ものさがし
白生は、何度も紙を見ながら、白空の足跡が消えた場所まで走った。
ちょうどその辺りに着くと、紙の光っている部分が動き、線から丸へと変わった。
「ここということ?」
もう一度見回しても、誰かがいる気配はない。一瞬、雪の中に生き埋めになっているのかと思い、背筋がヒヤリとした。だが、雪は今日降り始めただけあって、それほどの雪の厚みはないようだった。
……ということは?
「下?」
白生は細心の注意をはらって、斜面ギリギリまで近づき、覗き込んだ。
「うぅ~~」
白空は、自分が薄暗い闇の中にいることに気が付いた。目の前をひらひらと舞うマフラーを追って、上ばかりを見ながら走っていると、急に足が滑り、後ろに傾いた重心でそのままゴロンと転がり落ちてしまったのだ。
「ひっ」
陽の光がないだけで、こうも寒々しいものなのか。白空はその寒気を感じ取って、必死に周りを見回した。
左側から、一直線上に光が差し込んでいる。そちらを向いて、少しでも暗闇から逃れつつ、外の様子を見に行こうとしたときだった。
にゅっと上から逆光のせいで黒い人影が下りてきた。
「あっ」
突然の登場に驚いた白空は、身を固くしたが、
「ああ、白空、こんなところにいたのか」
人影が自分を探しに来た白生だと分かると、白空は傍に駆け寄って抱きついた。
白生は紙の線が示す先に白空がいることが分かると、ほっと胸をなでおろした。
「心配したんだからな」
しがみついて体をくっつけてくる白空の体温を感じながら、まるで動物のこどもみたいだとも思った。
目的のものが見つかったことが伝わったのか、手に持っていた紙は、自分は役目を終えたというように、輝きが消えただの紙に戻った。
「何度見ても、便利な魔法だよな……」
父から譲り受けた魔導書。それをポンポンと優しく叩いた。
「う?」
それに気づいた白空は、これは何なのかというように魔導書を指差した。
「これは大切なものだよ。さて、こんな所、早く出てしまおう」
白生が先に出て、白空を引っ張り上げるという形で、二人は無事明るい雪の上に戻った。
眩しさに目を鳴らしていると、白生はあることに気が付いた。
「あれ? 白空、マフラーは?」
白空も言われてからないことに気づいたらしく、焦ったように周りをきょろきょろし始めた。
「んー、なくしちゃったのか……まあ、また買えばいいから、気にしなくていいよ」
そう言われても、それを追ってここまで来たのだ。なくしたで済まされてそのまま帰るのは、幼いながら腑に落ちないものがあった。
「結構気に入っていたのかな? でも、ないものはないんだから、どうすることもできないんだよ」
不満そうな白空を、白生は宥めながら家へ向かおうとした、ちょうどそのとき。
ガサガサッ
まだ雪に埋もれきっていない植物の葉に、何かが触れる音がした。
しかし、今は特に風が吹いたわけでも、ましてや、こんな場所に誰か人が訪れたわけでもないようだ。
「なっ、何者だ?」
気配を感じ取れないなか、白生は必死に、音の主を見つけようとした。
ガサガサガサッ
「どこだ?」
白生が警戒を強めたところだった。
「う」
白空の暢気な声がして、服の裾が引っ張られた。
「ん?」
振り返ると、赤褐色の毛並みで、ふさふさした先の白い尾を持った動物が、こちらを見据えていた。
狐だ。
その狐は、そっとこちらに近づくと、口に咥えていた何かを置いて、すぐさまいなくなった。
白空が駆けていき、それを拾ってきた。
白生もしゃがんで見ると、それは例のマフラーだった。雪にまみれて見るからに巻いても寒そうだが、しっかり乾かせばいいだけだ。
「届けてくれたんだ。よかったね」
白空は嬉しそうに頷いた。
「もう、どこにいるか分からないけど、ありがとうって伝えなきゃね。ありがとう、狐さん」
「あーとぉー?」
「うん、そうそう」
白生が微笑むと、白空も応えて一層笑顔になった。
よし、と白生は立ち上がり、脇に本を挟むと、反対の手を白空と繋いだ。
「すっかり遅くなってしまったね。帰ってお昼にしよう」
初冬の雪が、また舞いはじめていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
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そのうち、この登場人物の出会いの話やその後の話も描きたいなーと思ってます。(※すぐとは言ってない)