第30話 みかんが好き!
「うーん!うまい!」
至福のひととき・・・
オレンジジュースを飲み、一息いれる。
「これ・・・天然100%ですけど・・・」
イリアが、ぼやく。
「だって、ご先祖様だって、テレビ観ながら飲んでたって。」
正式名称があるのだが、面倒なのでそう呼んでいる。
猫は、柑橘類が苦手なのだが、
人猫は、かつて初代女王ノワールを使い魔とした魔女が、人間族と同じ物を食せるように調整した術で「人化」したため、大抵のものは人間族と同じように食べられる。
だが、「猫時代」の遺伝子が残っているためか、イカやあわびは解毒能力が働かないらしく、食べられないのだ。
海軍が、クラーケン退治に出るときは大抵、海軍指令が「なぜ食せないものを狩らねばならんのだ・・・」とぼやくのが慣例となっているが、半ば本音だろう。
「天然は、身体にいいですけど、天然水で割るほうが甘くておいしいんですけどね。」
「私を誰だと思ってる!?」
「妊婦です。」
「よろしい。」
とにかく、おなかの子のために食べねば!
「かつおぶしが美味いのよね・・・」
「かつおぶしといえば、ナキさんがアリシア様にしかられて、かつおぶしで「ライテス像」を彫らされていました。」
ミケランジェロ家の職人の工房は、厳しい。
工場はそれほどでもなく、国際的な労働基準だが、彫刻家を始めとする純然たる「職人」はやはり厳しい。
彫刻家であると、かつおぶしで「偉人像」を彫らされる。
今でこそ、クリスタルさえ切削できる高性能な切削ドリルがあるが、問題は材質・並びに「お題」にある。
ってか、考えてみろ!
猫にかつおぶしで、彫刻をしろというのだ!
これは、怖ろしい。
事実、「懲罰」が終わった者は、極限まで耐えた「食欲」とあまりのできのよさに「食べたくない」という理性の狭間で苦しむという。
ライテス家の旅行記編纂家は、こう記事に書いている。
「他の種族には判らないだろうと言われたが、私にはこの懲罰の恐ろしさを充分すぎるほど理解できた。」
と・・・
「このライテス像・・・「覚醒状態」です・・・」
ライテスの翼と尻尾までをも、表現せよと・・・?
「げッ・・・それじゃあ・・・ナキってば・・・」
「はい。「半死半生」でした。」
ご愁傷様だ・・・
とりあえず、くだものかごに入ったみかんを食べた。
キティルハルムの民は、ミカンを食べるんです!
「猫」なのに!




