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11:魔王ちゃん、送り出す

ちょっと真面目な雰囲気が続きます。

 人族の青年である俺、カンベエは、

 魔王シャムノア・シャンメリーの眷属である。


 信じられるか?

 人間が魔王の元で組織の幹部をやってるんだぜ?

 世も末だな。

 いやマジで。


 だって魔王の配下だぜ?

 人類の敵だぜ?

 これもう、勇者討つっきゃないっしょ?


 という訳で現在、北の森の隠れ家でブリーフィング中なのでございます。



「私が得意の幻術で、勇者達を誘き寄せます。

 カンベエさんは旧魔王城跡で待機を。

 そこが決戦の地です。

 わかっているかと思いますが、助太刀には期待しないでください。

 これはそういう・・・・戦いですから」



 チャネルライトさんは狐耳をピンと立てて言い切った。

 今回、作戦の立案と総指揮は彼女が行う。

 実行担当は俺、一人だ。



「助太刀なんて必要ない。上手くやるさ」



 人間である俺が、魔王ちゃんの眷属として本当に相応しいのか。

 チャネルライトさんはここで見極めようとしている。

 わかっているさ。

 忠義それを証明するためには、俺一人で戦う事に意義がある。だろ?



「カンベエ、安心しろ!

 本当に死にそうになったら、ちゃんと助けに入るからな!」


「それは駄目です」



 私に任せなさい!とでも言うかの様に、胸に拳を当てて答える魔王ちゃん。

 しかしチャネルライトさんはその言葉をピシャリと遮った。

 魔王ちゃんは不満を隠そうともせず、表情を歪める。



「何故だ?カンベエは……我の窮地にはいつも駆けつけてくれたぞ」


「そうですね。

 それは魔王様の眷属として、とても正しい行いです。

 でも、立場が逆転すれば話しは別ですよ?

 その行動の意味はまったく別のものへと変わってしまいます。

 勿論、悪い意味で」



 王が配下一人のために、その身を危険に晒すなど論外だ。

 魔王ちゃん、気が付け!

 チャネルライトさんが見ているのは俺だけじゃない。

 おそらく歴代で唯一、人間を眷属とした魔王。

 シャムノア・シャンメリーの王としての資質も見ているんだ。

 だからここで俺を助けようとしてはいけない。



「魔王様は、俺を信じて待っていてくれるだけでいい」


「ふ、ふん!別に信じてないわけじゃないもん!」


「はいはい、そーゆー事にしときますよ」


「そーゆー事にしとけ!……いいか、無傷で帰れよ?」 



 おいおい、無傷で帰るって……無茶言うなよ。

 心配そうに俺の顔を覗き込む魔王ちゃんにデコピンをお見舞いし、

 笑いながらその場を後にする。


 魔王ちゃんが転移の余波に巻き込まれないように少し距離を置くと、

 視界の端の木にもたれ掛かっているガルガントリエと眼が合った。

 ガルガントリエはいつにもなく、真剣な表情で……


「カンベエ、人間だったんですね。

 ボクは……てっきりイソギンチャクの魔族かと思っていました」


 誰が無脊椎動物やねん!!

 どこの部位が?どの要素が俺をイソギンチャクたらしめるわけ!?

 イソギンチャクかと思っていたら人間だった!

 って、そりゃ衝撃的だよね!

 俺も今、衝撃的だよ!

 

「ボクは……人間が嫌いです。

 ボク達の種を不幸の象徴として扱う人間が、大嫌いです。

 傲慢で、強欲で、嫉妬深い人間が、大大大大大ッッッッ嫌いですよ!

 でも、カンベエの家や、そこでの時間は嫌いじゃありませんでした。

 

 えーと、言いたい事はそれだけです」


 頬をぽりぽりと掻きながら、空に視線を逸らすガルガントリエ。

 そんな様子を見ていたら、なんだか怒る気も無くなってきた。

 思い返せば、俺もこいつの事は嫌いじゃなかった。

 うん。嫌いじゃないこいつになら、暫くの間だけ主を託してもいいだろう。



「ガルガントリエ、魔王様を頼むな」


「はい!ボクの灰色の脳細胞に懸けて!」



 そして俺は転移する。


 夢破れた戦いの地、魔王城跡へ。


 さぁ、全力を以て迎え撃とうか。

 俺の王に、恥をかかせる訳にはいかないからな!




