第四章 マン・ハント 4-1 課題と難題
登場人物まとめ
A[整備班 自動車関係に詳しく体も声もでかいが気弱な所もある]
B[研究班、高齢の女教授で研究以外に興味が無く性格がキツい]
D[研究班、研究肌で声が小さく話す前に少し貯める癖がある]
E[整備班、体躯のわりに運動は苦手だが他は多芸で飄々とした性格の個人主義]
G[偵察班、体は大きいが器用貧乏で非日常を好む変人で親しい人間には語尾を伸ばす癖がある]
K[施設班、工学に詳しく冷静沈着で天才肌なまとめ役]
O[施設班、少し気弱でオタクっぽいが機械やドローンに造詣が深い]
P[遠征班、小柄だが朗らかで野外での活動の才能が高く一度見た風景を忘れることが無い]
S[遠征班、糸目で音楽や文学に詳しいムッツリスケベ]
T[遠征班、小柄だが自転車が趣味で体力が高い人の好い性格]
H[遠征班、元学芸員の歴史オタでフィールドワークの経験から重機を動かせ体力もある]
I[偵察班、長身痩躯で極めて性格が善性な人物]
『では定刻だ。ミーティングを始めよう。A、D、G、H、I、K、O、P、S、Tの10人か。Bの教授がいないのはいつものことだ。Eもまた周辺監視・・・相変わらず協調性のない奴だ』
モニター越しの定例会議が始まる。Eは気分屋な一面があり、話し合いに参加しないことも多かった。ただし、自身の出席しなかった会議で決められたことには文句を言わない分別はあった。
『なァに、あれでも音声は聞いてるし不合理なことはせんよ』
『・・・俺も正直会議が面倒に思うことはある、B教授が来ない以上は班として仕方ないが』
『フン、まあ、いい。事前に現在の課題については先日資料を送った通りだ』
このような話し合いにおいて、時間が無かったり緊急の場合は仕方が無いが、話や問題点を1から挙げていくのは時間の無駄だ。事前に読んでわかる資料ならば頭に入れ、意見をある程度持ったうえで会議に臨むのは当然であった。
Kにより事前にそれぞれの端末に送信されていた喫緊の課題は次の2点だった。
1つ目は電力及び燃料の確保について。南方面の市街地にあるガソリンスタンドで発見された灯油並びに各種設備の回収を優先するか、GとIから提案のあった北へ40km程度の距離にあるメガソーラー施設からソーラーパネルを回収するか。
2つ目は幾つかに分かれて点在している市街地の学生の小集団についての対応。交渉に値する理知的な集団と、ただ窮状を訴える集団と、敵対的な集団がそれぞれ2つずつ確認されている。
『う~ん、K、燃料ってあとどれだけ保ちそう?』
『Pか、そうだな・・・切り詰めて3週間といったところか、ほぼ発電用だ。分析機器に施設維持、電力は必須だ。この大学にもソーラーパネルはあるが、規模は大きくなく天気によっても発電量は変化する、蓄電池が貧弱すぎることもあるが』
『おっと!!電動車両のバッテリー分も馬鹿にならんぞ!!』
『そうだなA。とはいえ、必要量の2割は賄えていると考えれば馬鹿にも出来ん。だが、この人数でこの有様、平時であったら全体量の5%にも満たんがよく導入したものだ』
『そこは災害対策とやらでポーズとしていれたんだろうさなァ・・・ま、たしかに今役に立っている』
『・・・低温室や飼育室、-30度の冷凍庫が一度でも止まれば損失は極めて大きい』
拠点となる大学でも不要な箇所ではとことん節電対策が取られている。だが、Dが今も活用しているような大学の研究施設は電気を無尽蔵に喰らう化け物、必要な施設に限っていても家庭とは比べ物にならない。僅かに雑然としがちになった場をKが強い口調で締める。
『ああ、電力はこれからも必要だ。だからこその議案だ。燃料の回収は今までも行ってきたが、最近は遠出も増えてきた』
偵察班、遠征班の面々が頷く。近隣の車両やガソリンスタンド、工場などからの油の抜き取りは慣れたものである。暇があれば集めておいて損は無い。ただし、比較的回収しやすい場所については概ね採り尽くしてしまった。視界が悪く危険が予想される地域へのGとIによる偵察が行われたのもその為であった。
『おお!電動トラックにタンクを積んでいけば4往復くらいで集められるぞ!!距離もなんとかなる!』
整備班であるAも灯油が大量に残っているという報告を受け、車両の整備は万全にしていた。
