ブチ
茜を襲った三匹の猫は、自分達のボスのところへ逃げ帰った。
「てめえら、女一匹に何やってんだ!?」
「そ、それが後少しってところで虎が帰って来ちまって……すんません」
「ちっ、仕方ねえな。今回は報酬はなしだからな」
「そ、そんな。ブチ、頼むから何かくれよ。せっかく行ったってのに何もねえんじゃ、うちの嫁が何て言うか……」
三匹のうちの一匹はブチに対して訴えてきた。
ブチは考える仕草をしながら、その猫に伝えた。
「今回だけだぞ。次の失敗は許さねえからな」
「あ、ああ。わかってる」
ブチは他の二匹にも、手土産として魚を渡してやった。
ブチは虎とは敵対しているが、全く人(猫)望がないわけではない。こうして子分に色々やらせるが、きちんと報酬は与える。そして狩りの腕も一流だ。だから、いつも豊富な食べ物がある。それでも、虎と対立するのは、同じく人望があるというのと、縄張りのことだ。公園は食べ物が豊富だ。それを虎やその仲間たちだけに独占させておくには、我満ならないのだ。かといって、虎と仲良くするのも癪に触る。うまがあわないのだ。
結局は力で奪い取るしかない。ブチはそう思っていた。
「女さえおさえれば、きっと虎のやつは俺の言うことを聞かざるを得なくなるはずだ」
ブチは呟いた。
次はどうするか……やっぱり虎のいない時に女を連れ去るしかないか。今度はもう少し腕のたつ連中を行かせるか。ブチの茜への魔の手は忍び寄りつつあった。