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友達の想い人を好きになっちゃった・・・

作者: 赤ポスト

今日も雨が降っております。

私の名前は飛鳥 あすかあおい

高校二年生。

ちょっとオタクな帰宅部。


始まりは、なんでもないことだった。

私には、彩という名の友達がいる。

文芸部に入っており、趣味が読書で、アニメや漫画好きという点で気の合う友達。

彩は絵や小説を書いており、私はそんな彩を秘かに尊敬していた。

私は小説や漫画を読むことは好きでも、それを作りたいとは思わなかった。

同じクラスになってから知り合い、すぐに仲良くなり、休み時間や昼食を一緒に過ごす友達になった。


退屈な数学の授業中、彩がある男の子を見つめていた。

サッカー部の春日君。明るく、顔もいいけど、ちょっと軽いというかチャライ彼。女子の中の人気度でいえば、クラスで5番手ぐらいの男の子。

彼を見つめる彩の目は、陶酔的で純粋な目だった。

彼女は幸せそうに彼を見つめていた。

そんな彩の姿を見たのは初めてだった。

普段の表情とは全く違う。

その姿は魅力的で、まさしく恋する乙女という感じだった。

漫画やアニメで描かれるそれ。

私も恋愛には興味があるけど、それがどういうものか今だに分からない。

だから、現実で目にしたそれに惹かれたのかもしれない。

彩は直ぐに彼から目をそらす。

でも時より、隠れるように何度も彼を見ていた。

彩は、好きな子の話になってもいつも「いない」と答えていた。

でも私はその瞬間、彩は春日君の事が好きなんだと思った。


そんな彼女を見ている内に、私はとある興味を抱いた。

彩が恋心を抱く男の子はどんな人なんだろう?

ただ、単純な興味だった。

自分と気が合い、同じような趣味を持っている彩が好きになる男の子。

そんな彼が気になった。

でも、私は男子に気軽に話しかけるようなキャラじゃない。

だから自分から話しかけることはしないし、キャラを変えてまで話しかける意欲もなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



そんなある日。

クラスで後期委員会の所属を決めることになった。

私は、図書委員会か、特に仕事のない名前だけの委員会に入りたかった。

図書委員は希望者が多く、私はじゃんけんで彩に負けた。

彩は「ごめんね」と申し訳なさそうにしていたけど、勝負は時の運だ。

遺恨は無い。

私は負けたショックでぼけっーとしていると、いつのまにか緑化委員になっていた。

緑化委員会。

学校の花壇などの世話をする、今いち?な委員会。

「それ、用務員とか暇な校長先生の仕事じゃない?」と思いつつも、存在している委員会という名の雑用。

私は花が好きなわけでもない。どっちかというと土いじりは嫌いだ。

ミミズとかちょう無理。あのファンタジー生物は生理的に無理な物がある。

私が落ち込んでいると、もう一人の緑化委員の春日君が近づいてくる。

彩が見つめていた男の子。

「よろしく」

「う、うん」

え、やばい。

私、どもちゃった。

「微妙だよね~緑化委員。なんか意外と作業多いらしいよ。部活に遅れると先生に怒られるし」

「そうなんだ~運動部だと大変かもね」

「そうそう。あの先生、委員会の用事で遅れても何故か怒るし」

あまり話したことがないのでちょっと緊張した。

会話の内容は覚えていないけど、軽いノリで楽しかった。

「それじゃ、よろしくね」というのを最後に、春日君は去って行った。

外から見ていると彼と、実際に話してみる彼は違った。

運動部の子には苦手意識を持っていたけど、話すと普通だった。

いや、楽しかった。

一緒に話している雰囲気が心地よかった。

話したことがないタイプの人だったから、単に新鮮だったのかも。

「葵、春日君と仲いいんだ?」

気づくと、すぐ近くに彩がいた。

その表情は、単純に「へぇ~仲良かったん」という疑問を口にしたもの。

特に含みは無かった。

「仲良くないよ、今初めて話した」

「そうなんだ~」

そういって彼女は私と春日君を見た。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「このジョウロ重っ!」

