くなるな。な?』

 衣服を掴んで身体を持ち上げているから、首元を圧迫されて息苦しそうにしている薫は目を白黒とさせている。

『降ろしてあげてください』

 構わなければ良かったのかもしれないけど、流石に暴力はみていられない。

 英一は私の目を見て口元を釣り上げて、掴んでいた手を離してみせた。

 その拍子に薫は床に尻をついて、息苦しいのか両肩が激しく上下して空気を貪る様に呼吸を繰り返していた。そんなに苦しいのならマスクを外せばいいのにと、なんとも言えない気持ちで眺めながらこの場から去ることに決めた。もう話を聞く雰囲気でも無いよ。


『今日は帰ります』

『薫。見送ってやれ』

『一人で帰れるので大丈夫です』

 私に発言権は無いのか、のっそりと起き上がって私の後をついてきた薫。


 無言の威圧を背中にひしひしと感じながら、廊下を通り抜けて玄関までたどり着いた時にふと思い出した。入る際に何かの検査をした事を。玄関脇に置いあるゴミ箱を横目で確認してみたら、綿棒が入っている溶液は真っ赤な色に変わっていた。確か始めは無色透明だったと思ったけど、勘違いだったかな? いや、そんなはずはない。 ならこれは……何かに侵されているって証?

 私が自問を口にするよりも早く、薫がかぶせてきた。

『途中までしか送らないからな』

『ハナから当てにしてませんから』

 買い言葉に売り言葉で返してしまったから、私たちは口を噤んだまま建物を後にした。

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