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6:魔王ちゃん、思い出す

「何かを忘れている気がする!」


 薮から棒に言い出したのは魔王ちゃんだ。

 俺は釣り竿のメンテナンスをしながら話半分にそれを聞く。


「犬の散歩ならボクが今朝しましたよ」

「いいや、ちょっとそーゆーのとは違う」


 ガルガントリエは犬の世話係に任命した。

 犬の世話をしている内はこいつも大人しい。

 流石に犬を魔改造しようとまでは考えていないらしいしな。

 犬様々である。


 ん?これは、もしかして……!?


「あ!?」

「む?何か思い出したのか?」

「いや、釣り糸がかなり傷んでいるから、交換しないといかんなと」

「まぎらわしいわ!」


 魔王ちゃんに頭を叩かれた。

 全然痛くないんだが、これで本気だったらもう世界征服とか諦めた方がいいと思う。


「忘れてしまうような事なんて、大して重要な事じゃないだろ」

「うーん、確かにそうかもしれないが」


 それでも魔王ちゃんはいまいち腑に落ちない、といった感じに首を傾げる。

 そこに紅茶を持ってチャネルライトさんがやって来た。


「紅茶をいれましたよ。どうかされました?」

「いや、魔王様が何かを忘れているけど、それが何か思い出せないって騒ぎ出してな」

「別に騒いでなどいない!」


 騒いでるじゃん、今。


「む?チャネルライトよ、カップが一つ多いぞ?」

「え?おかしいですね……あれ?もう一人いませんでしたっけ?」

「ん?誰が?」

「いや、誰かまではちょっと……でも、なんとなく一人少ないような……」


 魔王ちゃんとチャネルライトさんは二人して首を傾げる。

 俺はなんだか微笑ましい気持ちでそれを眺めていた。


「まず我だろ?あとは……ひーふーみー……四天王も4人いるぞ?」


 足りない一人が誰かを考え始める魔王ちゃん。

 犬、ガルガントリエ、チャネルライトさん、そして俺とそれぞれを指で数える。

 そんえば俺、いつの間に四天王になったんだっけ。

 まぁいいや。


「ま、まさかお化けなんじゃ」


 チャネルライトさんが顔を蒼くして震え始めた。

 しかしこの家にお化けが存在するなんてありえない事だ。

 家を建てる前にアンデッド避けの結界を張ったのは俺だ。

 何度も術式は確認した。

 不備はない。

 だから心配をする必要がない。

 よって俺はお化け説を否定する。


「犬の分を間違えて余分に持ってきただけだろ?」

「うーん。そうなのかなぁ」


 しかし不安を完全には払拭できなかったみたいだ。

 良くない流れを変える為に俺は話しを逸らす事にした。


「紅茶。冷める前に飲もうか」

「む?わかったぞ!足りないのは茶請けだ!」

「あー、そうそう。魔王様は茶請けを頼み忘れていたんだ。はい解決!」


 なんだよ。

 あれだけ騒いで忘れていたのは茶請けとか。

 やっぱりしょーもない事だったじゃないか。


「茶請けですか。今ちょっとお菓子はないですね」

「茶請けとはちょっと違いますが、いいツマミならご用意できますよ」


 ちょっと待っていてください。

 そう言ってガルガントリエは駆け足で部屋から出て行った。

 それから3分後。

 戻って来たガルガントリエは、大きな皿をテーブルの真ん中に置いた。

 木々のこうばしい香り……そして一口大にカットされた肉……これは?


「猪の薫製です」



「「「あ”」」」




////////////////////////////////////




「反応はここらで途絶えています」


 ここは魔王城跡地郊外、南の森。

 俺の名前はカンベエ。

 主である魔王ちゃんのために、今日も一生懸命に働くナイスガイだ。


 ええ。忘れていましたよ。

 すっかりすっぽりすっぽんぽん!っと抜け落ちていましたとも。

 だからこうして探してるじゃないか。

 四天王の壊し屋、破壊大公ボルドフォック様をな!