「大丈夫?」

「持ってみる?」

「あそこの花に水あげたほうがいいよ。なんか萎れてるし~」

「はいはい」

春日君は校舎裏の花に水をあげる。

委員会に入ってから知ったのだが、緑化委員は週に2回花壇に水を上げる必要がある。

曜日や担当場所は様々だが、私たちは火曜と金曜に校舎裏の花壇が担当になった。

「こんなとこに花壇合ったんだ~」という感想と同時に、「めんどくさ!」という思いが最初に湧き上がった。

辺鄙な場所にあるためか、水道が近くにない。

蛇口からホースを伸ばすわけにもいかず、ジョウロに水を汲んで何回か往復する必要が有る。

しかも、ジョウロがオンボロで、ちょびちょび水が漏れる仕様。

私が初めてこの事実を知った時、「どうなっとるんじゃい!」と心にツッコミをいれた。

見た目、少しちゃらめの春日君なので、さぼって私一人に作業を押し付けるんではないかと、内心ビクビクしていたけど、彼は案外真面目だった。

春日君は率先して水が漏れるジョウロを使用し、花に水をあげる。

部活で使用しているジャージを濡らしながら、水道と花壇を往復する。

私の役目は、水道の蛇口の開け閉めと、気が向いたら雑草を抜くこと。それと、「この花元気がなさそうだから、水あげたほうがいいよ~」と、花の代弁者になり春日君に教える事。

後もう一つ。花壇に何故か石があるので、それを拾ってどっかに投げること。校舎の屋根に向かって投げるのが気持ちいい。何度か投げている内に飛距離が伸びて行った。マリオゴルフをしている気分。私の目標は、段差になっている校舎の一番高い場所を超える事。

よくよく考えると、「あれ?私何もしてなくない?」という思いも浮かんだけど、立派な共同作業だと思う。

春日君ばかりに作業してもらうのも悪いし、何かしてる感を出したかったので、私は春日君によく話しかけた。

最初は気を使って、ちょっと高い声で丁寧に話していたけど、それは長く続かなかった。

元々春日君のちゃらめな雰囲気のせいか、それとも共同作業?をしている内に連帯感が芽生えたのか、私はゆるく話すようになっていた。

「春日君、こっちの花元気ないよ。後こっちも~ほらほら」

「知ってるか?これ重いんだよ」

「頑張ってるアピールやめた方がいいよ」

「俺はアピールするぐらい頑張ってる」

「花、しぼんでるよ~」

「おっと」

春日君がジョウロで花に水をやる。

見る見るうちに土の色が変わっていく。

「そういえば、あの本面白かったよ」

「でしょ。あれ面白いよね」

話していて知ったのだが、春日君も本が好きらしい。

以外だな~と思いつつ、私たちは読んだ本の感想を話すのが習慣になっていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



教室。

休み時間。

「葵、最近春日君と仲いいね」

「よくないよ~。同じ委員で一緒だからだよ」

「そうかな~」

私は、彩ともう一人の友達と話していた。

彩は、今でも春日君を時折見つめていた。

最近は、私に気を使ってか、より隠れて見つめている。

しかし、彩が私に春日君との関係を聞くことは無い。

今もこうして私と友達の会話を傍観している。

多分、彩の春日君への思いは、ずっと心の内に秘めるんだろうと思った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



