17話 魔力解放・・・天才か・・お主
「では、さっそく魔力解放訓練じゃ。せっかくある潜在魔力も解放せねば意味はないからのう」
「はい」
「まずは、魔力を流す感覚を覚えるのじゃ。
ワシがお主の体の中に魔力を通すので、それをよく感じ取ると良い。
いくぞ」
「はい」
エル爺が俺の額に指をつける。
すると体の中に暖かい液体が流れる感覚。
血の巡りと似ているが・・・ちょっと違うかな。
集中してその感覚を覚える。
暖かい液体の流れと勢いをトレースする。
水の流れをイメージし、自分が操作していると思い込む。
と、急に流れが止まる。
気づくとエル爺さんの指が離れていた。
「どうじゃ、今のが魔力を流す感覚じゃ。
始めは気持ち悪いかも知れぬが、すぐに慣れるじゃろう。
そうならなければ魔法は使えんからのう。
もう一度いくぞ」
「はい」
エル爺さんから温かい水が体内に流れ込んでくる。
が、それに反対するように俺の中から湧き上がるマグマの様な液体。
エル爺さんの水を押し返そうとする。
「な、なんじゃ・・・この魔力っ!」
エル爺さんの指が離れると、体内のざわめきも終わる。
歯をガタガタ揺らしている爺さん。
フサフサの白い髭が揺れている。
「どうしたんですか?」
「いや・・お主の中に・・・何か得体の知れないものが・・・
お主、本当にこれまで魔法を使った事がないのじゃな?」
「はい、生まれたばかりですので」
「そうか・・・ワシの気のせいか知れぬ・・・。
今のが魔力の感覚じゃ、思い出して体内に魔力を廻らすといい。
それがファーストステップじゃ」
俺はゆっくりと今の感覚と思い出して、体内の水を流そうと試みる。
ええっと。
確かこんな感じで温かい水が流れて・・・
この回路を通って・・・
こっちにいって・・・
あっちにいって・・・
水温はこのぐらいで・・・
体内の水をコントロールしていくと。
【熟練度が一定に達しました。スキル『魔力制御LV1』を獲得しました。】
おっ。
やっりいいいいい。
とりあえず一歩ステップアップ。
「ぬ、な、なんじゃお主・・・」
目の前のエル爺さんが驚いている。
「どうしたんですか?」
「どうしたもこうも、お主から魔力が放たれているのじゃ・・・」
「えっ。そういう訓練ではないのですか・・・
俺はただ、さっきの感覚をトレースしただけですけど」
「それが凄いのじゃ。普通の者はそんな事はできはしない。
魔力コントロールは難しいのじゃ。針のアナを通すような繊細さが必要なのじゃぞ。
天才のワシでも一週間ほどかかったのじゃ。普通なら一ヶ月はかかるし、一生できないものもいる。
それをたった数秒でモノにするとは・・・天才じゃ!」
驚くエル爺さんと話しつつも、体内の魔力を循環させる。
温かい水を流していると気持ちいい。
体が温まってくる。
「ば、化け物か・・・お主」
エル爺さんは固まったままだ・・・と思ったら。
おっ。
動き出した。
「素晴らしいのう。鳥肌じゃ。しかし気をつけるのじゃ。
魔力の感覚を覚えたての頃は、魔力酔いになることがあるからのう。
徐々にならしていくのが一番じゃ。今日は時間を起きつつ魔力になれるだけにした方がいい」
「分かりました」
「うむ、励むのじゃ」
エル爺さんがさっていく。
俺は続けて魔力こと、温かい水を体内で循環させた。
ぐるぐる回していく。
これが魔力か・・・
不思議なもんだ。
血液の他にも別の回路が体内にあるみたい。
俺はリラックスすうるために草原にねっころびながら、ひたすら魔力を体内に流し続けた。
暖かさが心地よい。
ずっとこの感覚に浸っていたくなる。
これが自然な姿だと思うのだ。
「クォーン、クォーン」
アースドッグのアドがよってくる。
魔力に惹かれたのかもしれない。
ペロペロと舌で顔を舐めてくるが、俺はひたすら魔力訓練だ。
魔力を鍛えるのです。
スパルタです。
魔力を体内に回していく。
だが・・・
むむっ。
なんだか体中がミシミシしてきた。
回路が焼けるように痛い。
チクチクと指す痛み。
ま、まずいな・・・
暖かい水どころじゃなくて、マグマが回路に流れてきているようだ。
やめておこうか。
これ以上は危険かもしれない。
だがその瞬間。
急激に魔力が膨れ上がる。
あっ。
プツンッ。
何かが切れる音がし、俺は意識を失った。
「ワンワン ワンワン」
ペロペロ
むむっ。
いつのまにか意識を失っていたようだ。
顔を舐めているのはアースドッグのアド。
心配そうにしっぽを振っている。
大丈夫だよ、っと頭を撫でてやるが。
あ痛っ!
