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20:魔王ちゃん、勝ち誇る

こっそり再開

 お久しぶりです。

 俺は魔王、シャムノア・シャンメリーの腹心、幹部A。

 名前はカンベエです。

 はい、ちょっと気合いの入った演出で登場してみました。 

 まあぶっちゃけ、事故だけどな!!


「な、なんや?あんた、どこの誰やねんな!?」


 ん?誰だこいつ?

 なんで異世界で関西弁なんだよ。

 逆に新しいじゃねーかよ。

 こりゃ負けてられないな。

 ここは俺も対抗して、何かキャッチーなキャラ設定で自己紹介と洒落込もうか。



「俺か?俺は……魔」


「んだ?なんでこんな場所にイソギンチャクの魔族がいるんだよ!」


「おい誰だ!?今、俺の事をイソギンチャクと言った奴!!」



 誰が無脊椎動物やねん!!

 ブツよ!!本気でブツよ!!!

 というかイソギンチャクの魔族の謎の認知度は何なの!?

 こっちの業界ではポピュラーなの?

 俺もちょっと会いたくなってきたんだけど、どこで見られる?

 え、鏡? やかましいわ!!



「なんでカンベエさんが?どうやってここまで!?剣聖様は!!?」



 おっと。そこにいるのは裏切り者のチャネルライトさんじゃありませんか。

 丁度俺もこの間、人類裏切ったところなんっすよ。これでお友達っすね!

 だって魔王26体を一人で倒して来いって言われたんだぜ?

 バイト無欠勤が売りの俺でもバックレルでしょ。

 まぁ、バイトした事ないけど。



「一つ目の質問から答えようか、何故俺はカンベエなのか?それは」


「いえ、そういう哲学的な話しではなく!

 というか、え?本当に無傷?何で!?」


「何故無傷なのか?それは三つ目の質問と内容が被るな。

 勿論、剣聖が俺の手(によって落とし穴)に堕ちたからさ」


「え、嘘でしょ!?」


「嘘なものか。今はもう土の中さ」



 嘘ではない。

 剣聖ちゃんの名誉のため、意図的に一部の真実を秘匿しているだけだ。



「はーっはっは!そらみろチャネルライト!

 やっぱりカンベエの勝ちじゃないか!

 我の腹心であるカンベエが剣聖を打ち倒したのだ!

 これはもう、我が剣聖を打ち倒したも同義ッ!!

 つまり王国の最高峰を無傷で倒した我は大陸最強!!!

 平伏せ、愚民共!王の御前であるぞ!!!!」



 鉄格子に顔をめり込ませ高笑いを始める魔王ちゃん。

 相も変わらず何もしてない癖に態度だけはでかい。

 どうして拉致監禁されていただけのお前が大陸最強になるんだ。

 と突っ込んでやりたいが、一つ一つの発言を拾って行ったら切りがない。



「で、二つ目の質問。俺がどうやってここまで来たのか?

 答えは優秀なスパイが案内してくれたからに他ならない」


「スパイ?そんな……まだ予備戦力を隠していたなんて」


「心配するな、別にあんたの調査不足が原因じゃないさ。

 だってそのスパイは、あんたもよ〜〜〜く知っている生物・・だからな」


「生物?いや、そんな……まさか!」



 その時、まるでタイミングを計ったかのように、

 天井にぽっかり開いた穴から今回の功労者、いや功労犬である犬が飛び出す。

 宙でキャッチしそのまま首を掻いてやると、犬は嬉しそうに目を細めた。



「くっくっく、はーっはっは!

 これは傑作だな、チャネルライトよ!

 お前は言ったよな?犬に何ができるのか、と!

 しかしどうだ!?我の四天王は我が腹心を立派にエスコートしてみせたぞ!」


「ま、そーゆーこった」



 因に、この爆発は俺が意図した訳ではない。

 地下で爆薬を使う程馬鹿じゃないぞ?


 爆心地である穴の上は武器庫だった。

 その付近で交戦した魔術師の炎魔法を転移で逸らした結果、

 たまたま保管していた火薬に引火して爆発したのだ。

 というか、火薬の近くに炎の魔術師を配置するなよ、馬鹿か。

 いや、もしかしたら普段はここで火薬を保管していないのかもしれないな。

 剣や槍など他の金属が多く保管されている場所だ。

 いくら木箱で保管しているとはいえ、

 化学変化しやすい火薬を保管する場所としては、適していると言い難い。

 おそらく、魔王城を爆破する際に準備した火薬が大量に余ったのだろう。

 そして仕方なく、一時的に保管する場所としてこの地下を選んだ。

 ここなら日光や外気に影響されにくく、警備の面でも安心できる。

 と、いったところだろうか。


 ま、結局爆発したけどな!


 交戦していた衛兵は爆発に巻き込まれ気絶、

 その際開いた床の穴は魔王ちゃんのいる監獄フロアに直通。

 なんともラッキーな話しだが、因果応報とはこういう事を言うのだろう。

 爆破していいのは爆破される覚悟を持った者だけだ!的な?


