8:魔王ちゃん、そして飴ちゃん
前回までのあらすじ
G「きえろ!ぶっとばされんうちにな!」
ここはノースリンド地方、煉瓦と煙突の景観が有名な街ノースライバック。
ではなく、その近くにある小高い丘。
そして俺の名前はカンベエ。
今日は、この街を襲撃する予定のガルガントリエを応援するために皆でお出かけ中だ。
皆と言っても俺を含めてここには三人しかいない。
他の二人は魔王ちゃんとチャネルライトさん。
犬は留守番だ。
俺は遠見の魔法によって街道の様子を宙に映し出していた。
何故こんな事をしているかと言うと、面倒な騒ぎを避けるためである。
魔族が勇者の戦いを直接街中で観戦する訳にもいかないしな。
とか考えていたら、我等がホープのお出ましだ。
「魔王様、ガルガントリエが街に到着しましたよ」
「ようやくか」
確かに少し遅かったな。
子供の足で移動しているから仕方ないと言えば仕方ないが。
またボルドフォック様コース(犬死に)かと思って心配したぞ、おい。
『くっくっく!あーっはっはっは!
ボクの名前はガルガントリエ・スタークス!
魔王シャムノア・シャンメリー様の右腕にして、孤高の天才魔族!』
早速、門番に喧嘩を売り始めたガルガントリエ。
孤高の天才とか言っちゃってるが、俺達との馴れ合いはいったい何だったのか。
てか四天王として組織に組み込まれている現状、それは孤高と呼べるのか?
めっちゃ犬と遊んでたよね?
孤高な奴が犬飼うの?
ねぇ、飼うの?
犬とかインコはセーフなの?
誰か教えてよ。
てかフルネームかっけーな。
『まったく、魔物ごっこか?変な翼まで背中につけて。
どこのガキか知らねえが、外は危険だ!さっさと中に入りな!』
『いい心がけです。殺すのは最後にしてあげましょう』
「ふむ、流石我が魔王軍随一の頭脳を持つ男!
なんなく街に潜入しおったわ!
この調子で目障りな勇者の息の根を止めてやるのだー!」
完全に近所のガキ扱いじゃねーか!!
あと魔王ちゃん。魔王軍随一も何も5人しかいないからな?
その内の1は犬だから正確には4人と1匹。
『軍』というより精々『群』だから。
「ガルちゃん、街の西側に向かってますね。
あっちは確か治安の悪い地域だったような」
「むむ!?人相の悪い男が三人も絡んできたぞ!
やってしまえー!!ガルガントリエ・スタークスよ!」
魔王ちゃん、何気にフルネーム気に入ってるよね。
さて、遠見の映像には見るからにならず者といった風体の男が三人。
心配ないとは思うが、いつでも転移できるよう準備しておこう。
あいつが居なくなったら、いったい誰が犬の世話をするというのか。
『へっへっへ坊主!こんな場所に一人で歩いてちゃいけねぇな!』
『帰ってママのおっぱいにでも吸い付いてるんだなぁ〜ケケケ!』
『それとも俺達が遊んでやろうか〜?超楽しいかもしれないぜぇ?』
うん。見るからに民度が低い。
民度たったの5、つまりゴミだ。
ちなみに魔王ちゃんの民度はコンマ1を割っている。つまりクズだ。
『ほう?この魔王様の右腕、ガルガントリエと遊ぶと言ったのか?
貴様らにそれ程の実力があるとはとても思えんが……』
『ばっかお前!俺ぁ、かくれんぼなら誰にも負けないぜ?』
『ケケケ!縄跳びの技術のみで千変万化の称号を貰った俺の実力を見よ!』
『剣玉って知ってるか?俺という男の代名詞さぁ!』
こいつら、ガチで遊ぶ気だーーーーーーー!!
しかもお金がかからない奴!
民度低いとか言ってごめんなさい!
「ははは、いい大人なんだから働こうよ」(ボソ)
チャネルライトさん言っちゃったーーーー!!
『ほう、貴様ら。その剣玉?とか縄跳び?の技なら勇者にも負けないと?』
『当然だ!なんならやり方教えてやるぜ?』
『いやいやー、坊主じゃ俺達の厳しい特訓についてこれないだろぉ?』
『クケケケ!』
おいおい。なんか流れが不穏になってきたぞ。
まさかそんな挑発に乗ったりしないよな?