////////////////////////////////////




「心配ですか?魔王様」


 虚空に消え行くカンベエの背中を眺めながら、

 チャネルライトは私に問う。


 心配?と言えば心配だな。

 あいつは格好つけたがるところがある。

 今回の件にしたってそうだ。

 人間は群れの意識が強い。

 故に同族殺しを禁忌として扱う。

 自然界に生きる動物とは少し違う。

 弱肉強食とはまったく別の理屈を遵守する生き物だ。

 その中でも取り分けてアレは甘い。

 夜盗に襲われた時だって、殺されかけたにも関わらず、

 相手の命を奪おうとはしなかった。

 そんな奴が同郷の者を殺す!なんて言ったら心配するだろ?

 普通はする。するよな?するに決まっている!

 慈悲深い我の場合、それはもう!とっても心配なのだ!



「魔王様は、カンベエさんが負けると思っているのですか?」


「ん?何を言ってるんだ?カンベエが負ける訳ないだろ」



 おかしな事を言う。

 あいつは最強ではないが、したたかな男だ。

 負ける姿など想像もできない。


「そこまでお強いのですか?」


 ここで驚きに目を丸めるチャネルライトの顔が見られて少し満足する。

 強いか、と聞かれたら強いと言えるだろうが、正直、驚くほどの強さでもない。

 さて、私は何と答えたものかと考え、意図せず苦笑が漏れた。


「超強い!我の次くらいに!」


 少し話しを盛ってみた。

 理由はない。

 なんとなくだ。

 カンベエは強いから負けないのではない。

 負ける戦いを絶対にしない男なのだ。

 魔王である私の元に下った理由もそこにある。

 私自身はそんなに強くないから、きっとそれが全てではないだろうがな。

 えぇーと、何の話しだったかな?

 そうそう。結論、カンベエは強い!

 でも、だからこそ……


「だからこそ、胸の奥がチクっとするのだよ。

 カンベエは負けない。でもそれは同族を殺すという事。

 人を殺せば、奴は絶対に傷つくだろうからな。

 そんな時にそばに居てやれない事が、とてももどかしいのだ」


 風が凪ぐように、静寂が訪れた。

 一瞬、キョトンとした表情を浮かべたチャネルライトは、

 一拍置いて、盛大な笑い声を上げる。



「な、何がおかしい!?」


「い、いえ。あまりに普通の女の子みたいな事を仰られるもので、つい」



 その指摘を受けて、頬を起点に熱が奔る。

 きっと今の私の顔は酷い事になっている。

 自分でも見る見るうちに耳の先まで紅潮していく様がわかった。

 ぐぬぬ、認めたくないが、随分と恥ずかしい事を言ってしまったようだ。



「わ、我は普通の魔王だ!少女趣味など……知らん!」


「ふふふふ、魔王様とは、王とか配下とかじゃなくって、

 普通の友達になれたら良かったのになぁーって思っちゃいました」



 く、くそう!

 チャネルライトよ!覚えておれよ!

 いつかお前の顔も真っ赤に染めてくれるわ!



「さて、そろそろ私も行きますね。

 この作戦、私が動かなければ始まりませんので」



 こうして、チャネルライトもまた、持ち場へと去って行く。

 私はただ、待っているだけでいい。

 気楽なものだ。


 でも、私がもっと強い魔王だったなら。

 カンベエは今も隣で、笑っていたのかもしれないな。

 なんてね。




////////////////////////////////////




・今日の魔王ちゃん  センチメンタルな気分です。



・魔王ちゃんの軌跡

  最短戦闘時間:00分00秒(戦う前に城ごと爆破)

  最長戦闘時間:08分59秒(ただし相手は人間の子供)

  累計戦闘時間:23分15秒


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