『ああ、回収が必須であることは間違いが無い。だが、今は不確定要素がある』
『・・・あの学生さんたちですね』
Iが痛ましそうに呟く。心から襲われていた学生たちを悼んでいた。
『静音性のある電動トラックとはいえ音は出るからな、接触されて後を尾けられても厄介だ。さらにGとIが偵察で感染者の少ないルートを探したがこの騒ぎで分布が変わっている』
『やれやれだなァ、折角悪臭と暑さに耐えたっつうのに・・・迷子相談所の担当はSだったよなァ?どんな感じよ?』
今のところ特定の仕事も無く、かつて出版社に勤めていてそこそこ人当りの良いSが交渉役となっていた。言葉がきつすぎたり、同情しすぎてしまう事もなく対応できる人選だった。
『まあね、先にこっちの案件を終わらせてもいいかな?少し長くなるけど』
Sの発言に全員が肯定の意を示したことを確認し、当初2つ目の議題としていた学生への対処について話し始めた。
『Oにドローンを動かしてもらって学生たちとコンタクトはとったよ、声はKのアドバイス通りに機械音声に変換して話したけど。資料の通りで接触できる程度の集団になっていたのが6つ。
1つは女生徒がまとめ役をしている6人の非常に理知的な集団で、マスクとかレインコートで体を覆っていてマンションに立てこもっているね。こっちの指令通りに動けば物資を分けると言ったら非常に協力的だった。
2つ目のグループは会社のビルにいて、何とか話は通じそうなくらいだったな。こっちは5人くらいの眼鏡率の高い男だけの集団だった。こっちも多少渋々ながら指令には従いそうだね。
男だけの3つ目、女だけの4つ目のグループは8人はいたかな?小学校と中学校に逃げ込んだようだね、兎に角助けてくれ、自分たちはまだ未成年だという感じだったな。落ち着けば話くらい聞いてくれるかもしれないけど。
5つ目は大きめの民家にいたけど、7人見えたうち髪を染めた女が多くて、なぜ助けてくれないのか?この人でなし!みたいなことを言ってて話にならなかったよ。ドローンに物まで投げてきたし・・・あと、『ゾンビ』のせいか怪我をしていた人もいた。
6つ目はひどいね、素行が悪そうな10人くらいの男女のグループでスーパーにいた。さっさと助けないと承知しねえぞみたいに脅迫してきたし、ドローンを捕まえようとしてきたし・・・これは駄目だね、Oが上手くドローンを逃がしてくれなかったら壊されてたよ。
オレ達に試されてるって明確に分かっていたのが1つ目のグループ、2つ目は従った方が生き残れそうという判断、3つ目と4つ目は落ち着いたらもう一度話をしてみようかな?5つ目はまだいいけど、6つ目は接触したくないね。
・・・今のところ、それぞれ拠点にしているところの周辺で物資を何とか漁っているようだけど、主要な所はそもそもオレ達が回収しちゃってるし水は特に足りてなさそうだね。状態の悪い高架槽の水も飲んでいるようだったよ。
あ、あとグループに入っていない少人数で動いている学生もまだいそうだね』
Kは話を聞きつつ頷くと、冷静な口調で言った。
『1つ目、2つ目以外は切り捨てる。6つ目に関してはさっさと処理したほうがいいかもしれん・・・あと、1週間程度様子を見たいな。おそらく、このまま静かには終わらん』
『Kさん、5,6はしょうがないですけど3、4のグループにもう一度チャンスはあってもいいと思います』
『う~ん、僕も同意見かな。その集団の全員がダメなわけじゃないだろうし』
IとT、人の好い2人が厳しめのKの意見に口を出しHも頷く。Kは僅かに眉をひそめたが、ため息をつくと多少の意見の変更を行った。
『わかった・・・少し難度の高い「クエスト」を出して判断しよう。他に意見はあるか?』
このアルファベッツの面々の中では、元のKの意見に賛成する人間のほうが多かったが、さりとて血も涙もないわけではなく理知的で人の好い仲間を好ましく思っていたため文句を言うものもいなかった。
『意見ってわけでもないがなァ、静かに終わらんっていうのはお子様たちがやらかして感染者たちがハッスルするってことでいいよな?』
GがKに確認するように言う、頭の回転の速い人物ほど細かな背景や理由を言わない事も多いので、Gは周知のためにこのような確認を行うことが度々あった。
『そうだ。それを踏まえ・・・最初の案件についてもう一度考えるとしよう。』




