1:魔王ちゃん、初陣に散る
残念系魔王がやらかす失敗をひたすら書き綴った物語。
部下の目線でお届けいたします。
「はーっはっは!
よくぞ参ったな!勇ましき者よ!
我が名はシャムノア・シャンメリー!
この魔王自らが貴様らに引導を渡してやろう!
そして貴様らの墓標を礎として、混沌たる世界を統べようぞ!」
〜3分後〜
「なかなかやるではないか!勇ましき者よ!
だが、ここまではほんの小手調べよ!
我が魔力の深淵を前にして、どこまでその余裕が続くかな?
くっくっく!せいぜい足掻いてみせるがよいわ!」
〜2分後〜
「さ、さて!ようやく体が温まってきたところだ!
ここらで一つ、我が奥義の一端を披露しようではないか!
ふっふっふ……見えるぞ!貴様らの顔が絶望に歪むその様が!
さぁ、泣いて許しを請うなら今の内だぞ!……本当だぞ!?」
〜1分後〜
「ぜぇ……はぁ……はぁ……。
ど、どうした……我は、まだ……はぁ、はぁ。
力の半分も……ぜぇ……見せてはぉらんぞ……はぁ、はぁ。
え?い、今のは!わざと当たってやったのだ!ぜぇ、ぜぇ。
貴さ……ま達の脆弱な攻撃など、避けるに値し ケホッケホッ」
〜30秒後〜
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅぅぅ〜〜〜〜〜ッ!!
いい気になりおってぇ!遊びはここまでだ!!
どれ、そろそろ本気でいかせてもらおうか!!
くっくっくっくっ、すぐには死んでくれるなよ?
圧倒的な力の差を前にして、精々無様に踊るがよいわ!!
暗黒魔奥義!神滅のヘルバーストデスロンドォォォォォッ!!」
〜15秒後〜
「ばーーーーーーか!!!
ばかばかばーーーーーーか!!!
アホ!!!マヌケ!!!サル、ゴリラ!!!
やーい、貴様のかあちゃんニーーーンゲン!!!
って、待って!嘘!嘘だから!!
ニンゲンは流石に言い過ぎた!
え?そこじゃない?
って、ちょ、やめ!いや!!
ノオオオオオォォォォォオオオォォォォ〜〜〜〜〜〜〜!×△○◇!」
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ここは魔王城郊外、北の森の隠れ家。
俺は幹部A。名前はまだない。
勇者と真っ向から戦い、おっ死にそうになった魔王様を、
なんとか保護してここまで連れてきたしがない魔族だ。
それにしてもあの勇者達。
恐ろしい程の練度だった。
4人全てがバラバラなようで、しかし動きは噛み合っている。
まさか魔王様の必殺の一撃を、サイドチェストのポージングを維持したまま横回避するとは思わなかった。本当に恐ろしい練度だ。
「魔王様、傷の具合を見せてください」
俺は傷を手当しながら、我が主の勇姿を眼に焼き付ける。
瑠璃色の髪飾りで束ねられた、夜空を連想させる漆黒の髪。
沸き立つ灼熱のマグマのように赤い瞳と長い睫毛。
両の側頭部から天に向かい伸びる桃色の角。
少しサイズの大きい闇のローブがとってもキュートだ。
って違った……キュートではなくとても勇ましい。
そう、見た目は童女のように幼いが、心はとても強いお方なのだ。
だから俺は信じている。
魔王様はきっと今回の負けを受け入れ、更なる高みへ登り詰める事だろう。
「完敗でしたね、魔王様」
「ふむ、お前には……そう見えたか」
「 」
前言撤回しよう。
ボロ負けだったじゃねぇか!
他にどう見ろって言うんだよこの駄目魔王!
俺の転移魔法がギリギリで間に合ったから良かったものの。
どう贔屓目に見ても完敗以外の何ものでもないだろうが!
お前なんて魔王様じゃなくて、魔王ちゃんで充分だわ!!
「あの戦い、あのまま続けていれば、我の勝ちだった」
あのまま続けてたら死んでたよ!
それはもうボロ雑巾のように汚く果てていただろうよ!!
とはいえ、それを口に出してしまえば俺の首が飛ぶ事になる。
仕方ないが、ここは話しを合わせてやろう。
「では、何故劣勢を演じておられたのですか?」
「Let's say enjoy!ってか?」
「ぶち殺しますよ」
「すみませんでしたもう言いません」
弱ッ!?
我慢できずに口が滑って一瞬焦ったけど、
思った以上に魔王ちゃんの心が簡単に折れた。
「ま、まーあ?
確かに一見、私が劣勢になっているように見えるかもだけど?
見る人が見れば私の方が上手だって簡単に気がつくはずだし?」
何か言い始めた。
どうでもいいが一人称『私』になってるぞ。
「というか勇者ちょっと必死すぎではないか?
ああいうの私、あんま好きくないなー。
お前もそう思うだろ?違う?
逆に魔王である私が『うおおおおおおぉおおお!!!!』
とか声を上げて向かっていく絵面見たいと思う?
なんかそれマヌケじゃない?マヌケだよね。
魔王の半分って威厳で出来てるからなー。ちょっとNGかな」
うん。
確かに威厳とか大事だけどね。
もう充分醜態を晒しているからね。
勇者の方がよっぽど無表情だったからね!
一番必死だったの魔王ちゃんだったからね!!
すでに何を言っても遅いからね!!!
「ま、今回勇者と戦ってみて大体あいつらの戦法はわかったから。
次戦った時は外角低めのストレート勝ちかな?」
逃げ腰やん!!
「ふっふっふ!次に相見える時こそ、やつらの最後よ!
はーーーーーーっはっはっは!はーーーーはっはっはーーー!!」
こんな魔王について行って、本当に大丈夫なのだろうか。
今夜はとても安らかに眠れそうにない。
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・今日の魔王ちゃん
戦闘時間:7分02秒
・魔王ちゃんの軌跡
最短戦闘時間:7分02秒
最長戦闘時間:7分02秒
累計戦闘時間:7分02秒
・本日の必殺技
【暗黒魔奥義、神滅のヘルバーストデスロンド】
・暗黒の魔奥義なのにすごい眩しいぞ!
・神を滅するはずなのに何故か地獄が破裂するぞ!
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