「ガルガントリエよ、それは確かか?ここには何もないぞ?」


 俺達は街道から少し外れた森の中にある茂みに行き着いた。

 ガルガントリエは探知も得意との事。

 その言葉を信じ、案内されるがままに付いて来たのだが、見た感じ何もない。


「たぶん、この下ですね。掘りますか?」

「我はパス」

「忘れてたんだからみんなで掘りましょうよ」

「えー、めんどくさー」


 ぐだぐだ言いながら穴を掘る事30分。

 ようやくお目当てのを発掘する事が出来た。

 俺はボルドフォック様を転移で引き上げる。

 案の定というか。

 地中に反応があった時点でだいたい察していたが。

 ボルドフォック様は死んでいた。

 いやぁ、ほんと。惜しい人を亡くしたなー。


「ボルドオオオオオォオーーーーーー!!!」


 ボルドフォック様の亡骸を抱え悲鳴を上げる魔王ちゃん。

 だが俺は見逃さなかった。

 魔王ちゃんが叫び声を上げる前に目薬を使っていた場面を!


「我が!我が無力なばかりに!!」


 いやいや、なんで急にドラマティックな演出してるの?

 そんな長年連れ添った相棒を亡くしたみたいな反応しても消えないよ?

 部下の存在と自分が下した命令を忘れていた事実は消えないよ?

 消えないからね!?


「くっ!敵討ちだ!皆の者!武器を取れ!

 ボルドが受けた屈辱、そして我等の憎しみは、

 もはや勇者一行の命でしか購えん!」


「いや、これは単純に魔王様の采配ミスなのでは?」


「……弱い奴はいらん!

 所詮ボルドもこの程度の男だったというだけの事!」


 この人、最低だー!

 なんて思ったのも束の間。

 俺達は奇跡を目撃する。

 なんと、死んだと思っていたボルドフォック様が息を吹き返したのだ!


「ごふっ」

「ボ、ボボボッボボボーボルドフォックよ!生きていたのか!?」

「魔王様、落ち着いてください」


 うちの壊し屋がどっかの鼻毛使いみたいな名前になってるぞ。


「ふむふむ。一度死んだ事によってアンデッドとして復活したんですね」


 ガルガントリエの解説が光る。

 アンデッド化したら生きてた頃の記憶が希薄になるはずだが。

 ボルドフォックゾンビの瞳には理性が残っているように見える。

 まったく、悪運の強い猪だ。


「ま、魔王様、すみません。ドジ踏みました」

「も、もうしゃべるな!」

「あ、あいつは悪魔みたいな奴だった……」

「勇者だな!?」

「俺を挑発して……落とし穴に誘い出し……生き埋めに!!」

「クソ、勇者どもめ!なんと卑劣な!!」

「魔王様……俺は……ぐやしい!」

「大丈夫だ!仇はかならず我が」


「あの猿顔の糞ガキ、絶対に許さねぇっ!!」


「うむ!自分のやられた借りは自分で返さねばな!!」


 えーーーー!?

 相手がトラウマだとわかった瞬間、あっさり掌を返しやがった!

 ゲスい!ゲス過ぎるぜ!魔王ちゃん!!


「まー、我がやったら瞬殺だしー?

 それってボルドのためにもならないって思うんだよね?

 勿論、我がやったら瞬殺だけどな!

 あー、残念!我、力持て余してるけど部下のために見せ場譲るわー」


 しかも部下をダシにして逃げやがった!

 なんという徹底したクズっぷり!


「よーし、ボルドも回収したし。今日は帰るぞー」

「ボクが狩った猪の肉が余ってるし、今晩は牡丹鍋とかしちゃう?」

「ふふふ、私は魚が食べたいです」

「ほれ、カンベエ。さっさと転移せんか」


 しかもまだ俺の家に居座る気満々じゃん!

 くそー、また増えるのかー!

 どうでもいいから、俺の癒しの空間を返してくれ!!

 たまには一人でのんびりしたいんだよ!!





 その後、俺の家に帰った魔王ちゃん一行だったが、

 ボルドフォックがアンデッド避けの術に引っ掛かり消滅。

 破壊大公の最後は、実にあっけなかった。




////////////////////////////////////




・今日の魔王ちゃん  敵前逃亡。



・魔王ちゃんの軌跡

  最短戦闘時間:00分00秒(戦う前に城ごと爆破)

  最長戦闘時間:08分59秒(ただし相手は人間の子供)

  累計戦闘時間:16分01秒


いつも応援ありがとうございます。

今日明日は仕事なので一話づつの更新になります。

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