うーん。
体中がヒリヒリする。
魔力を流しすぎたのかもしれない。
だが、あの感覚を忘れないうちに何度も魔力を流しておきたい。
ならば、またやるべし。
俺は温かい水を体内に循環させるイメージを浮かべる。
水路を開放し、魔力を流し込む。
水の温度が上がり過ぎないように注意しつつ、魔力を循環させる。
ガガッ
やはり途中から水温があがってくるようだ。
魔力を流していると、しだいに温度が上がってくるのだ。
上がるに連れて痛みが増してくる。
まずい・・
やばっ・・・
・・・・
あっ。
プツン。
俺は意識を失った。
「ワンワン ワンワン」
ペロペロ
また気絶していたようだ。
体中がミシミシして内側から痛い。
自分の魔力回路で実験するのはあまりよくないのかもしれない。
それならば・・・
俺はアイテムボックスから骨を取り出す。
体内に魔力を通すのと同じ感覚で、骨に魔力を流し込む。
おおっ。
何か感じる。
やっぱり、骨にも魔力回路があるのかもしれない。
魔力が流れている道筋を感じ取る事ができる。
ポキッ
あっ。
割れてしまった。
ついつい許容量以上の魔力を流し込んでしまったのかもしれない。
だから割れてしまったのかも。
次は注意しよう。
骨の魔量回路の限界量を見極めて流し込まないと。
アイテムボックスから再度骨を取り出し、魔力を流し込む。
よし。
いい調子だ。
魔力を回路に流し込み、道を作る、
骨全体にいきわたるようにゆっくりと流し込む。
魔力が溢れないように。
ゆっくりと慎重に。
魔力回路を壊さないように丁寧に流し込む。
ポキッ
あっ。
また割れてしまった。
中々難しいようだ。
だが、何か面白くなってきた。
徐々に上手くいっているのが分かるので、絶対に成功させたくなってくる。
俺は再びアイテムボックスから骨を出し、魔力を流し続けた。
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エル爺さんは、家の中から外を見ていた。
ベビーヴァンパイアのトクガワさんを観察しているのだ。
並外れた魔力の素質を見せた彼を入念に。
(あやつ・・・本当に素晴らしいのう。
あれほどの魔力潜在値は初めてみた。
エルフ随一の天才といわれたワシより上じゃ。
才能とは恐ろしいものじゃ・・)
(それに・・・あやつの中に感じた強力な魔力。
あれは・・・一体。あの魔力に触れるだけで脅威が伝わってきた。
まさかのー。この歳で鳥肌がたつことがあろうとは・・・)
今、エル爺の目の先では、トクガワさんがアイテムボックスから骨を取り出している。
骨を持って意識を集中している彼。
(むっ。まさかあやつ・・・
物質に魔力を流し込んでいるのか?
それは体内制御の後にやる事。魔力を解放したばかりの物ではかなり難しい事だ。
魔力を流し込む事でさえ、できない事も多いというのに)
トクガワさんが持っている骨が割れる。
(な、なんと・・・ あやつ一回目で骨を割り折った。
一体どんな魔力を流し込んだ事やら。
並大抵の魔力を流し甲だけでは物質破壊などできはしない。
彼のそれは立派な攻撃魔法だ)
エル爺は驚愕に震えるが、その先でトクガワさんは骨を次々におっていく。
(凄まじいのう。
魔力を流すだけで物質を破壊するだけの魔力純度。
何度も折っても気を失わない魔力量。
ポテンシャルが末恐ろしすぎる・・・
これは、ちゃんと導かなければ・・・もしかしたらこの世界にとって災害になってしまうかもしれんのう。
大きすぎる力は、必ずしも良い事ではないからのう)
エル爺は自身のアゴ髭を触りながら考える。
トクガワさんの将来にとって、自分は何をすべきなのかを。
あの巨大な才能をどう導けばいいのかを。