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とある末端諜報員の憂鬱な回顧録4

忙しくて日が空いてしまいました。

明日は更新できそう。

 保護対象3のポ、及び観察対象0のSに関する報告書


 登録任務番号:043ー2

 報告責務者:レイ


 対象0のSは、北の霊峰の麓にて2人の配下と共に潜伏中。

 魔王城跡北部の森に所有する隠れ家を活動時の拠点とし、

 主に配下を使役して、勇者一行の抹殺を狙う。


 観察対象 0のS:抱いている野望の大きさと実力が噛み合っていない。

 脅威指数30〜150。


 ラピッドクロウ型:ガルガントリエ(配下1)

 精神面において未熟。不幸を呼ぶという噂は眉唾と思われる。手先は器用。

 脅威指数220程度。


 人族?(未確定):カンベエ(配下2)

 保有魔力が高いものの目立った行動は見られず。詳細に関しては別途資料参照

 脅威指数 未知数。


 アングリーボア型:ボボボッボボボーボルド(配下3:死亡確認)

 いつの間にか死亡していたが念のために報告を。

 脅威指数 3。


 追伸

 本件と直接的な関わりはないが、

 旧魔王城郊外の森にてスライム大量発生の兆候を察知。

 次の波は脅威指数1800程度と予想される。注意されたし。



 近況報告

・四天王結成。

・同日、アングリーボア型を刺客として送り込む。


 〜中略〜


・皆で釣りを楽しむ。

・皆でケボック菜の苗を植える。

・皆で天体観測。

・皆で料理対決(私は2位でした、悔しい)



 今の所、対象3のポの健康面に問題は見られない。


 以上。




////////////////////////////////////




 ノースライバックの近くには小高い丘がある。

 魔王一行(と言っても私の他にはカンベエさんと魔王様しかいないが)は、

 その丘の上で遠見の魔法を使い、本日の主役の登場を待っていた。


 打倒勇者に名乗りを上げた四天王の頭脳派、通称ガルちゃんだ。



 先日、四天王の猪男が落とし穴に引っ掛かりあっさり退場した。

 こんなうっかりさんが身内にいるなんて死ぬ程恥ずかしい。

 と思ったが、よくよく考えてみれば私は人間側の勢力だった。

 つまり敵の幹部が間抜けだった、というだけの事なのだ。

 何も恥じる必要はない。


 さて、話しを戻そう。

 何を成すでもなく欠けた四天王の一柱、猪男。

 彼の死を皮切りに、事態は新たなる局面へと動き始める。

 四天王ガルガントリエによるノースライバックへの侵攻だ。


 うん。失敗する未来しか見えない。


 私達は意気揚々と隠れ家を出発するガルちゃんを見送り、

 街の様子を魔法で一望できるこの場所へと先回した。

 ガルちゃんを陰ながら見守るためだ。


 しかし、私が本当に待っている人物はガルちゃんではない。


「魔王様、周囲の偵察に行って参ります」

「うむ!」


 私は魔王様の元を離れ、近くの森に分け入り、

 木々の影でその人が現れる時を待った。


「賢者の礎を標に」

「栞を辿り歩む」


 魔王対策特務機関【英知の書】に所属する諜報員の先輩である。


「報告書は読んだ。これを渡しておく」


 私は小さく折り畳まれた2枚の紙と、二種類の魔具マジックアイテムを受け取る。

 赤い球形の伝令魔具と、青い筒状の花火魔具、紙は機関の暗号文のようだ。



「近く、作戦を決行。詳細はそこに。

 それと忠告。カンベエという男には警戒必須」


「大丈夫ですよ。せっかく見つけた宝箱チャンスですから。

 必ず本件で功績を上げてみせます……必ずです」


「あなたが開けた箱は……死者の眠る棺かもしれない」



 棺……随分と不吉な比喩だけれど。

 今の私にはその言葉が妙にしっくりと馴染んだ。


 私は、私の事を信じている魔王様を罠にはめるのだ。

 仮初めとは言え、初めて出来た友達のような存在だった皆を……裏切る。

 きっとこの先、ただで幸せな未来が待っている、という事はないだろう。


 先輩の言う「死者の眠る棺」が何を意味するのかはわからないけれど、

 生きたまま何も感じない人間になる、という事なら悪くはないのかもしれない。

 きっと私には、それがお似合いだ。


 嗚呼、ガルちゃんを悪くは言えないなぁ。

 私こそが正しく、不幸の担い手だったのだから。



「作戦が無事成功したら報酬は期待していい。

 自分が手伝えるのはここまで。明日より北を離れ南へ向かう」



 ——健闘を祈る。

 そう言い残して先輩の気配は消えた。

 この作戦が成功したら……か。

 何故だろう。

 暖かい言葉のはずなのに、今は冷たいナイフのように心に突き刺さる。

 



////////////////////////////////////




 もやもやとした心持ちで魔王様の元に戻る。


「魔王様、ガルガントリエが街に到着しましたよ」

「ようやくか」


 どうやら丁度良い塩梅に事態が動き出したようだ。

 遠見の映像には検問所で騒ぎを起こすガルちゃんの姿が映し出されていた。



『まったく、魔物ごっこか?変な翼まで背中につけて。

 どこのガキか知らねえが、外は危険だ!さっさと中に入りな!』


『いい心がけです。殺すのは最後にしてあげましょう』



 難なく検問をスルーするガルちゃん。

 本当に……この子のどこが不幸の象徴・・・・・だというのか。

 いや、それにしてもあの検問はザル過ぎじゃないかな。

 街に戻る機会があったら警戒の強化を呼びかけてみようか。



「ふむ、流石我が魔王軍随一の頭脳を持つ男!

