92話 エンチャンと使い
俺が起きると。
皆起きていた。
アドのペロペロ目覚ましたがなく、幾分寂しい気持ちで辺りを見回すと・・・
皆外に出ているようだ。
部屋の中には誰もいない。
俺が外に出ると・・・
あっ。
アイシャがいた。
「おはよう、アイシャ」
「トクガワですか、お早うございます」
礼儀正しく挨拶を返すアイシャ。
だがっ、彼女は自分の剣を持って素振りをしていた。
昨日、雷刀のヴァルゴに逃げられたことを気にしているのかもしれない。
俺はひとつ気になっていた。
アイシャが剣でヴァルゴを斬った時、奴の体をすり抜けたのだ。
あれは不可解だった。
ヴァルゴ自身も「俺に剣はきかない」と言っていたっけ。
そんなことがあるとはな・・・不思議だ。
「アイシャ、雷刀のヴァルゴは何者なんだ?随分不可解な戦い方をしていた。剣もすり抜けていただろ」
「奴ですか・・・奴は希少種の魔法使い、エンチャント使いですよ」
「エンチャント使い?」
「はい、そうです。精霊や魔物を自分の体に憑依させて戦う魔法使いです。
召還魔法の一種といわれていたりもしますが、エンチャンと使いは珍しいので、詳しいことは分かっていません」
ほーう。
そうなのか。
奴が『エレメンタル・エンチャント・雷獣っ!』と叫んだ瞬間。
確かに奴の力が膨れ上がった。
雷獣、精霊か魔物の一種を体に憑依させたのだろう。
「それで、剣がすり抜けていたのは?」
「多分、精霊との一体度が高かったのです。魔物系と一体化すると実態は残りますが・・・
精霊と一体化すると魔法使い自身の体も精霊化するため、物理攻撃が利かなくなることがあります」
「やっかいだな・・・」
「はい」
「でっ、精霊というと・・・・雷獣とかか?奴が叫んでいたが」
「おそらく。奴らのギルドは全員エンチャンと使いと聞いています。
国を襲って貴重な魔物や精霊を狩り、自分の体に憑依させているのです。
雷獣も奪った精霊の一つでしょう」
「それでか・・・奴は俺を巨大樹の精霊と勘違いして襲ってきたからな」
アイシャさんが俺を見る。
霧が晴れたような顔をしている。
んん?
どうしたのだろうか?
「合点がいきました。奴が何故このダンジョンに来ていたのか。やはり精霊が目的だったのですね。
巨大樹の精霊の噂は昔からありましたから・・・」
「巨大樹の精霊?」
「はい。巨大樹の中には精霊がおり、出会うと不思議なことが起こるというのは、昔からの噂です」
「どんなものがあるんだ?」
「確か・・・不思議な映像を見せられるとか・・・・話すうさぎにあったとか・・・色々ですね」
あれっ。
俺、巨大樹の精霊に会っちゃてるかも。
ピンク色のうさぎさんって、モロ巨大樹の精霊じゃないだろうか。
妙な映像を見ちゃったし。
って、待てよ。
そんなことよりも・・・
「ヴァルゴに俺が狙われているってこと?」
「はい。トクガワは精霊ではないですか?」
「いや、全然違う。元々ヴァンパイアだし」
「そうですか・・・でも、ヴァルゴは信じないでしょうね。トクガワを狩りに来るでしょう」
「だな。話が聞きそうな相手には見えなかった」
うん。
昨日はいきなり戦闘になったからな。
今度会っても同じようになると思う。
「でも安心してください。私にも考えがあります、ヴァルゴがたとえ精霊と一体化しようと、倒す方法はあります」
「というと?」
「精霊とて無敵ではありません。物理攻撃以外は効きます。
それに奴らも精霊を狩っているのですから、人間でも勝つことはできます」
「それはよかった。無敵の相手じゃなくて」
「しかし・・・雷獣は危険ですね。かなり強敵ですから。私も気が抜けません」
「俺もかな・・・」
昨日はほぼ互角だった。
何か勝負を決定付ける技が必要なのかもしれない。
となると・・・新たなバレットの開発か・・・
進化した力を試すときなのかもしれない。
どちらにしても成長の機会か。
久しぶりの強敵だ。
腕が鳴るぜ。
「アイシャ、一緒にヴァルゴを倒そう」
「はい、トクガワ、私は任務を果たします。奴を追ってこのダンジョンまできたのですから」
俺はアイシャと握手したのだった。
10/3 (月)22時に短編投稿しますので、宜しければご覧下さい。
「君の名を呼ぶとき ~人を好きになる瞬間」
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