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第三章 統制都市 3-1 メッセンジャーの再来

登場人物まとめ

A[整備班 自動車関係に詳しく体も声もでかいが気弱な所もある]

B[研究班、高齢の女教授で研究以外に興味が無く性格がキツい]

D[研究班、研究肌で声が小さく話す前に少し貯める癖がある]

E[整備班、体躯のわりに運動は苦手だが他は多芸で飄々とした性格の個人主義]

G[偵察班、体は大きいが器用貧乏で非日常を好む変人で親しい人間には語尾を伸ばす癖がある]

K[施設班、工学に詳しく冷静沈着で天才肌なまとめ役] 

O[施設班、少し気弱でオタクっぽいが機械やドローンに造詣が深い] 

P[遠征班、小柄だが朗らかで野外での活動の才能が高く一度見た風景を忘れることが無い] 

S[遠征班、糸目で音楽や文学に詳しいムッツリスケベ] 

T[遠征班、小柄だが自転車が趣味で体力が高い人の好い性格] 

H[遠征班、元学芸員の歴史オタでフィールドワークの経験から重機を動かせ体力もある]

I[偵察班、長身痩躯で極めて性格が善性な人物] 


「ふぅ、久々ですなあ」


 以前一度訪れたことがある地方都市、彼は再び来ることはもう無いだろうと思っていたが、現実とはなかなかに妙なものであった。


 相棒のオフロードバイクは目的地の少し前でエンジンを切って押して歩いて来た為、慣れてはいても多少の疲労は感じていた。しかし、警戒は怠らないものの、事前に周囲の安全は確保するとの通知は受けており、少し前を低空で飛ぶドローンの先導があって未知の場所を無手で進むことに比べれば幾分が気が楽であった。


「おっと、前よりもしっかりしてますな」


 一見すると何もないただの塀ではあるが、よく見れば張り巡らされた侵入者対策の入念さが分かる。正門にも隠しカメラと、小さな何かの射出口、おそらく殺傷能力のある物体が飛び出してくるのだろう。 


 カメラに軽く手を振ると、門が静かな音を立てて僅かに開く。バイクを押してギリギリなその隙間を通ると、目の前には灰色のポンチョに装面、そして武器を片手に持つ数人の男の姿があった。


 腰のホルスターを軽く叩くと、目の前の背の高く、何故かポンチョの上から鍔のある帽子をかぶった男がおどけるように武器を持った手を振る。


「いやあ、ひさしぶりですなあ。しっかりと武器をつかっておられるようで何よりですわ」


「いやァ、本当に・・・久しぶりですね。ご無事なようで何よりです。とりあえず屋内に案内しますので涼んでください」


「それは助かりますわ、でも服は脱げんとちゃいます?」 


「それはそうですよ、お互いに」


「ま、そうですな」


 互いにくぐもった声で再開を祝うと帽子をかぶった男についていく、互いに悪い感情は無く、むしろ良い関係だとしても所詮一回会っただけだ、安全だから服を脱いでいいといわれても困るし相手もこの時世にそんな無防備な人間が来たら困るだろう。


 大したことのない雑談をしながらバイクごと建屋の一室に入れば、確かにキンキンに冷房が効いている。分厚い服の上からでも冷気が感じられ、ほっと息をつく。勧められた椅子に座って周囲を見渡せば、今いる部屋がただの小部屋ではないことが分かる。入念に目張りがされている上に、急造であろう紫外線灯が何本もぶら下がっている。何かしらのガスの注入口もあり部屋の外と繋がっているようだ。


「いやあ、それでは早速始めますか。え~、ゴホン、日本政府は貴方方の研究を大きく評価しとりまして、実際にそのサンプルを受け取りにワタシが参りました。え~と、意識の低下した患者も嗅覚は残っておって悪臭からは逃げようとする、単純ですが面白いと思います。こちらの都市内では感染が発覚したらすぐに鎮圧になりますからそんな発想が出なかったんでしょうな」


