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1-15 止まる都市~食と医~


 不用意な外出は強く自粛が求められ、特に夜間は理由の無い限りは罰せられるほどであった。一部の国民からは、「すわ戒厳令の復活か!」との反対もあったものの最早街をうろつく感染者の姿は珍しくないものとなっておりその一方で治安維持に当たる官憲の絶対数は減ってきていたのであった。


 食糧はついに配給制となった。さながら選挙の会場のように名簿と照らし合わせ、自治体との協力の下各家庭に配られていった。日本人の気質ゆえか大きな混乱は起こらなかったものの、一部では強盗や恐喝によるトラブルも見られた。


 外出が自粛される中、第一次産業の従事者には特例として積極的な仕事の推奨が行われていた。増える感染者に対して減る労働力、それによる生産量の減少、只でさえ高くない食糧自給率を考えれば食の問題は最優先事項でもあった。田畑を感染者、そして泥棒から守るために農作業を行う農夫の周囲を警棒とポリカーボネートの盾を持った警察官と自衛隊員が囲むと言ったアンバランスな光景であった。


 空き地には所有者の如何を関わらず、掘り起こされて芋類が植えられていた。出来は兎に角、比較的少ない労力で茎まで食すことのできる作物は積極的に作られた。もっともその実りを享受するのは当分先であることが見込まれていたが、この混乱が回復しても当分の間は食糧の輸入は難しいだろうと言う政府の考えもあった。



 病院の状況もすでに悲惨なものであった。最早患者に投与する鎮静剤も無く増設された鉄格子の隙間から食糧を差し入れるのみ、糞尿を撒き散らし、自傷行為により血痕をばら撒き、意味の分からぬ叫び声をあげ・・・極めて不衛生な状態となり一般的な病気や怪我の患者は特殊な設備を有さない者を除き敷地内に急設されたプレハブの建屋へと移されていた。


 医師、看護師、その他医療従事者もすでに限界を超えていた。医療を行うものが感染し医療の対象となってしまうという悪循環、それでも絶えない感染者の増加と事故等による病人達・・・インターンの有志から果ては学生まで動員されていたが診察室までの渋滞は抜けるまでに何時間もの時間を有した。そして、いざ診察といっても疲れた医師による、医薬品の在庫が無い事さえある不十分な治療しか受けれないことも多かった。それでも心身の不調を訴え病院を目指す人の姿は後を絶たなかった・・・。



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