15:魔王ちゃん、行方不明
いつもより長めでお届けします。
四天王にはかつて、ボルドフォックという名の戦士が存在した。
アングリーボアという種族から派生した魔族である。
屈強な肉体に恵まれたその男は、破壊大公(自称)の称号を恣にした。
しかし、四天王の巨星は墜ちた。
穴に落ちた。
そして埋められた。
当然死んだ。
後にアンデッドとして復活を果たすも、
なんのかんのでまた死んだ。
その後、残った魔物の核を用いて完成したのが、
「対勇者駆逐型魔鋼闘士ボルドフォック1号です!」
と言う事らしい。
生前の顔をそのまま角張らせたフェイスデザイン。
反り起つ鋼の牙が、猪の持つ力強さを象徴し、
鈍色のフルメタルボディは見るからに頑強そうだ。
「というかぶっちゃけオーバーテクノロジーじゃないかこれ?」
「拾い物に頭をくっつけただけですから、深く考えるのはやめましょう」
「それオーパーツじゃねーか!?」
どうやらガルガントリエが制作したのはフェイスの部分だけらしい。
正直、まともに動くかすごく不安だ。
「一応、生前の記憶も持っているんですよ?
勿論、本人の意志もちゃんとありますから」
『うっす!』
機械音声で答える我等が最終兵器。
すごく不審者っぽい。
ガルガントリエ曰く、魔核から記憶や人格を引っ張る事ができるらしい。
尤も、読み取る事が可能でもそれを映すボディがなければ意味がないので、
魔族は魔核が残っていれば何度でも復活できる!なんて事はないのだとか。
それを実現させているのがこのオーパーツらしい。
なんというご都合主義!
しかし敢えて言わせてもらおう。
記憶や意志を持っているからこそ本当に使えるのか疑問であると!
『ぐへへへ!この圧倒的なパワーで目に映る全ての人間を破壊し尽くしてやる!』
不安だ!
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俺達は現在、ノースライバックの街外れに訪れていた。
転移魔法で街の中に入る事は容易だ。
しかし、転移の余波は感知魔法に引っ掛かりやすい。
警備が厳重になっている今、転移魔法で街中に飛べば、
すぐに俺達の侵入場所が特定される事だろう。
ガルガントリエの探知で魔王ちゃんがこの街のどこかにいる、
という事だけはわかったのだが、正確な位置はまだわかっていない。
これ以上の情報を求めるには街中で探知する他ないだろう。
魔王ちゃんの軟禁場所が割れていない今、騒ぎを起こす事だけは避けたい。
よって転移魔法の使用はNG。
つまりこれは、スニーキングミッションなのである。
「で、こいつはどうやって街に入れるんだ?」
ノースライバックの街へ真っ当に入るには、
北か南、どちらかの検問所を通過する必要がある。
その際必要になるのが身分証なのだが……。
メカ・ボルドがそんな物を持っている訳が無い。
俺には勇者の役目を捨て逃げ出した時に偽造した身分証がある。
ガルガントリエは街の子供だと思われているため顔パス。
つまり三人一緒に街へと侵入するには、
メカ・ボルドの素性証明をなんとかする必要があるのだ。
当然だが「人じゃなくて機械です!」という理屈は通らない。
この世界に直立歩行する機械はない。
いや、今となりにいるこいつは別として、他にそんな物はないのだ。
ないよな?
仮にあったとしても相当に希少価値が高いはず。
そんな物を連れて歩いていると知れれば目立つ。
目立つ、駄目、絶対!
「門番がすんなり通してくれるとは思えないが」
『うっす!目の前に立つ奴は皆殺しだぜ!!』
「うっさい!黙ってろ!」
『うっす!』
メカ・ボルドは戦闘面に重きをおいて調整されている。
そのため言語中枢まで手が及んでおらず、
今まで俺達が聞いた事のあるセリフしか再現できなかったらしい。
つまり、会話のボキャブラリーが少ないのだ。
「こういった場面の対処は人間であるカンベエの方が詳しいのでは?」
「異世界人に多くを求めてはいけません」
「おじさん!街に入ーれーて!」
「なっ!またお前か!さっさと入れ!まったく、どこから門の外に出たんだ?」
な!
あいつ!
俺に全部投げて検問所を通過しやがった!
