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とある末端諜報員の憂鬱な回顧録3

ごめんなさい、まだレイの視点で話しが続きます。

一応、次で終わる予定です。

 私達は現在、魔王城跡地の郊外に存在する南の森に来ている。

 その目的は行方不明になった猪男こと、四天王ボルドフォックの捜索である。


 ガルちゃんには探知能力があるらしい。

 彼を先頭に一同は森を進む。


 今言葉にすると不謹慎なので口には出さないけれど、

 皆で冒険しているみたいで少し楽しい。


 私には友達と呼べる者は存在しない。

 というか存在した事すらない。

 貧乏子爵の末妹など、貴族社会においては侮蔑と嘲笑の対象でしかないのだ。

 幼少期の記憶を辿っても兄達と遊んだ事しか覚えていない。

 うん、なんだか悲しくなってきた。

 話しを変えよう。

 そうそう。今回、ポメ助は健やかに眠っていたので家に置いてきた。

 というか連れ出す暇もなくカンベエさんが転移してしまった。

 と言った方が状況説明としては正しいだろう。

 などと考えている間に目的地に到着したようだ。

 先頭のガルちゃんが立ち止まり、その場で回れ右の要領で振り返る。



「反応はここらで途絶えています」


「ガルガントリエよ、それは確かか?ここには何もないぞ?」


「たぶん、この下ですね。掘りますか?」


「我はパス」



 こらこら、そこは皆で協力するところでしょうに。

 まったく。魔王様は本当に仕方のない人だ。

 どこまで掘ればいいのかわからないのだ。

 単純作業は日が暮れる前に力を合わせてサクッと終わらせてしまうに限る。

 というわけで、私は魔王様を説得してみる事にした。



「忘れてたんだからみんなで掘りましょうよ」


「えー、めんどくさー」



 結果はご覧の通り。

 ここでカンベエさんが口を挟む。



「じゃあ適当に木陰で応援していてください」


「本当か!カンベエ!?」


「魔王様は貧弱なのでうろちょろされても逆に邪魔です」


「はぁ!?貧弱じゃないし!我も掘れるし!!」


「「「  どうぞどうぞ  」」」


「ウガーーー!1人で掘るなんて言ってないし!」



 と言いつつも逆上した魔王様は穴を掘り始める。

 やはり魔王様の扱いでカンベエさんの右に出る者はいない。

 なんとか全員が穴を掘る方向で話しが進みそうだ。

 と、そこでカンベエさんが苦笑を浮かべながら振り向く。

 背後で関心しながら様子を見ていた私と目が合った。

 何か言いたい事でもあるのだろうか。

 私は小首を傾げながらカンベエさんの言葉を待つ。



「チャネルライトさんは周囲の警戒を」



 ははーん。

 一応気をつかってくれているわけだ。

 なんだか照れくさい。



「確かに力に自信はありませんが、私だって穴くらい掘れますよ?

 それとも、私の手伝いは必要ありませんか?」


「いやいや、俺は見張りだって立派な手伝いだと思うけどね。

 それに、せっかく綺麗な手なんだから血豆が出来たらもったいないでしょ?」



 は、はははは。

 なんだろう、コレは本当に照れるぞ。

 うん、カンベエさんは女性の扱いもそこそこに手慣れているらしい。


 でもきっと。近い将来、この手は汚れてしまう気がする。


 本来であれば嬉しい言葉のはずなのに、とても素直に喜べない私がいた。

 ちょっと残念。歪んだ女の子でごめんなさい。



 三人が穴を掘っている間、少し離れた場所にある切り株に腰を下ろし感覚を研ぎすます。

 風が枝を撫で、木の葉と木の葉が戯れ合うように交差する音が聞こえる。

 森に根付くの生命の息吹を肌で感じながら、

 自らの意識を放出する魔力に乗せて外へと伸ばすようイメージを保つ。

 これが【回廊サーキット】式簡易感知魔法だ。

 詠唱を必要としない変わりに効果範囲にムラが出来るのが欠点。

 魔力操作に長けた者には看破されてしまう恐れがあるものの、

 野生の魔物程度ならこれで充分事足りる。


 さて、その感知魔法にわざわざ引っ掛かり・・・・・にやって来る者はどなたでしょうか?


「 賢者の礎を標に 」


 まるでそよ風が囁くように、耳元を合言葉コンタクトが通り抜けた。

 どうやら身内らしい。


「 栞を辿り歩む 」


 今月は・・・こう答えるのが正解。

 情報漏洩を防ぐため、合言葉コンタクトの掛け合いはしばしば変わるのだ。

 抑揚は薄いものの、どこか可愛らしいこの声を私は知っている。

 機関に所属する私の先輩の声だ。



「レイ……漸く見つけた。何か……面白い事になってる?」


「先輩にしては来るのが遅かったですね。面白くありません」


「無茶。転移する標的を一人で追跡する事は困難。報告書は?」



 機関の報告書とは、一般的な紙束の形の物を指す言葉ではない。

 任務遂行中の機関員が経過を記した小型の魔具マジックアイテムを指す。

 特殊な解析魔具が必要となるため、その場で情報を閲覧する事はできない。

 持ち運びが容易で内包できる情報量が多い点は紙よりも一日の長がある。

 単体ではゴミ同然なので情報漏洩の心配もない。



「持ち歩いてます、ここに」


「受け取る」



 私は懐から取り出したそれを、腰掛けの端にそっと置く。

 先輩はここで「ふぅ」と溜め息を吐いた。

 こんな私でも心配してくれていたのかもしれない。



「聞いて。返事は必要ない。大まかな現状はこちらでも把握済。

 準備が整い次第、再度接触。魔王と犬を確保する」



 先輩の言葉に、心が波立つ。

 ポメ助の確保は兎も角、魔王様も拘束……するの?


 いやいや、待て、今の私は少しおかしい。


 相手は人類の敵だ。

 確かにちょっと残念な性質で、とても脅威とは思えない魔王だけど、

 情が移る相手ではないはずだ。

 先輩は何もおかしな事を言っている訳ではない。



「レイは現状維持。時を待て、以上」



 その言葉を最後に背後の気配は幻のように霧散した。



 魔王様達が何やら騒いでいる。

 ボルドフォックを見つけたようだ。

 私はその光景を1人、遠くから眺めていた。



 その日の夜はとてもとても長かった。

 結局私は一睡もできず朝を迎えた。

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