17:魔王ちゃん、AとBに出会う★
今回は試験的に挿絵をつけてみました。
非表示の方、ごめんなさい。
変に改行空いてるのはそのせいです。
「すみません!魔石ください!」
「坊や、お金持ってるの?」
「あっ」
ボクとした事が失念していた。
人間社会ではお金がないと何も手に入れる事はできないのだった。
これでは魔石を手に入れる事なんてできない!
魔石がなければメカ・ボルドは動かない!!
ど、どうしよう!?
【関係ないね】
【譲ってくれ】
→【殺してでも奪い取る】
よし!殺そう!
いやいや、待て待て、それができたらやってるってば!!
魔王様が誘拐されている今、下手に騒ぎを起こしてはいけない!
これはカンベエと何度も擦り合わせをした共通の認識。
それをボクの勝手なタイミングで破るわけにはいかない。
と、なれば残る選択肢は……。
→【譲ってくれ】
これしかない。
この店員の老婆は見るからにガメツそうだけど、
愛嬌を振りまいて精一杯お願いすれば或は……。
「あ、あのう。欠片でもいいので譲っ 」
言い終わる前に不敵な笑みを浮かべ中指を立てる老婆。
なんてファンキーで浅ましい!
見ているだけで怖気が奔る!
これが人間の底知れない欲望……というやつなのか!?
こんなの、こんなのーーーー!!
「勝てるわけないじゃないですかぁ〜〜〜〜〜〜〜!」
ボクは泣きながら店を飛び出す。
悔しい!自分の無力が悔しい!
このところのボクは本当に役立たずだ!
「あっ」
足がもつれ、地面に顔から飛び込むような体勢で転倒する。
情けなくて、情けなくて、自分の情けなさに再び涙が溢れてくる。
そんな時だった。
「へへへ、どうした、坊主?」
「ケケケ!浮かない顔してんじゃねーよ」
「キメ足りねぇんなら、いっちょ俺達と(縄跳び)トんでくかい?」
頭上から聞き慣れた声が降りてきた。
師匠達だった。
「ほらよ、立てるか?」
差し出された手を取り起き上がる。
なんだか恥ずかしい所を見られてしまったな。
「そ、そうだ!師匠!!ボクにお金を貸してくださいよ!」
人間である師匠なら、人間の通貨を所持しているのは道理!
ようやくボクにもツキが回ってきたぞ!
「弟子よ、俺達には貸せる金はねぇが……これがある」
「……師匠」
差し出されたそれを見る。
剣玉だった。
「弟子よ……剣玉と共にあらんことを……」
「現実を見てください師匠!剣玉に金銭的な価値はありませんよ!!」
ボクの心の叫びは何人かの通行人を振り向かせた後、街の喧騒に掻き消された。
師匠達は少しだけ驚きの表情を浮かべたものの、
すぐに後にはいつもの陽気な笑顔に戻っていた。
「はっはっは、弟子に諭された!!」
「ケケ、弟子も大人になったんだな」
「へっ、何でだろうな。ちょっと誇らしいぜ!」
そしてボクは理解した。
抱えている問題からして、頼るべき人選を誤っていたのだと。
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「はーっはっは!
我が名はシャムノア・シャンメリー!
暗くて埃っぽい牢獄に捕われた超絶美魔王!
本来なら刹那でこんな場所から脱出できるのだが、
魔封じの結晶魔具が邪魔で詠唱できないぞ!
これではあまりにどうしようもない!
しかし、希望はまだ残っている!
最後の四天王、ガルガントリエ・スタークスと、
我が腹心のカンベエなら、きっと助けに来てくれるはずだ!」
「おい、あんた。さっきから五月蝿ぇぞ」
「果たして我は無事、救出されるのか!?
はたまた、人間共の慰み者となるのか!!?キャッ☆
超絶美魔王シャムノア・シャンメリーの運命や如何に!?」
「チッ、聞こえなかったのか?五月蝿いって言ったんだよ!」
「次回、【魔王ちゃん、勝ち誇る】お楽しみに!」
「狭いから声が響くんだよ!ちっとは他の奴らに気ぃつかえや!!」
なんだこいつ?五月蝿い奴だなぁ。
まあいいや。放っておこう。
おっす!我、魔王!