『おう!流石は魔王様だぜぇ!!』
語彙が少ないなりに頑張ってるな。
言いたい事はなんとなくわかるぞ。
だが今はそれが疎ましい!
「いいか、メカ・ボルド!
検問は俺がなんとかするから、そこでお前は一切喋るな!」
『うっす!』
こいつ、居ない方が良かったんじゃね?
とか考えつつ俺は門番の元へ向かった。
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※ここでお浚いしよう!
メカ・ボルド1号は今まで俺達が聞いた事のあるセリフしか喋れないぞ!
「次の者。身分証を提示してくれ」
検問所の門番に催促された俺は、メカ・ボルドを引き連れ前に進む。
そして懐から少し端の折れ曲がった身分証を取り出した。
「これだ。あぁ、それとそこのでっかいローブの男だがな。
実は俺の連れなんだが……途中で身分証を落としてしまってな。
何かあったら俺が責任を持つから今回は大目に見てくれないかな?」
因に、全身鋼鉄仕様のメカ・ボルドはとてつもない存在感を放つため、
大きなローブで体を覆い隠すように指示した。
今でも充分に怪しいが、多少はましになった……ような気がする。
「はぁ?駄目だ駄目だ。こんな怪しい奴を通せるものか!」
けどやっぱりかなり怪しいみたいだな!
「そこをなんとか頼むよ、な?
ほら、今日はこいつで美味いもんでも食べてくれよ」
ここであらかじめ準備しておいた銀貨を1枚握らせる。
定番だが意外によく通じる手口だ。
「い、いや!本当に困る!いつもならそれで済む話しなのだがな。
他所から来たお前にはわからんかもしれないが、
今この街にはさる高名なお方が来られているそうでな、
街の警備をいつもより強化しているのだ。
そこに俺が不審者を通した、なんて話しが露見すれば職を無くしてしまう」
さる高名なお方……ね。
それが勇者を指しているのか、捕らえた魔王ちゃんを隠すための詭弁なのか。
今はどちらでもいい。
重要なのはどうやってこの門番を口説き落とすか、だ。
「こいつは図体がでかいだけの木偶の坊さ。
なんならもう少し色をつけてやるからさ?頼むよ
大丈夫!バレやしねぇよ。俺とあんたが黙っていればな?」
「む、そ、そうだな。しかし念のためだ。
そっちの男に関しての持ち物検査だけは厳重にさせてもらうぞ」
まあここらが落としどころか。
ここでゴネても怪しまれるだけだろうしな。
俺から銀貨を受け取ると、門番はメカ・ボルドの前に移動する。
門番の背丈が低いわけではないが、メカ・ボルドの図体はでかい。
よって自然と門番がメカ・ボルドを見上げる形となる。
「おい、あんた名前は?」
「あぁ!こいつの名前はボルドっつーんだ。な?」
『うっす!』
「なんでお前が答えるんだ……まあいい」
そう言ってメカ・ボルドの全身を隈無くチェックする門番。
ローブを脱いだところで問題は無い。
「こいつは前衛担当の重戦士です」で押し通すつもりだ。
こいつのフルメタルボディは重戦士のヘビィメイルに見えない事もないだろう。
動きに制限がかかるためヘビィメイルを装着する冒険者は珍しい。
しかし、まったく存在しない、というわけでもないのだ。
そこに突っかかってくる奴などそうそういない。
「フードの下に鎧兜?怪しいな……。
おい、そのフルフェイスを脱いで素顔を見せろ」
たまにいるけどな!
うん。それはまずいよ。
だってそいつに素顔なんてないもの!
「いや、すいません!そいつ極度のシャイボーイで」
「だからなんでお前が答える!いいから少し静かにしていろ!
おい、でかいの!俺はお前に聞いているんだ!
なんとか言ったらどうなんだ?ん?」
『うっす!』
「お、おぉ。なんだ、喋れるじゃないか!
言葉がわからないわけじゃないよな?
