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第1話

夜海雷華の第8作品。

鳥を主観としたストーリーをお楽しみ下さい。

一羽の鳥が狙いを定めた。

その鳥は広大な森林の中をゆっくり飛行していると、狙いを定めた獲物へと向かって一本の大木に突撃した。

大木に辿り着いたその鳥はくちばしでクモを咥え、その大木から飛び去った。

クモを咥えたその鳥は木々を避けながら飛行し、ある一本の大樹に辿り着いた。

その大樹には鳥の巣があった。


「あっ、お母さんだ!」

「おかえりなさい、お母さん」


その巣の中にいる三羽の小鳥たちは、クモを咥えた鳥を見てそう言っていた。

三羽の小鳥からお母さんと呼ばれている鳥は巣の近くに飛んで行き、小鳥たちにクモを口移しで食べさせた。

食べさせている途中、一匹の小鳥を見た母親鳥はこう言った。


「サロム。貴方そろそろ飛べる量の羽が生えて来たんじゃない?明日、飛行練習を始めてみましょう」

「ほんと?わかった明日だな!」

「いいなぁサロム兄さん。もう飛べるのか」

「まだ飛べるわけじゃないさ。レムナとアルクもそのうち飛べるようになるさ」

「僕も飛びたい!明日サロム兄さんと一緒に飛ぶ練習する!」

「ダメよアルク。貴方はまだ羽が生え揃っていないわ。飛べるはずがないでしょ」


母親鳥は飛ぶ練習をしようとする三男、アルクにそう注意した。

長男であるサロムは羽が生え揃った小鳥だった。きっとすぐに飛べるだろう。とアルクは思っていた。

次男であるレムナはサロムほど羽は生え揃っていないが、だいたい羽が生えていた。

飛べなければ自ら食糧を調達することもできない。なので、今は小鳥たちの食糧は母親鳥が調達しているのだ。


やがて数日が経ち、サロムは自由に飛ぶことが可能になった。レムナもまだフラフラだが空を飛ぶことができている。

アルクは自由に飛び回る兄たちを見て、とても羨ましく思った。羽が生え揃っていないアルクは飛ぶことなんて到底不可能なのである。

兄たちは大樹の上空へ飛んで行った。アルクはそんな兄たちを姿を見ようと、巣から出て、大樹の枝の上をピョコピョコと歩いた。

兄たちは美しく青い大空に二つの点のような姿だった。随分高くまで飛んでいる。


「僕もいつか、あの大空を飛び回るんだ。いつかきっと……!」



月日は流れ1ヶ月後。


「アルク。起きなさいアルク」


母親鳥の声だ。

その声でアルクは目が覚めた。


「なぁに。まだ眠いよ……」

「今日は待ちに待った飛行練習の日じゃないの?」

「ひこーれんしゅう?うん……。うん!」


アルクは目をパッチリと開き、巣から元気良く起き上がった。

そしてピョンピョンと大樹の枝を走り回った。


「今日は飛行練習の日だ!」


アルクにとって今日は巣の外に飛び立つ特別な日だった。

兄たちはもう旅立ってしまったが、ついにアルクにも飛べるようになる日がやってきたのだ。


「嬉しそうねアルク。じゃあ、練習を始めましょう。私について来なさい」


母親鳥はそう言うと、大樹の枝の先から茶色の翼を羽ばたいて、勢いよく飛び立った。

アルクは大樹の枝の先端に立ち、羽を広げ、ついに大樹から飛び立った。

しかし、アルクの身体は空中に浮くことなく、大樹の根元へと急降下して行った。

アルクは羽をパタパタと必死に動かしたが、その抵抗も虚しく、地面に墜落してしまった。

幸いにも地面の土は泥が慕っていて柔らかく、柔らかい土がクッションになった。

そんなことよりも、アルクは飛べなかったことが何よりもショックだった。

やっと飛行練習ができるようになったのに、今まで待ち望んでいた日が来たのに。

そう落ち込んでいるアルクのそばに母親鳥が降下して来た。


「そんなに落ち込むことないわ。サロムやレムナだって、最初は少しも飛べなかったのよ」

「つ、次は飛べるさ!」


アルクはそう言い張って、泥で慕った土の近くにあった岩の上に登り、その岩から勢いよくジャンプしたが、少しも浮くことなく地面に落ちてしまった。


「いい?アルク。空気を感じるのよ。貴方のその青い羽はそのためにあると言っても過言ではないわ」

「空気を?」

「さぁ、やってみなさい」


母親鳥はそう優しく言うと、アルクはもう一度岩の上に登った。

そして飛び立った。羽を広げたアルクは空気の流れと言うものを感じた。

それは風である。

まるで何かを呼んでいるようなその風はアルクの身体をそっと浮かせた。

その姿を母親鳥は微笑みながら見守っていた。


彼の名はアルク。

本当の旅へと呼ばれた渡り鳥。










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