 なんなく街に潜入しおったわ!

 この調子で目障りな勇者の息の根を止めてやるのだー!」



 魔王様!あなたの部下は甘く見られているだけですよ!

 ほら、カンベエさんも複雑な顔で見てる。

 まあ、この前向きなところも魔王様の美点と言えなくもない、かな?


 映像に移るガルちゃんは、キョロキョロと勇者様を探しながら西へ向かう。

 ノースライバックの西端には貧民街はある。

 当然、貧民街に勇者様はいない。

 いるとすれば職を無くしたならず者くらいだろうか。

 


「ガルちゃん、街の西側に向かってますね。

 あっちは確か治安の悪い地域だったような」


 言った傍から、ガルちゃんの前に三人の男が現れた。


「むむ!?人相の悪い男が三人も絡んできたぞ!

 やってしまえー!!ガルガントリエ・スタークスよ!」


 見るからにならず者、といった風体の男達だ。


『へっへっへ坊主!こんな場所に一人で歩いてちゃいけねぇな!』

『帰ってママのおっぱいにでも吸い付いてるんだなぁ〜ケケケ!』

『それとも俺達が遊んでやろうか〜?超楽しいかもしれないぜぇ?』


 何だろう、随分と見覚えのある顔ぶれが横一列に並んで……。




 と い う か 兄 だ っ た 。




『ほう?この魔王様の右腕、ガルガントリエと遊ぶと言ったのか?

 貴様らにそれ程の実力があるとはとても思えんが……』



 思考だけが置いてけぼりにされた私を嘲笑うかのように、

 映像はその先を映し流す。



『ばっかお前!俺ぁ、かくれんぼなら誰にも負けないぜ?』

『ケケケ!縄跳びの技術のみで千変万化の称号を貰った俺の実力を見よ!』

『剣玉って知ってるか?俺という男の代名詞さぁ!』



 はいはい、鬼ごっこに縄跳び、剣玉ね。

 私も幼い頃はよくやっていましたよ?


 ふふふふふ…………ははははは。



「ははは、いい大人なんだから働こうよ」



 我慢できずに感情を吐露する。

 私は身を危険に晒しながらも給金を上げてもらおうと必死に働いているのに!

 家名を上げようと奔走しているのに!

 金策に走っているはずの三人の兄は謎の遊びに興じているときた!!

 しかもその意味不明な遊びに潜入先の敵戦闘員までもがノリノリだ。


 意味が分からない!


 本当に馬鹿馬鹿しい!


 誰も彼もが馬鹿ばかり!!


 私は未だかつて、こんなにも惨めな思いを抱いた覚えがない!!!


 ああ。

 もういいや。


 私がやらないと、家が無くなる。

 魔族に友情を覚えるなんて、最初から間違っていたんだ。


 もう全部壊してしまおう。




////////////////////////////////////




 ポメ助と魔王様確保の作戦は、私の合図一つで動き出すようだ。

 失敗は許されない。


 読み解いた暗号文の内容を頭の中で整理する。

 手順は以下の通り。


 1:カンベエさんを魔王様から引き離す。


 実力の底が見えないカンベエさんは、本作戦においては一番の不確定要素だ。

 それに彼が得意とする転移魔法も厄介極まりない。

 尤も、そこに関してはこちらでも転移妨害ジャマーの準備がある。

 それにカンベエさんの対策として、剣聖様まで出動なさるとか。

 足止め役としては豪華過ぎる配役だ。

 例えカンベエさんがどれだけ強くても、無傷では済まないだろう。

 魔王様は……悲しむだろうな。


 2:伝令の魔具によって信号を送る。


 伝令の魔具は一対になっており、片方に魔力を込めるともう片方が淡く光る。

 その後、信号の発信位置が球面に浮かび上がるという優れものだ。

 カンベエさんを魔王様から引き離す事に成功したら、この魔具で信号を送る。

 その後各所に待機した機関メンバー、及び剣聖様が動き出す手筈となっている。


 3:対象の確保。


 対象確保のために送られる機関の増員と合流。

 あらかじめ、魔王様とガルちゃんには痺れ薬入りの紅茶を御馳走しておく。

 魔王様は正直、あまり強くはないけれど、魔法を詠唱されると少し厄介だ。

 魔力を封印するまでは痺れていてもらおう。


 4:任務完了の合図を送る。


 花火の魔具。えーと、これは貴族のパーティーグッズだ。

 使い方は簡単。円筒状の魔具に魔力を込めると花火が上がる。

 伝令の魔具は高価だから、あまり多く準備する事はできないし、

 作戦行動中にずっと魔具を見ながら信号を待っている訳にもいかない。

 その点、こちらはコストがあまりかからない。

 諜報機関が使う合図としては……まぁ、かなり派手だけれど。

 任務が完了し安全圏に逃げられる準備が整っていれば問題ない。

 これで任務は終了。

 実家は救われ、晴れて私も貴族の御令嬢に戻る事となるだろう。


 うん。ちっとも嬉しくない。

 豪華な屋敷でワインを片手に優雅な生活を送るより、

 湖畔に佇む小さな家で庭を弄る方が私の性に合っている。


 なんてね。


 いいじゃないか、貴族生活。

 裏切り者のチャネルライトには、贅沢過ぎる末路なのだから。

レイの独白はここまでとなります。

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