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21:魔王ちゃん、鬼畜鬼ごっこに泣く

 チャネルライトが青い筒状の何かを取り出し、先端をこちらに向ける。

 次の瞬間、突然の炸裂音。視界一面が明滅し脳が焼かれる錯覚に陥る。

 そう、錯覚。


 嗅覚を突く様な焦げ臭い匂い。

 肌を裂くような熱の痛み。

 未だ耳の奥に居座る残響。

 蠢きながら視界を覆い隠す黒煙。


 それらがもたらした一瞬の混乱。五感の麻痺。

 この状況において、致命的な隙を生んだ事は言うまでもない。


「ケホッ、この至近距離で花火の魔具ブっぱするか普通!?」


 悪態を吐いている間に煙が晴れていく。

 通路の奥、魔王ちゃんを担いで逃げるチャネルライトの背が、遠くに見えた。


「あ、あんのドジロリ魔王が!!」


 また性懲りも無く拉致られやがった!

 あいつのどこが王なんだ!精々、間が抜けて大魔工おおマヌケだ畜生!




////////////////////////////////////




 剣玉において重要なのはリズム感、そして体の力を抜く事だ。

 動きが固ければ固い程、テンポにズレが生じる可能性が高くなる。

 慣れない内からスピードや穴の位置を自在にコントロールする事は難しい。

 だから変に計算しながら、玉を注視し追いかけるよりも、

 独自のテンポをつくり、剣玉全体をぼんやり眺めながらリズムに乗る。

 そう、目で追うのではない。リズムに乗せて体で玉を誘い込むのだ。


 一度コツを掴めばリズムを少し変えるだけで応用技に繋げる事も可能だ。

 慣れてくれば目を閉じた状態でも、それは可能となる。

 簡単な事だ。自分の中のリズムを崩さない。ただそれだけの事なのだから。


 だが、そこに別のリズムを加えるとなると格段に難易度が上がる。

 むむ?何の話しかわからない?


 勿論、大縄跳びをしながら剣玉をする、そのための心得です!


〜10分前〜


「大道芸?そんな即興の芸で上手く稼げるのですか?」


 頼ってしまったボクが言うのも何だが、

 この見窄らしい師匠達が資金集めに詳しいとは到底思えない。


「へへへ、そうだ。金ってのは何かの対価として受け取るもんだ」

「だが俺達には手元に売れる物なんてねえ!ケケケ!」

「じゃあどうするかぁ?技術を対価に小金を稼ぐしかねぇよなぁ?」


「それはそうなのですが、具体的には何をすればいいのですか?

 大道芸とやらについてボクはあまり明るくありませんよ?」


「弟子はいつもみたいに剣玉トリックを決めるだけでいいぜぇ?」

「へっへっへ、ただし、大衆の前で縄跳びしながら、だがな」

「ケケケケ!ケケケケ!大縄は俺と兄様が回すぜ!」


「あー、確かに。天才のボクでもそれは簡単ではありませんが」


 やって出来なくもない……とも思います。

 いえ、むしろそれでお金を稼ぐ事が可能なら想定より楽なくらいだ。

 本当にこんな事でお金が貰えるのでしょうか?

 師匠の言う事だしなぁ。


「へへっ、納得してないって顔だな。いいか?

 この方法は誰でも出来るわけじゃねえ。お前だから成功するんだ」


「と、言いますと?」


「俺達兄弟の風貌は正直褒められたもんじゃねえ。ゴロツキもいいとこだ。

 そんな俺達と共に可愛らしいガキが精一杯愛嬌振りまいて芸するんだぜ?

 普通訳ありだと思うだろうが?」


 なるほど、同情を誘う作戦という訳ですね。確かに人間には有効そうだ。


「ケケケ、成る程、冴えてるな!兄様!」

「思ったより現実的じゃねぇか」

「で、弟子よ。やるのか、やらんのか?」


「わかりました。それでいきましょう。

 ですがただ同情されるだけではこのガルガントリエ、プライドが許しません!

 人族の愚民共には真似できない、魔界最高峰の芸を披露してみせますよ!」


 それがボクの……。

 最高の魔王である我が主、シャムノア・シャンメリーの四天王、

 灰色の脳細胞を持つ天才、ガルガントリエ・スタークスの戦いだ!


 四人の高笑いが路地の片隅に響く。

 さあ、作戦開始といきましょうか!




////////////////////////////////////




 転移魔法の使い手から逃げきる事はとても難しい。

 それはエリート諜報機関員に師事した私にとっても同じことだ。

 ましてや、子供と同じくらいの体重とはいえ、魔族を担いでいるこの状態。

 正直、とてもしんどい。


「ほら追いついたぁ!」


 とか考えている間にもほら!

 目の前に突如として現れたカンベエさんが道を塞ぐ。

 あーもう!転移魔法がトラウマになりそう!

