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庭の木に、満開の梅花が咲き誇る。
穢れのない、白い花弁が無数に風にそよぎ、強い馨りを鼻腔へと運んでくる。
根もとに佇むのは、ひとりの女。
じっとこちらを視つめるその口が、なにかの言葉を懸命に紡ぐ。
けれど、訴えかけてくる女の言葉は聞き取れない。
間近に女の声を聞こうと近づこうとするのに、その場からは一歩も動くことができなかった。
女の瞳に悲しみの色が浮かぶ。
強い焦燥。深い失意。
その姿を眺めるうち、悲しいわけでも苦しいわけでもないのに、なぜか自分の瞳から涙が溢れ出る。
女がなにかを必死に訴えかけてくる。
強すぎる花の馨りに、感覚の一部が痺れて思考が散漫になった。
満開の花弁の色が白すぎる。
花の香が、強すぎる。
花の下で、女がひとり、じっとこちらを見ていた――