放課後。

花壇への水やりの帰り道。

「春日君、運動部ってめんどくない?」

「飛鳥さん冷めてるよね~」

「そうかな~」

「そうだよ。確かにめんどいこと多いけど、皆でなんかやると楽しいよ」

「私一人派なんだよね~暗いかな?」

「べつに~。話すまではちょいオタかと思ったけど、話してみると普通だし、ノリいいし、適当だし」

「それ、褒めてるの?」

「褒めてる褒めてる」

「ふ~ん、そうなんだ~。今日はジョウロ持ったあげる」

「いいの?制服濡れるよ。これ気づかない内に水かかるから。俺いつもビッショだから」

「今日は何となく持ちたいの」

私は、春日君の手からジョウロをとる。

っと目の前に、彩の姿が見えた。

ちょっと驚いているようだった。初めて見る彩の表情。

私は教室では今みたいに春日君とは話さない。やっぱ、ちょっと恥ずかしいし。

私と春日君の姿を見て、ショックを受けたのかもしれない。

彩はこちらをまっすぐ見つめている。

それに春日君は気づいたのか、

「あの子、飛鳥さんの友達じゃない?」

「うん。何か用事あるのかも。じゃあ、あとよろしく、ジョウロも」

「おっけ~」

私は春日君にジョウロを渡し、彩の元に向かった。


彩は笑顔だが、その笑顔にはどこか儚さがある。

だが、私はそれに気づかないふりをする。

「どうしたの?」

「なんでもないの?ただ葵の姿が見えたから」

「そう」

「・・・うん」

沈黙。

変な間があく。

「葵って春日君と仲いいね」

初めて彩の口から春日君の名前が出た。

彼女はこちらをまっすぐ見る。

その瞳は強い意思を持ちながらも、揺れている。

「そんなことないよ」

「そうかな。教室と全然違ったよ」

彩は私から視線を逸らさない。

いつのまにか彩の顔から笑顔が消えている。

「少しは・・・仲いいかな」

「そうなんだ・・・」

「・・・うん」

「・・・・・・・・・・」

そうして私たちの会話は終わった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



放課後。花壇。

「花って。なんのために花を咲かすんだろうね?」

「暗っ!」

「冗談だって・・・・・・多分」

私は花壇にあった石ころを適当に投げた。

もう、誰なんだろう、毎回石ころを置いていく人は。

「それより春日さん。肥料げない方がいいよ」

「肥料って」

「今投げた奴、それ花壇の肥料だよ。委員会でも、校舎裏の花壇に肥料をまくと何故か消えるって言ってる奴いたけど・・・・まさか」

「違うよ」

違わないけど。

あの石ころ、肥料だったんだ。知らずにこれまで拾って投げまくってた。

「・・・・・まぁいいや。後、放課後歩いていると、肥料が空から降ってくるっていう噂もあるんだ」

「そう・・・ははは」

噂になってたんだ。

私知らなかった。あれかな・・・友達の輪が狭いのかも。

「だから、もうこれ以上投げない方がいいよ」

春日君は知っていたらしい。

私が投げていることを。

「分かった」

春日君は背を向ける。

私は秘かに手に持っていた肥料を握る。

人に言われて止めたら、なんかムカつく。

その相手が、とくにちゃらい春日君だと。

私は、その思いを込めて、全力で適当に投げる。

「いたっ!」

振り向きざまに投げたためか、すぐ近くで頭を押さえている男の子。

よく見ると見知った顔。

同じクラスで、女の子に一番人気の佐伯君。

やば!

肥料を全力で佐伯君の頭にぶつけちゃった。

どうしよう?どうしよう?

私がテンパっていると。

「佐伯、どうした?頭抑えて」

「いきなりなんか頭に飛んできた・・・多分、これ」

佐伯君は近くに転がっている肥料を拾う。

春日君は私の顔を見る。

私は、申し訳なさそうな顔をしながら目をそらす。

「あれだろ、誰かが校舎の上からそれを落としたんだろ。ほら、上の窓空いてるし」

春日君は校舎の3階を指す。

確かに窓は空いている。

「そうかな~正面からあたった気がしたんだけど。まぁ、いいや、春日、何やってるの?」

「花に水やり、緑化委員の仕事」

「へ~水やり。飛鳥さんも大変だね。春日、適当だからさぼってるでしょ」

「そんなことないよ」

佐伯君の顔に赤いあざがある。

まさしく私が投げた肥料と同じ大きさのあざ。

それに私の目が行く。

私の心に湧き上がってくる罪悪感。私は小物だった。

「俺は案外真面目なんだよ。どれぐらい真面目か飛鳥さんが語ってくれるよ」

え?

へんなフリがきた。

春日君が笑いながら、顔に手を伸ばし、佐伯君のあざがある当たりの場所をさする。

明らかに、私が肥料を投げ、佐伯君にぶつけたと思っている。

ムカつく。見てないくせに・・・事実だけど。

「えっと、春日君は真面目です。毎回重いジョウロを持ってくれますし、色々真面目です」

「それで?」

続きを促す春日君。

褒め方が足りなかったらしい。

私は必死に頭をひねる。

「一つの花も逃さないように、隅から隅まで水をかけます。やりすぎなぐらい。そのせいか、いくつか花が枯れました。だから、私が別の花を買ってきて植え替えました」

「え?飛鳥さん、そんなことしてたの・・・」

驚きの表情の春日君。

これは言うつもりがなかったけど、なんか春日君にイラついたからつい口からでてしまった。実際に私は結構な数植え替えをしている。そんな事実を、私は頑張っている春日君に言う事はできなかった。そのために、参考書代と言い訳をしてお母さんにお金を貰っている。お母さんごめんなさい、参考書ではなく花を買っています。一応成績は少しだけUPしたので許してください。

