3-16 とある支配者の心
統制都市は多少の問題はありつつも順調に稼働を始めた、事前に綿密な打ち合わせをしていたからだ。備えあれば憂い無し、至言である。総理の鼻垂れはスポークスマンだ、政治家としての責任を少しでも果たしてもらう。デモ、サボタージュ、集会、そんな暇があれば働いてもらう。わざわざ人間が集まって感染を広げる場をアリゾナ病に提供してどうする。そして、民主的なる体制にしてどうするというのだ?人権とやらに配慮し感染源を野放しにし、危機に対し衆愚政治は動きが遅い。仲良しこよしでこの都市を運営しても最後には力をなくし、反目し、秩序を失い崩壊する末しか見えぬ。民主主義というのはそもそも次善の策にすぎぬ、最善は有能な独裁者による政治なのだ。ただし、概ね独裁者は2代目、せいぜい3代目で腐り全てを駄目にする、故に民主主義は次善足りえるのだが・・・少なくとも今は最善を選ばねばならぬ時だ。儂自身が際立って有能だとは思ってはおらぬ、だが、他に立つ者がいなければ仕方が無い。
だが、都市が順調に廻っていても心は休まらぬ。何故ならば、感染者の拡大が人口の増加を大きく上回っているからだ。今のところはまだ地方から流入してくる者達によって人口の維持は出来てはいるがいずれそれも止まる。出生率は低く、さらに乳幼児への感染もまた多い。いずれは人口が減り続け、崩壊する。
分かってはいた事だ。そもそも統制都市の構想は、社会を維持するには良策ではあるが感染拡大を考えれば下策だ。だが、それでも社会を維持するのは研究者達を支えるためである。根本的な解決策を見つけぬ限り遅かれ早かれ我が国は終わる。故に、今は解決策が見つかるまでの時間稼ぎに過ぎぬ。儂は研究というものが一朝一夕に終わるものではないと知っている、故に寝る間も惜しんで勤しむ研究者を詰るような真似はせぬ。だが、しかし、不安は拭えぬ。最悪の場合を想定し、我が国の人間が、いや人類が生き残るための方法さえ検討され、そして動き始めている。収集した情報によれば無菌大陸たる南極においても感染が確認されている、いや、あらゆる秘境においても広がりつつあるそうだ。そうなれば、人類の滅亡の日はそう遠くないかも知れぬ、儂のそう長くは無い寿命の直前でこのような事が起こるとは・・・。
気分転換を兼ね、老眼鏡をかけて端末の情報を眺める。最新の技術を放棄する老人も多いがそれは只の甘えというのが儂の信条だ、人間がいつまでも先を走らねばならぬ。そこで、面白い記事を見つけた。それは、都市外で活動する研究者の一つの報告。臭いで感染者を追い払い、無法地帯を蠢く者達、儂の管理外の人間。
久々に気分が良くなった。そう、人間はかくあるべきだ。このような者達が時に面白いことを仕出かす。庇護に、善たる秩序に入ることを良しとせず、さりとて自棄にならずに声を発し続ける人間よ!・・・僅かながらでも支援をしよう。資材を捨てるに等しく論理的ではないが、儂とてこの世の全てがそう綺麗に廻っていないことは知っておるし、何よりも小気味いい。今も感染の危険性を享受しつつも必死で生きているのだろう!反対する者がいるかもしれぬが、儂の一存でこれは押し通そう。
さて、戦いを続けよう。儂は最後まで諦めぬ。どれだけ嫌われようとも、愛する我が国と、その民のために。