「なるほど・・・お役に立てれば我々としても嬉しいです、特に貴方のように危険を承知で外勤されている方には必要でしょう」


 その言葉に深く共感し、大きく首を振る。愛用のバイクに乗っていても音を聞きつけて群がってくるガリガリに痩せた感染者たち。転べば一瞬でお釈迦になるという常に緊張を強いられる日々、それが臭いだけである程度の安全が確保されるのであれば是非とも欲しいものであった。


「ホンマですわ!近寄られないというだけで休憩がだいぶ楽になります。いやぁ、話題の臭いの物質の構造式は通信にて報告していただいてますけど、何分このご時世で合成するにも大変ちゅうことで液体培地もそんな大層な試薬使ってないようですしこりゃあ菌と培養のコツを教えてもらって増やした方が早いということですわ」


 目の前の帽子をかぶった男はその言葉に頷きをもって返す。


「元々そんなものですよ、一から合成するよりもそれを産生する微生物を増やした方が楽なことは多々ありますし実際に多くの分野で使われていましたよね」


「そういってくださるとホンマ助かります・・・勿論只でもらおうとは考えとりません、なんで事前に通信でいただいたリクエストの品々を持ってきとります。バイクの荷台に乗るくらいなんでそんな量が多くないのがえらい申し訳ないとこですが」


 そう話しつつ荷台の箱から荷物を取り出す。


「ええと、分析用の試薬に抗体、これは冷凍モンなんで早く仕舞ってくださいっと、汎用チップに基盤、それから・・・拳銃とショットガン、弾もそこそこありますわ。結構難色を示されたんですがね、外部の人間が武装するのとあとはもう弾も銃もメンテナンスは出来ても輸入も製造もできませんから」


 苦々しい顔をした上司を思い出し、思わず口が歪む。確かに言っていることもわかるが、どうせ外にも出ずに引きこもっているインテリが腐らせるよりも余程役に立つだろうというと思い何とか説得して持ってきたのであった。目の前の集団も、危険を承知で街に繰り出していることを知れば、いけ好かない身内よりも幾分親近感があった。


「おお!素晴らしい!ほぼ希望したものがすべてありますね、本当に助かります。では、こちらも。発泡スチロールの中に保冷剤と試験管の斜面培地にはやした菌種があります。それから実験ノートの写しと、実際に抽出した臭気物質の入ったパウチもプレゼントします、どうぞ・・・ああ、よかったら少し嗅いでいきますか?」


「ほお!ええんですか?それではお言葉に甘えて・・・」「うわ!口開けすぎです!」


「ぐほっ!!!」


 貰ったパウチを少し開けて臭いを確認するつもりであったが、その衝撃は生半端なシロモノでは無かった。表現しえない悪臭、強烈な刺激、胃液がせりあがりそうになるのを必死で抑える、感染対策用のマスクを汚染してしまっては命に係わる。パウチの口を慌てて閉め、何とか胃液も戻して一息つくが、その悪臭はまだ不快にも周囲に明らかに漂っていた。


「ウゲホッ、こ、こりゃあ強烈ですな、そら感染者も逃げ出しますわ・・・こんなん持って移動するなんて、早まりましたかね」


「臭っ!・・・活性炭フィルターを装面に多めに噛ませて対策すれば何とか大丈夫ですよ」


「そうですか・・・いやまあ、背に腹は代えられませんな」


「まあ、慣れれば何とかなりますよ・・・ところで、一つよろしいですか?」


 目の前の集団の雰囲気が変わったのを察知し、こちらも襟を正す。


「かまいませんよ」


「では・・・統制している都市などの様子は、現在いかがでしょうか?耳障りの良い言葉はいらないので、真実を」


「ははは、ま、ワタシも反骨精神にあふれていますからね、皆さんにはいろいろ教えてあげます」


 自分でそう言いつつも、脳裏に浮かぶのはある意味地獄のような光景であった。そう、管理され、常に死の恐怖と隣り合わせの日々を何と言ったか―――


「ディストピアを」


 目の前の男たちが、息を飲んだ。


 

Gの口調は仲間内と外部の人間では変わります、どちらが素なのか演技なのか、人間は周囲に合わせて自分を演じるものだと思っています。

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