「ただの趣味です。なんとなく別のを植えたかったんです。春日君にはいいずらかったんです。何気にメンタル弱そうだし」

「ははは」と笑う佐伯君。

春日君は乾いた笑いを声をあげながら、花壇の肥料を拾う。

「佐伯、お前にこの肥料投げたの、飛鳥さんだから。彼女、噂の投石魔なんだ」

「ちょっと、それ言わない約束でしょ」

約束してないけど。さっき春日君の事褒めたじゃない。褒めてないか・・・それに変なあだ名ついてるし・・・

「えっと佐伯君。ごめんなさい、その、狙ったわけじゃないの。春日君がうっとおしかったからついつい肥料投げちゃったの」

「おい、何言ってるんだよ」

「ははは。別にいいよ。そんなに痛くなかったし、それに飛鳥さん面白いし」

「ありがとう」

よかった。

なんかよくわからないけど難を逃れた。

というか、色々ぶっちゃけてしまった気もする。

私は変な精神状態になっていた。

それから私たちは適当に話をした。

佐伯君といる時の春日君は、私と二人でいる時とちょっと違う。

二人でいるときは真面目だけど、佐伯君といるときはちょっと適当。これがノリって奴なのかもしれない。私もノリと勢いで適当に話した。何を話したかか覚えてないけど、楽しかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



数日後。

教室でも、佐伯君や春日君と話すようになった。

きっかけはよく覚えていないけど、自然と話していた。

「あれ?私、教室で春日君と話してる」と気づいた時、物凄くドキドキした。クラスの皆も私を見つめていた。「なんで飛鳥さんと春日君が話してるの」(ポカーン)という感じで。けど、すぐにその注目は消えた。佐伯君が私たちの会話に加わり、自然と会話が流れて行った。

そのせいか、新しく女友達もできた。ちょっとオタい私と同種ではなく、運動部や帰宅部の明るい子達。ノリと勢いの会話。春日君や佐伯君と話している時と同じ感覚。いや、その感覚が増大した感じ。私は大人しくしようとしたけど、春日君がちょいちょい刺激してくるので、私ははっちゃけた。気兼ねなく彼らに話していた。いつの間にか私は順応していた。皆で騒ぐその雰囲気や空気は楽しかった。

そのせいか、彩や前の友達と話す時間は少なくなっていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



1ヵ月後。

私は春日君と付き合う事になった。

彼が付き合ってほしいというのでOKした。

好きかどうかは分からないけど、一緒にいるのは楽しかった。

私と彼が付き合っていることは、何故かすぐにバレた。

直ぐにクラス中に広まった。

私は誰にもいってないので、春日君の方から情報が流出したっぽい。

チャライからしょうがない。

今でも時々イライラする春日君だけど、心地よい刺激だ。

既に何組もカップルはいたし、高校生なので冷やかしも少なかった。


彩は私に何も言ってこなかった。

昔から仲の良かったちょいオタな友達とはますます疎遠になった。

彩が春日君の事が好きなのは、他の子も察していたのかもしれない。

いいや、私でも察することができたのだから、皆知っていたのだろう。

彼女達には、彩の好きな人を取ったと思われているのかもしれない。

そのせいか、時折非難の目を向けられる気がする。


私は新しい友達と親しくなっていった。

春日君と通して知り合った、所謂リア中を言われている人たち。別にリア中に憧れていた訳でも、成りたかった訳でもない。ただ、ノリと勢いで楽しく過ごすのは心地よかった。薄っぺらな会話かもしれないけど、楽しいものは楽しい。


頻度は減ったが、彩は今でも春日君を見つめている事がある。

そんな彩と私は目が合う。

彼女は私の目を数秒見てから、目を逸らす。

彩の陶酔的で、純粋な目。

今でもその姿に私は憧れる。

漫画やアニメのような恋する乙女の姿。

今では見ることがなくなった彩の小説や絵が懐かしい。

彼女を尊敬する気持ちは変わらない。


私はそのような目で春日君を見つめることは無いし、何かを作ることもない。

私は彩が羨ましい。


春日君と付き合うことになった私だが、恋というのものをまだ経験できていなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 男女逆転すると、途端に彩さんが根暗やぼっちになる不思議。(実体験)
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