『何!?ボクを馬鹿にする事は許さんぞ!!』
『へっへっへ!決まりだな』
『いいだろう、お前らの技術を全てモノにしてやる!!』
乗ったーーーーーー!!
駄目だ、ツッコミが追いつかない。
おい上司、なんとかしろ!
「魔王様、方向性がズレてきました」
「うむ。しかしカンベエよ。剣玉なる武器には我も興味がある」
「 」
「剣の玉と言うくらいだ。おそらく剣の柄頭の部分から鎖で繋がれた鉄球が」
「剣玉はただの玩具だよ!!」
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あれから一週間の時が過ぎた。
ガルガントリエがならず者達の熱い指導を受け始めてすぐ後、
俺達は転移で自宅に帰った。
ここからじゃ距離が遠すぎて、街の様子は探れないが、
かといってガルガントリエの遊びをずっと見ているのも馬鹿馬鹿しい。
まだ犬の世話をしていた方がましというものだ。
「うりうり〜、犬はやっぱ可愛ぇーなぁ」
その犬だが、現在魔王ちゃんの丁寧なブラッシングを受けご機嫌な様子だ。
こいつは何もしなくていいんだから楽だよな。
ま、俺も大した事はしてないけどな!
バサバサッ!
換気のために開けていた窓から小さな侵入者がやって来た。
その正体は一羽のカラス。
よく見れば、脚に手紙を括りつけている。
おそらくガルガントリエの使い魔だろう。
「魔王様、ガルガントリエから手紙が届きましたよ」
「ん?あぁー。そんえばあいつ、街で遊んでるんだったな
まったく羨ま……けしからん奴だ!」
羨ましいっていいかけたよね。
言いかけたよね、今。
最近、もう勇者どうでもよくなってきてないか?
いや、下手に薮を突くと面倒くさい蛇が出て来る。
ちゃっちゃと手紙を読んで昼寝でもしよう。
「えーじゃあ読みますね」
「ほいほーい」
ソファーの上で、ぐでーとしながら犬と戯れる魔王ちゃん。
例え彼女に聞く気がなくとも、読まないという選択肢は無い。
俺は手紙を広げ、そこに書かれた文字を一語一句そのまま読み上げた。
『報告がある故、北の森の隠れ家まで来られたし。
追伸:勇者、孤高の天才の前に敗れたり。』
「カンベエ!すぐ出るぞ!!」
変わり身はやっ!
この時点で落ちがわかってしまった俺は、
書斎で本を読んでいたチャネルライトさんに犬を託し、
ダラダラと外出の準備を済ませるのであった。
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「魔王様、やりました!ボクはついに!
縄跳びと剣玉で、あの憎き勇者達を下しましたよ!」
「お、おう。そうか。流石は我が誇る四天王だな、ははは」
俺にとっては予想通りの結果だが、魔王ちゃんにとっては違っていたらしい。
口角を引きつらせながら、複雑な表情を浮かべる魔王ちゃん。
ガルガントリエ自身は真面目にやっているつもりなので始末が悪い。
これには我が主も空笑いするしかない。といった状況だ。
「こちらは戦利品でございます!お納めください」
そう言って魔王ちゃんに拳を差し出したガルガントリエ。
魔王ちゃんが掬うように手を添えると、ガルガントリエは拳を解き手を引いた。
魔王ちゃんは首を傾げながら、掌の上に乗せられた何かを見つめる。
翡翠色をした、まーるいまーるい、宝石のような、一粒の……
飴ちゃんだった。
「ガルガントリエよ……これは何だ?」
「は!メロン味でございます!」
「味の話しなどしておらんわ!!!」
うん、完全に近所のガキ扱いで終わったもんね。
流石の魔王ちゃんも怒るよね。
我慢の限界だよね。
俺からしてみたら、この魔王にしてこの部下在り、といった感じだが。
それだと自虐になりかねないので大人しくしていよう。
「ぐぬぬぬ、もうよい!次は我が直接出るもん!!」
「えっ」
こいつぁー驚いた。
また久しぶりに聞けるってのかい?
あの清々しい程に流麗な負け犬の遠吠えを!
胃潰瘍で胸が熱くなるな!
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・今日の魔王ちゃん 犬に遊んでもらったよ!
・魔王ちゃんの軌跡
最短戦闘時間:00分00秒(戦う前に城ごと爆破)
最長戦闘時間:08分59秒(ただし相手は人間の子供)
累計戦闘時間:16分01秒
ブクマ、評価、ありがとうございます。
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