 しかし流石はチャネルライトだな。

 あんなド派手な登場をしたにも関わらず動揺したのは最初だけ。

 今はすでに落ち着きを取り戻しているようだ。



「認めましょう、あなたは人類の脅威です。脅威ですが、ここまでです。

 この牢は頑強な特殊合金と衝撃吸収の魔術で強化されています。

 それに、爆破の音を聞きつけて増援がやって来るのも時間の問……」


「カンベエ!その犬は勇者の飼い犬らしい!チャネルライトに渡すなよ!」


「お?おう、そうだったのか」


「くっ……人質ならぬ犬質、というわけですか?

 む、むむむ無駄ですよ?鍵の場所は私も知りませんからね!?」



 めっちゃ動揺してるな、おい!!

 この犬が勇者の犬、というのは本当の事らしい。

 どこにでもいるポメラニアンにしか見えないのだが。

 あ、因に俺が好きな犬種はコーギーだ。


「キャウ!?」


 何かにショックを受けたように口を開けたまま犬が震えている。

 ガーンと擬音がつきそうな悲しい眼差しをこちらに向ける犬。

 なんだろう、思わず口にでていたのだろうか?

 いやいや、犬に人語がわかるわけないだろ。

 カンベエ、あなた疲れてるのよ。

 うん、とりあえず撫でてやろう。よーしよしよし。


「随分と余裕ですね?」


 冷や汗を拭いながら少しずつ後退するチャネルライト。

 一先ず時間を稼ごうという魂胆が丸見えだ。


「そう見えるか?」

「いつにも増して饒舌で……愉快ですよ」


 ああ、そうだろうよ。

 今の俺はテンションがフルマックスで上がってる状態だからな。

 だってそうだろ?


「間抜けな上司に使えない秘密兵器、裏切り者の同僚に不甲斐ない自分。

 こちとら腸煮えくりかえってるんだよ昂ってるんだよ感情が!!」


 心の叫びと共に転移術式を構成し、波紋の様に空間内へと広げる。

 すると鉄格子はハリボテのように呆気なく牢の外側へと倒れた。


「なッ」


 何が起きているのか理解出来ないチャネルライトは、

 目を見開きあんぐりと口を開けて固まっている。

 その表情が少し面白かったから俺は種を明かす事にした。



「鉄格子の金具を転移させた」


「ありえません!鉄格子には魔術干渉を無効にする術式が」


「その術を構成する魔力を先に転移した」


「そもそもここには転移妨害が」


「強引に押し通した」


「そんな無茶苦茶な!」



 無茶でも苦茶でもやってやるさ。

 俺は後悔しないように、ただ己の信念に従うのみ。

 そのためだったらなんだって利用する。

 そう、例えば……。



「イソギンチャク!でかしたァ!!」

「ええやんエーやん!なんや急に運がこっち向いてきたわァ!!」



 鉄格子の倒れた牢から二人の魔族が姿を現す。

 一人は肌の白い、痩せ細った糸目の魔族。

 もう一人は浅黒い肌を持ち、深紅の髪が逆巻く巨漢。

 二人の姿を確認した俺は犬を床に下ろし、指示を出す。


「よーし、犬!そこの二人を出口まで案内してやれ!

 あとイソギンチャクっつた方は噛んどけ!!」


「ぬあ!やめッ、クソいてぇ!!」


 尻を噛まれたのは巨漢の魔族だった。


「おっと反撃するなよ!貴重な案内役兼、勇者の弱みだぞ?はっはっは」


「ぐぬぬぬ。まあいい!今日だけは忘れてやらぁな!」


「世話になったな!ほなバイならや!」


 こうして謎の魔族二人組は犬の案内に従って走り出した。

 くっくっく、せいぜい増援とやらを引きつけてくれよ?


「ちょ、待ちなさい!」


 犬が走り去った通路の奥と俺を見比べて戸惑い立ち尽くすチャネルライト。

 二兎追う者が一兎も得ない事がわかっていても、

 どちらを追いかけるべきか計りかねているのだろう。

 そして当然だが、俺は答えが出るまで待つつもりなどない。

 どーれ、ちょっと軽く煽ってやろうか。


「待つ訳ないよなぁ?どうする?あれ魔族だったよな?

 ここに閉じ込めてたって事はあいつら、結構ヤバい連中なんだろ?」


「見たか!これがカンベエの精神攻撃だ!すごいぞウザいぞ!」


 自由になった魔王ちゃんもノリノリで野次を飛ばす。


「どうする?ここで剣聖を下した俺と戦うか?それともそれとも、

 そこのショボい魔王を見逃して犬と二人の魔族を追いかけるか」


「ショボくないし!」



 いやショボいだろ……。と魔王ちゃんにつっこんだら負けである。



「さぁ、好きな方を選べよ?」



 気分が高揚し自然と口角が上がる。

 今、俺史上最高に悪い顔を浮かべているんだろうな。

 嗚呼、なんだか楽しくなってきたぜ!


 そして追いつめられたチャネルライトは、一つの答えを絞り出すのであった。


「馬鹿に……しないでください」



////////////////////////////////////




・今日の魔王ちゃん  カンベエは我が育てた!(ドヤァ)



・魔王ちゃんの軌跡

  最短戦闘時間:00分00秒(戦う前に城ごと爆破)

  最長戦闘時間:08分59秒(ただし相手は人間の子供)

  累計戦闘時間:23分50秒


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