97話 ヴァルゴとアイシャ
雷刀のヴァルゴ。
ギルド『へヴンズゲート』に所属する男。
彼は今、七大ダンジョンの一つ『アリエスの大迷宮』46層、折れた巨大樹の中を駆けていた。
後ろから追ってくるのは、魔導十家が一つ、キングスレイ家の娘、アイシャ・キングスレイ。
彼のギルドが襲った国.
そこに本拠地がある家の者だ。
ヴァルゴはアイテムボックスの中に手をいれ、槍を握り、『エレクトニック・ランス』のマナ充電量を確認する。
先程まで、巨大樹のマナが密集する場所、マナポイントにこの槍を指し、マナを槍に貯めていたのだ。
この世界で、マナを貯蓄することが出来る武器は珍しい。
だが、ギルド仲間の一人に武器製造に秀でた者がおり、その人物が作ったオリジナル武器だ。
そして、この槍にマナをためることができ、かつ能力を発揮できるのは、ヴァルゴの能力の賜物だった。
雷獣を従え、エンチャントを使用できることからくる、彼の能力。
槍のマナ残量を確認すると・・・残念なことにマナはそれ程たまっていない。
自己防衛機能として結界機能がついているので、その機能でマナを大量に消費したようだ。
大抵の魔物ならこの結界機能で追い払うことが出来るので心配していなかったが・・・
武器の反応を見て現場に赴くと・・・昨日戦った者達がいたのだ。
キングスレイ家、ドラゴニュート、猫耳族、古代種・・・・そして捜し求めていた巨大樹の精霊。
全員を相手にするのは難しいので、まずはキングレイ家を倒そうとしたが、避けられた。
あの家お得意の瞬間移動魔法だろう。
そうしたわけで。
今、アイシャ・キングスレイから逃げている。
壁を壊し、液体で通路を浸し、電撃で感電を狙ってみたりもしたが、この攻撃で奴らはダメージを負っていないようだ。
一人ぐらい戦闘不能に持ち込めるかと思ったが・・・それは楽観的か。
しかし、他の魔物を巻き添えにし、何体か倒したようだ。
電撃を通して分かった。
ヴァルゴは、巨大樹を駆け、逃げていく。
理由は簡単だ、自身も、武器もマナ不足だからだ。
今のまま敵の集団と戦えば、苦戦する可能性があるからだ。
ちらりと後ろを確認すると、追ってくるアイシャ。
だが、その姿は一つ。
後ろから他の者も追ってきてはいるが、アイシャ以外の者はかなり後ろにいるようだ。
追いついてくるまでに、ある程度時間がかかるだろう。
ここで思う。
それならば、各個撃破した方が良いのではないかと。
見たところ、奴らの中で強いのは、ドラゴニュート、古代種、木の精霊?であろう。
猫耳とキングスレイ家は、それ程強くない印象だ。
それならば、このチャンスを逃すべきではないだろうか。
マナが十分にない現状だが、一人ぐらいなら倒せるだろう。
そうと決まれば行動だ。
ヴァルゴは立ち止まり、アイシャと立ち向かう。
すると・・・アイシャは止まらずにそのまま駆けてくる。
「ヴァルゴッ!」
間髪いれず、アイシャが斬りかかってくる。
姿が消えたと思った次の瞬間、剣がヴァルゴを捕らえる。
瞬間移動魔法か。
だが・・・ヴァルゴは慌てない。
スカッ
アイシャの剣がヴァルゴの体を通り抜ける。
驚愕に眼を見開くアイシャ。
対して、冷静なヴァルゴ。
ザッ
再び斬撃を繰り出すアイシャだが、剣はヴァルゴの体を通り抜けるのみ。
傷は一つもない。
ザッ
もういちどアイシャの剣が通る。
剣筋にそってヴァルゴの体が斬れるが、直ぐに修復される。
血などでず、現れるのはピカピカとした白い光のみ。
今、ヴァルゴの体は電撃の塊。
「あーん。キングスレイ家の娘。気は済んだか?」
「ぐっ」
ザッ
憤ったのか、勢いよく放たれるアイシャの剣。
それがヴァルゴの体を通り抜ける。
「無駄なことはするな。俺に物理攻撃は効かない」
今のヴァルゴの体は精霊化しているのだ。
物理攻撃は全てすり抜ける。
アイシャの剣も同じだった。
ザッ
再び放たれる斬撃。
だがヴァルゴの体に傷はない。
表情も変わらない。
「やめておけ、いったろ、体力と時間の無駄だ。何度やっても同じ。それが俺とお前の差だ」
ザッ
アイシャの剣が再びヴァルゴの体を通り抜ける。
斬るのではなく、大きく突いた格好。
だが・・・ヴァルゴにダメージはない。
「まったく・・・こりない奴だ。他の奴らと一緒にくればいいものを。
わざわざ一人で来るとはな・・・愚かな娘だ。愚かさは、死ぬまでは直らんか、せめてここで散るといい」
ヴァルゴが動き、刀を抜く。
電撃を纏った雷刀。
刀身の周りで、パチパチとした音が弾ける。
「これで、終わりだ」
ヴァルゴがアイシャに雷刀を振るうと、あたりが光に包まれた。