よくわからない内に部下に裏切られた私は、
ノースライバックの地下監獄に幽閉されてしまったぞ!
いやー、まいったまいった!
……ほんとどうするのこれ。
もしかして私、殺されるの?
遺憾な事に逝かんといかんの?
こんな訳のわからない場所で?
「嫌だああああぁああ、死にだぐないぃぃいい!!!」
「五月蝿ぇって言ってるだろちょっとは静かにしろよクソガキがああああ」
通路を挟んで向かいの牢獄から怒声が響く。
相手の顔は暗くてよく見えないけれど、声からして男である事は間違いないだろう。
それはそうと、聞き捨てならない言葉が使われたな。
私はクソガキではない!
訂正を求める!
「が、ガキじゃないもん!私、魔王だもん!」
「はぁ?お前が?」
「そ、そうだ!お前なんかよりずっとず〜〜〜〜っと偉いんだ!」
反応はない。
魔王である私に向かい暴言を吐いた事を悔いているのだろう。
「ふっふーん!怖いか?」
「阿呆か。儂だって魔王だっつの」
「何を馬鹿な事を、本物の魔王は我だ!」
「おうおう、そうかもな。儂だって本物の魔王だけどな」
「ぐぬぬぬぬ、我を馬鹿にするのはやめろ!」
この男!言うに事を欠いて私の前で魔王を名乗るとは!
許せん!
「まぁ、まぁ、少し落ち着きぃーや」
別の男の声が偽魔王と私を仲裁した。
恐らく私の右隣の牢獄から話しかけているのだろう。
ここからでは顔が見えないけれど、独特なイントネーションが耳に残る。
「な、なんだ!?まさかお前も自分は魔王だー、とか言い出す気か?」
「ん〜?はは、せやで。ワイも魔王やで?」
ま、また偽魔王が増えた!?
「アンタ、知らんみたいやから教えたるけどな。
魔王。別に一人だけとちゃうで?」
「は?」
何を言い出すかと思えば。
知っているも何も、魔王は一人。
この私、シャムノア・シャンメリーと決まっている。
「ワイは亜空撃の魔王、アザト・アルミラーゼ」
「儂は爆業炎の魔王、ボーガス・バルザック」
だと言うのにこの人達は、堂々と二つ名までつけて名乗りを上げた。
自らの名を誇るような、躍然たる声音が牢獄に響く。
私には、この人達が嘘を吐いているようにはとても思えなかった。
「ふん、クソガキ。いい事教えてやるよ。聞いた後騒ぐなよ?
魔王ってのは数百年に一人だけ誕生する魔族の王だが……
今期はちょっと特別でな、何故だかわからねぇが複数の魔王が誕生した」
ボーガスが困惑する私の脳に追い打ちをかけるように言葉を押し付ける。
「その数——————26」
「2、え? はあああああぁぁぁあああ〜〜〜〜〜〜!?」
騒がずにはいられなかった。
何それ……26て!
魔王だけで同窓会開けるじゃん!
「だから騒ぐなって!……で、お前は何なの?」
「え、あ、えーと」
そんな急に振られても、私にかっこいい二つ名なんてないし!
ただの魔王じゃ舐められるかな?
ど、どどどどどうしよう!?
「はい!超絶美魔王シャムノア・シャンメリー……です」
「「ダウトッ!!」」
「失礼だし!!」
初めて出会った同期は、失礼な野郎共だった。
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・今日の魔王ちゃん 魔王ガチャ【シャムノア】レアリティー:コモン
・魔王ちゃんの軌跡
最短戦闘時間:00分00秒(戦う前に城ごと爆破)
最長戦闘時間:08分59秒(ただし相手は人間の子供)
累計戦闘時間:23分50秒
初めての挿絵がモブのBBA。
2枚目の挿絵が剣玉。




