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とある末端諜報員の憂鬱な回顧録1

4話の裏話しです。

 私の名前はレイ。

 グリンフレル王国魔王対策特務機関【英知の書】の、

 情報伝達班【回路サーキット】に所属する諜報員だ。


 国有機関の諜報員、と言えば聞こえはいいが、

 私は諜報歴1年と少しの末端諜報員でしかない。

 正直な話し、この仕事も仕方がなしにやっている。

 こう見えても私は貴族の御令嬢なのだ。

 自身が荒事に向かない性質だと理解もしている。

 では何故新米諜報員なんてやっているのか?


 はい、お金がないからです。


 敢えてもう一度言おう。

 私は貴族だ。

 しかし貴族と言っても、頭に没落寸前の・・・・・がつく。

 しかも三人の兄を持つ子爵家の末妹だ。


 負債を抱えた没落寸前の家の末妹。

 詰まる所、政治的には何の価値も無い。故に貰い手もいない。

 私は今年で19歳。貴族の令嬢としてはそろそろ……といったお年頃だ。

 しかし現状では結婚どころか明日の食事もままならない。

 結婚に夢など見てはいないけれど、

 辛そうにしている家族は尚の事見ていられない。

 だから働く事にした。

 勤め先に諜報員を選んだ理由は単純だ。

 給金が良い。それに尽きる。

 それに諜報活動の成果次第では家名を売る機会もあるだろう。

 金策に走る兄達を信じていない訳ではないが、少しでもその負担を減らしたい。

 だから家族の制止を振り切り機関の人員募集に名乗りを上げたのであった。



 今回、そんな私に特別な任務が下された。

 燐界から召喚された英雄、巷では勇者と呼ばれているお方の飼い犬の捜索である。

 何故私がこんな事をしなければならないのか、とは言うまい。

 こんな私でも一応は貴族の令嬢なのだ。

 危険な任務など回しては貰えない事はわかっていた。

 それに家名を売るための機会は、なにも危険な任務のみに付いて回るわけではない。

 もしもこの任務を通じて勇者様方と顔を繋ぐ事が出来れば————。


「絶対にやり遂げよう!」


 決意を固めた私は手元の資料に視線を落とす。

 ターゲットの名前はポメ助。

 どうやらポメラニアンという犬種から取った名前らしい。

 ポメラニアンという種類の犬はこの世界には存在しない。

 故にポメ助は世界に一匹だけしか存在しない犬とも言える。

 他の犬より幾分かは探しやすいのが救いだ。


 資料からの情報によれば、

 ポメ助は魔王Sの居城に最も近い村での目撃を最後に消息を絶ったとの事。

 村に住む少年に追い回されて森の中へと消えていったのだとか。

 魔王Sは機関の工作員が城ごと爆破したため生きてはいないだろうけど……。

 うん、保険は必要だ。

 あの森には、不幸を呼ぶ魔物から派生した魔族が住んでいる、という噂がある。

 爆破から逃れた魔王の配下が潜んでいる可能性も捨てきれない。

 よし、探索中は魔族に変装しよう。

 諜報員としてやっていく事が決まったその日から、

 毎日練習を続けてきた幻術を自身に施す。


 今の私はどこから見ても立派な魔族に見えるはずだ。

 



////////////////////////////////////




「どもども〜!我、魔王!

 ちょっとそこのお姉さん?四天王に興味ない?」


 困ったことになった。

 私は目の前に立つ、角の生えた夜色の髪を持つ童女の存在に頭を抱えた。

 魔王が生きていた。

 いや、あの魔王の能力・・が機関の推測通りであれば何も不思議な事はないけれど。

 問題はそこではない。


「えーと、その犬は?」


「我の四天王だ!」


 魔王がポメ助を抱いたまま私の前に現れた事が問題なのだ。


「四天王ですか?その……犬が?」


「うむ!この犬しかいない!だから急募、四天王なのだ!」


 しかも四天王とかいう謎の組織枠に私共々組み込もうとしている。

 正直、すごく断りたい。

 しかし、この機会を不意にして誘いを断れば諜報員としての立場を失う。

 逆に考えればチャンスでもある。

 魔王の内情を魔王に最も近い場所で探る事が出来るのだ。

 もう、やるしかない。やるしかないだろう。

 私は勇者様と顔を繋ぐために、そして家のために決死の覚悟を決めた。

 虎穴に入らずんば虎児を得ず。


「いいですよ、やりましょう四天王」


 こうして、四天王チャネルライトは誕生した。




////////////////////////////////////




 その後、2分もしない内に残りの四天王が決まった。

 あり得ない。

 スカウトする魔王の適当さは勿論、受ける側も一体何を考えているのか。

 魔族の世界には四天王に誘われたら二つ返事で受け入れる法でもあるのだろうか?