 私は懐から花火の魔具を取り出す。

 当然、一度同じ手を受けたカンベエさんもそこは警戒していたようだ。

 魔具は瞬時に転移魔法でカンベエさんに奪われる。

 が、その工程で発生する一瞬の硬直を私が見逃すはずもない。

 奪った魔具で塞がった片手側から懐に入り、がら空きになった腹部を強打した。


「んぐッ」


 そしてそのまま横をとおり抜ける。舌を出して挑発することも忘れない。

 怒って動きが単調になれば儲け物だけど、難しいかな?

 というかさっきから魔王様が静かなんだけどもしかして……


「うぐぐぐぐぐぐ、んご」


 酔ってる!なんかとても顔が青白い!


「揺れ、もうちょい、なんとか、して」

「できればそうしたいって言うか、こんな事したくないんですけ  」


「ほら、また追いついたぁ!!」


 急に現れたカンベエさんを避けるため、体の軸を捻り……。


「何!回転避けだと!?」

「ええ!しかも幻術を織り交ぜた特殊歩法です!」

「やるな!とりゃ!!」

「そっちこそ!甘い!!」


「むぐーーー(死ぬぅぅぅぅ)」


 さあ、このままなんとかやり過ごして例の場所まで辿り着く。

 そこまで来れば……後はどうとでもなる!

 私の勝ちだ!


「は、吐き、そう」

「も、もう少し我慢してください!」




////////////////////////////////////




 だああ、畜生!チャネルライトが手強い!

 確かに俺は運動音痴だが、にしたってあいつは逃げるの上手過ぎるだろ!


 転移魔法で魔王ちゃんを引き寄せて回収できれば楽なんだが。

 転移妨害の影響下で動く標的を追いながら転移で引き寄せる、

 というのは非常に難しい。


 転移魔法は始点と終点の座標と消費魔力の計算がとても繊細な魔法で、

 行使に寸分の狂いが生じれば、大変な事故に繋がる可能性もある。

 現状、魔王ちゃんを転移すると壁に埋まって爆散する事もありえるのだ。

 特に自分以外の生物の転移は計算が複雑で消費魔力も多い。

 今までは魔力を多めに使って強引に軌道を修正できたが、

 それは生物ではなく、対象が物だったから。

 つまりこの局面においては、自身の体を張って魔王ちゃんを助け出すしか選択肢がない、という訳だ。


 そう、それが出来ない。出来そうで出来ない。


 まず、チャネルライトの使う幻術、あれが大変厄介だ。

 こちらが地下通路の地理を把握していないのも痛い。

 幻術で罠や通路を隠したり、幻影デコイを使って間違ったルートへ誘導したり、

 御陰さまで疲労困憊、満身創痍の焼肉定食だ。

 何言ってんだ俺?

 騙され、離された距離は転移魔法を使えばすぐに詰める事ができる。

 が!減った魔力と精神力は元には戻らない!!

 嗚呼、こんな事になるならどうにかしてガルガントリエを連れて来ればよかった!


 その後も、一進一退の攻防は続く。

 相手が女性という事もあり、日本男児の俺は正直、相手し辛かった。

 もう少し魔王ちゃんが抵抗してくれたら、救える余地もあったのだが、

 こんな時に限って何故か、借りてきた猫のように大人しい。

 ああ、何で俺ばっかりが、こんな貧乏クジを引くのだろうか。


「ああ!また見失った!!」


 溜まった鬱憤を拳にのせて壁にぶつけようとして……。

 しかし、腕は空をきった。


「ん?何もない?いや」


 どうやら幻術で別の部屋の入り口を隠していたようだ。

 壁だと思っていた場所にぽっかり開いた空洞を潜ると、

 そこは天井が高く、広い円筒状の部屋だった。


「なんだここは……あ!」


 壁伝いに天井へと続く螺旋階段を駆け登る人影を発見する。


「チャネルライトォオォォォォーーーーー!!!!」


 それは憤怒から来る咆哮か、それとも歓喜の叫びなのか。

 今は自分でもわからない。


 だがそんな事はどうでもいい!


 例えばこの追走劇の最中、

 三回に渡り俺のジュニアを蹴り上げたチャネルライトは罪深い女であり、

 これ、片乳くらい揉んでも許されるよね?

 とか思っていた気もするが!


 そんな事はどうでもいい!!

 本当に気にしていない!!!


 入り組んだ通路では遅れをとったが、広い場所なら逃がさない!

 階段の終点まで転移で先回りして……ん?階段?

 ああ、そういう事か。

 チャネルライトの狙い、それは……。




////////////////////////////////////




・今日の魔王ちゃん  幻術で視覚的に酔い、揺れでも体感的に酔う。二重苦!



・魔王ちゃんの軌跡

  最短戦闘時間:00分00秒(戦う前に城ごと爆破)

  最長戦闘時間:08分59秒(ただし相手は人間の子供)

  累計戦闘時間:23分50秒

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