1-10 自衛官達の会話
横転し炎上した大型トラック、道路を横切るように塞ぐ障害を取り除くために迷彩服を着た自衛隊員が動き回っていた。
「ちえっ、また道路清掃かよ・・・道路管理者の奴らは何してんだ」
「ぼやくな、ぼやくな。俺達だって公務員だ・・・それに民間レッカーの方はどこもかしこも大盛況で中々手が空かないんだとさ」
「ったく・・・民間委託、まあ結構なことだが。役所は指示するだけで実働能力が無いってのも考えもんだな」
「人員削減、民力活用、流行って奴だよ、仕方ないさ。」
若い自衛官の二人は朝早くから現場へと送られて現在は広範囲にばら撒かれたトラックの積載物を集めて回っていた。事故車を取り除いても積荷の建築資材や螺子、釘等によってそのまま道路を開放した場合、パンクによって二次的に事故が生じる危険性があった。
「とはいえよ・・・自衛隊の仕事ってこういうもんじゃあねえだろ?」
「おいおい、入る前から災害対策に回されるなんて分かりきってたことだろ」
「災害、ねえ・・・まあ、謎の病気ってのも災害って言えば災害か」
「災害に該当するさ、きっとな・・・それに俺たちの仕事ってさっき言ってたが、ここだけの話、海と空は今やばいらしいぞ」
「っ!!あの噂、本当だったか・・・北の某国が南に攻め込んでいるっていう」
「南の方の都市部は『アリゾナ病』で大混乱らしいからな、チャンスだと思ったんだろう。ストッパーの中国も衛生観念のせいか大都市では感染者が出すぎて軍が鎮圧しているそうだ」
『アリゾナ病』という単語に苦い思いがあるのか、自衛官の片割れは渋い表情を浮かべた。
「ウチでも結構流行っているからな・・・ぞっとする話だ」
「マスクの支給があるだけ助かるな、薬局じゃ品切れ状態だよ・・・北の某国もこんな状況でよくやるものだ」
「ああ・・・ん?ああ、そうか。北の某国はあまり外国との出入りが無いし人口密度もだいぶ低いからまだ感染者が少ないから結構動けるのか・・・だが馬鹿だな」
「何が?」
「はっ!自ら感染者のいる所に突っ込んでいくなんて正気の沙汰じゃないってことだ。折角被害が少ないなら沈静化が見えてから動けばいいのに・・・しかし、コレ、公式発表はまだ出てねえよな?」
「ああ、どうにも戦争話と俺達がその絡みで動く話をすると五月蝿いやつらが沸くからね・・・ギリギリまで伏せとくんだろうな。こっちが争う気が無くても殴りかかられたら反撃するしか無いって言うのに。飢えた肉食動物に兎が平和を訴えて何になるんだ」
「食われるだけだろうよ!ああ、くそ、屈んで作業してたら腰が痛くなってきた!」
「だいぶ片付いたしもうすぐ終わりさ。ま、後で飲みに行こうぜ。どうせ残業や時間外ばかりで金は余ってるんだ」
「お、いいねえ・・・しかし、金は嬉しいがそろそろ休暇も欲しい所だ・・・」
男たちは回収した散乱物でいっぱいになった袋を担ぐと道路脇に置かれたコンテナへと向かう。道路の片隅、見逃してしまった小さな金属片がギラリと不気味に輝いていた。




