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夢一夜~幽明に咲く花~  作者: ZAKI
第4章
11/40

(1)

(あね)様、見ておくんなんし』

『おや、このはな・・・・。桜でありんすか』

『あい。お使いから戻る途中で、佐平次(さへいじ)さんがとってくれんした』

『それはようおざんしたな。佐平次も粋なことをしなんす』

『姐様へのお土産にって』

『そうかえ?』

『あい。桜は、姐様の花でありんすから』

『……ほんに満開の枝振りが見事だこと。道中では、ゆっくり眺めている暇もありんせんからなぁ。さっそくに活けて、飾るとしんしょう。このはな、茶箪笥の下の抽斗(ひきだし)から懐紙をとっておくれ』


 声をかけるその指先が、枝の中からいちばん形のいいひと房を選んでつまみ取る。渡された懐紙を多めにとってあいだにそれを挟み、押し花にすると、金の花唐草が描かれた漆塗りの小物入れにおさめて差し出した。


『……姐様?』

『お使いを果たした、お駄賃え』


 ふっくりとした笑みを向けられた途端、茫然としていたあどけなさの残る顔が不意にくしゃりと崩れた。


『ありがとうござりんす、姐様。とても、嬉しゅうありんす。大切にいたしんす』

『おやまあ、天下の三浦屋夜桜の新造(しんぞう)ともあろう者が、そねいに泣き虫でどうしんす。せっかくの器量が、台無しでありんすえ。このはな、お泣きでない。笑いなんし』

『あい、姐様。あい……』


 ――可愛いこのはな、おまえには笑顔がよく似合う。笑いなんし。そしてどうか、幸せに、なっておくれ……。




 夢の中で、だれかが秘やかに願う声を、聴いた気がした……。




【注釈】

※道中…花魁おいらん道中。呼び出しを受けた花魁が、禿かむろや振袖新造を引き連れ、見世と揚屋あげや、引手茶屋を行き来すること。

※新造…水揚げまえの見習い女郎。

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