頭の装備をとって素顔を確認させてくれ」
『はは!』
ここで頭を垂れるメカ・ボルド1号。
俺はハラハラしながら状況を見守る。
「なんだ?自分じゃできないのか?じゃあ俺が……。
ぐぬぬぬぬぬ!かって〜〜〜〜。取れるのか、これ!?」
ボルドの頭を色々な方向に引っ張る門番。
当たり前だが、取れる事はない。
ここで俺は今しがた思いついたばかりの嘘でフォローを入れる。
「えーと。こいつ、外でアングリーボアに襲われてな。
その時攻撃が当たって兜が歪んでしまったんだよ!」
『あ、あいつは悪魔みたいな奴だった……』
おお!いいぞメカ・ボルド1号!
そういうフォローなら俺も大歓迎だ!
俺は門番に見えない角度でメカ・ボルドにサムズアップする。
「そ、そんなにヤバい魔物だったのか?」
『俺を挑発して……落とし穴に誘い出し……生き埋めに!!』
「落とし穴!?猪が!?」
馬鹿野郎が!!調子に乗りやがって!
余計な事は言うなとあれ程言っただろうが!
四足歩行で走る魔物が落とし穴なんて掘るわけないだろ!
ってか何サムズアップで返してるんだよ!?
上手くねーよ!
あー、もう!なんとかフォローしないと!
「えーと、そう!特異個体だったんだ!アングリーボアの変異種だ!
それに襲われた時にコイツは身分証をなくしたんだよ!
俺達は一刻も早く領主様にこの事を伝えなくてはならない!
な?わかるだろ?事は急を要するんだ!」
『あ、あいつは悪魔みたいな奴だった……』
「俄には信じがたいが……」
「俺達が嘘を吐いているって言うのか!確認もせずに!?」
うん、もうこのノリで強引に押し通してしまおう。
『あの猿顔の糞ガキ、絶対に許さねぇっ!!』
「ん?猿顔?アングリーボアではないのか?」
「さ、猿顔のアングリーボアだ!」
クソッたれめが!!!!
苦しい!これは苦しいぞカンベエさん!
言ってる自分でもすごく痛々しいのがわかる!
「まあいい。目撃場所を教えろ。こちらで調査する。
事態によっては勇者様達に依頼する事になるかもしれんな」
『へっ!そういう事なら四天王随一の壊し屋と呼ばれた男!
破壊大公ボルドフォック様が勇者を血祭りに上げて見せましょう!』
「「なんでだよッッッ!!!!」」
なんでここでそのセリフをチョイスするんだよ!
門番の人と声被ったじゃねーか!
いけない!こいつに喋らせたら駄目だ!
俺はメカボルドの傍らに寄り、
「すいません門番さん!
こいつ魔物の攻撃で頭打ってから変なんですよ、なああ?ボルドおおお?」
語気を強めながらメカ・ボルドの腰を殴る。
余計な事は言うな、というメッセージをこめての行動だ。
いてえ!俺の手がいてえ!
そんえばこいつメカだった!
まじで痛い!
何なのこいつ!?
何でお前だけケロっとしてるの!?
俺はこんなにも苦しいのに!!
糞ムカつくんだが!?
『ま、魔王様、すみません。ドジ踏みました』
「は?魔王?」
「はははは」
馬鹿野郎ぉーーーボルドォオオオオオ!
誰を撃ってるーーーーーー(内心錯乱中)!
もう空笑いするしかないわ!
「やっぱりお前ら怪しいな」
俺達を見つめる門番の視線が一層鋭さを増したその時。
救いは——訪れた。
「くっくっく!あーっはっはっは!
ボクの名前はガルガントリエ・スタークス!
魔王シャムノア・シャンメリー様の右腕にして、孤高の天才魔族!」
「あ!またお前か糞坊主!
なるほど、さてはお前ら!この坊主の関係者だな?」
「あ、あぁ」
『うっす!』
「ね?言ったでしょ?門番さんをからかうと面白いよってね?
お兄さん達はボクとの約束を守ってくれたからコレは返すね!
じゃ!また遊んでね!ばいば〜〜〜い!」
そう言ってメカ・ボルドに身分証(偽造)を手渡し去って行くガルガントリエ。
俺は心の中で涙した。
そんな物準備できるなら、あらかじめ教えておいてくれよ、と。
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・今日の魔王ちゃん 行方不明。
・魔王ちゃんの軌跡
最短戦闘時間:00分00秒(戦う前に城ごと爆破)
最長戦闘時間:08分59秒(ただし相手は人間の子供)
累計戦闘時間:23分50秒