 その生態の謎は深まるばかりである。

 とはいえ魔王の適当なスカウトも馬鹿にはできない。

 最後に仲間に加えた猪男はともかくとして、他の面子はただ者ではない。


 まず犬。ただの犬じゃない。勇者の飼い犬だ。

 私は勇者様方がこの犬を大層可愛がられている事を知っている。

 犬を人質?に取られた結果、勇者様御一行が負けるなどとは考えたくないけど、

 勇者様に付け入る隙としては充分過ぎる効力を発揮するだろう。

 幸いな事にこの魔王、ポメ助が勇者様の飼い犬だとは知らない様子。

 それだけは絶対に知られるわけにはいかない。

 最悪の場合ポメ助を殺してでも……。


 ムリ!こんな可愛い瞳に見つめられて酷い事するとかムリです!


 うん、なんとしてでもポメ助は回収しよう。



 それに正体を知られてはいけない、という意味では私も同じ立場だ。

 末端とは言え諜報員。

 拷問されようが口を割らない自信はあるが、相手は魔王だ。

 どんな手段を用いて来るかわかったものではない。

 自白剤と魔術による状態異常を併用されれば犬の正体を喋ってしまう可能性もある。



 それに紫色の翼を持つ少年姿の魔族。

 彼は危険だ。危険過ぎる。

 あれは不幸の象徴、ラピッドクロウを起源とする魔族だ。

 見た目はただの少年だが、無邪気な仮面の下にどんな残虐性を隠しているのか。

 想像しただけでも空恐ろしい。



「よーし、四天王はこれで揃ったな!では戻ろうか!」


「え?戻るって、どこにですか?」



 魔王城は【英知の書】の工作員が爆破した。

 城跡の瓦礫は私も確認しているから間違いないはずだ。

 ではこの魔王はどこに戻ると言うのか?



「我自慢の最強の眷属が待つ隠れ家だ!」



 その言葉に目眩を覚える。

 魔王にはまだ、隠し球があった。

 隠れ家……広大な地下ダンジョンだろうか?

 おそらく魔王城の地下と繋がっていて、そこから脱出したのだろう。

 入り組んだダンジョンの奥深くまで潜り魔王を討伐する事は勇者様でも困難だ。

 ダンジョンといえば罠の存在も怖い。

 魔王が考える罠……いったいどんな残虐な罠なのだろうか。

 それに最強の眷属とは……いったいどんな傑物が待ち受けるというのか。

 いよいよ私も、死ぬ覚悟を決めた方がいいのかもしれない。



「えーと、あそこにあるのが我の隠れ家ね!」



 魔王の指し示すその先に木の小屋が見える。

 意外に近い。ここから黙視できる距離だ。

 なるほど、ただの山小屋に見えるようカモフラージュしているのだろう。

 私はその答えを確かめようと、一度生唾を呑み込み、魔王に尋ねた。



「あれが地下迷宮への入り口ですか?」


「は? ぇ、ぃゃ、あれは……普通に我の家だけど?」



 我の家?何かの暗喩だろうか?

 我の庭(一度入ったら何者も脱出できない、我以外はな!)的な。

 いや、まさか本当にあの質素な小屋に住んでいるとでも?


 半信半疑のまま山小屋に歩を進める一同。

 扉を開ける魔王。

 中を覗き込む私。



 本 当 に た だ の 小 屋 だ っ た 。



 魔王が普通の小屋に住んでいるという事実に、少し衝撃を受ける。

 と、同時に自身の身の上も似た様なものだと気がつき軽く罪悪感を覚える。

 機関員うちのこがお城、爆破しちゃってごめんなさい。



「集った!!」

「速ッ!?」



 小屋の中には一人の男がいた。

 ボサボサの黒髪、目は前髪に隠れ、顔は整っているようなそうでもないような。

 歳は20を超えていないようにも見えるが、30を超えているようにも見える。

 それも人間に当てはめた見方でしかなく、実年齢は定かではない。

 なんというか、全体像がはっきりと見えて来ない男だった。

 言い方を変えれば底が知れない。


 しかし何故だろうか。

 彼からはどこか人間臭い暖かみを感じるような気がする。

 それに彼と楽しそうにお喋りする魔王からも。


 本当にこれが、人類の脅威なのだろうか?


魔王が考える罠……いったいどんな残虐な罠なのだろうか。

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