3-5 とある元警官の回想A
―――かつては交通課の只の巡査部長、今の私は小銃を持つ特殊公務員という立場だ。
中小都市を捨て、大都市に機能を集約させるという話は光栄放送が流れるほんの少し前に秘密裏かつ電撃的に特定職種の公務員に通達があった。
今思えば中々に巧妙な手段であったと思う。もはやインフラも崩壊寸前で遠方との連絡手段がほぼ絶たれた状態での直前の通知、限られた人員分の車両の席、そして一般市民には秘密であるということ。
これで行政府は警察や消防、自衛隊といった力を持つ集団を抑えた。あまりに唐突で考える時間すらない中でも誰しもせめて手元にいる家族だけでも守りたいし、一般人を置いて避難するという引け目がより一層行政側に立つ心情を強くさせた。すべて考え尽くされた計画だったのだろう。
夜間に重機でこじ開けられ、軍用車両で護衛されながらバスは進む。横に座る妻も、抱えられている娘も、他に乗っている人間もみな一様に厳しく不安げな表情をしている、その中には同僚とその家族の姿も多かった―――だが、この話に乗らなかった者たちこそが真に公僕足りえたのかもしれない。
感染者の集団をかわしながらも、車列は都市の入り口へと達する。そこには突貫作業で都市を囲うようなバリケードを設置している自衛隊員と重機の姿があった。事前につくられていた壁を突貫作業で張り巡らせているとの説明を受けた。一夜城を想起したが・・・後から聞いた話ではあるが元々普通に感染者から都市を守る壁ということで工事を進めていたらしい。あの説明は当時の我々の心情をより煽るためか、それともただの冗談であったのか。
小銃を持ち警備を行っている自衛隊員とすれ違いつつバスは都市内に入る。その後は家族共々乗っていたバスの面々と小会議室のようなところに案内され、装面に防護服を着て顔も年齢もわからない自衛隊員が講壇に立った。
説明によると、私たちは肩書上は自衛隊員となるらしい、実際のところはその下部組織という扱いの様だが。これからは住むところも一般人とは別の検疫を厳重にした地区で、マンションの一室を与えられるらしい。基本的に家族を含め不要不急の外出は慎むこと、外出の用がある際にはマスクや防護服等をしっかりとつけ、所定の場所で消毒を行ったうえで廃棄する事、配給の場所、電気や水道等々細かな説明と冊子が配布された。『アリゾナ病』が蔓延する今、仕方が無いことではあるがどうにも息苦しい生活になりそうであった。
その後は全員にカードが配られ、番号で管理されることとなった。もっとも、職員番号というものは当然のようにあったためそう違和感は無かった。バスに乗る前にも簡単な検査はあったが、再び発熱その他の症状が無いかチェックを受けることとなった。幸い妻と娘は健康であり、バスに乗る前に渡していた手荷物を受け取り、宛がわれたマンションへと向かうこととなった。
マンションに着き、電灯のスイッチを押すと少し暗めの明かりが部屋を照らした。住居の明かりだけはマンション屋上のソーラーパネルと蓄電池で自由に使えるとの事であった。部屋を見回せば一通りの電化製品と家具が揃っていたが、家電は使用できる時間が限られるらしい、計画停電はここに来る前からすでに始まっていたために仕方が無いことだと割り切った。消毒のためにビニール袋に入れられて戻ってきた手荷物を広げ、体を濡らしたタオルで拭くと早々に眠りにつくことにした、早朝から早速訓練との事だった。




