08「身近な母親と子供のお話」
08「身近な母親と子供のお話」
今朝は、外食での塩分を気にする透矢の母親に明人が引き留められ
透矢の家で朝食を食べる事になった・・・
『こんな朝早くから、ど~もすみません』と、言いながら
明人は御飯に味噌汁、佃煮・煮物・漬物に温野菜のサラダと・・・
大喜びで魚料理を頬張って遠慮なく食べる
透矢は無言で無表情に食事を済ませた。
殆ど会話の無い、母と子を前にして明人は・・・
「俺の家みたいに親子の年が近くて起きる弊害には、物悲しさを感じるけど
透矢の家みたいに、年が離れすぎて起きる弊害には辛さを実感するな」
と、毎度の事ながら・・・
「親に言いたい事すら言えない透矢」と
子との距離感が掴めず「息子に言いたい事が言えない透矢の母親」を心配する
が、しかし・・・口下手で、敬語で会話する他人行儀な親子関係を
どう気遣って、方向性を示せば良いのか分からないし
明人には、今も昔も・・・どうする事も出来なかった。
『明人、食べ終わったなら行くぞ』
空いた皿を透矢が片付け始め・・・明人もそれに倣おうとすると
透矢の母親に『後はやりますから』と言われ・・・
居心地悪く手持無沙汰に透矢を待つ事になってしまう
暫くし、透矢が戻って来てワンショルダーバックを持つと
背後から『透矢さん』と、透矢の母親が何か言いたげに呼びかける
『心配しなくても未成年の間は日本の外出規制内に帰ってきますよ』
透矢は振り返る事無くそう告げて歩き出す
明人は・・・
「そう言う事が訊きたかった訳じゃないのではないか?」と思ったが
『美味しかったです、ごちそうさまでした』と、だけ言って後を追った。
時刻はAM6時半、乗客の少ない電車・・・人通りの少ないビジネス街
Usignoloには、数人の客を相手に明人の祖父が楽しげに働いている
『チャオ』明人の祖父が2人に気付き軽く挨拶をしてきた
同じく2人も同じ挨拶をしたのだが・・・
「幼少の頃から、この挨拶を交わしているけどもここは・・・
英国カフェらしく、英語で挨拶するべきなのではなかろうか?」
と、思わないでもない
2人は荷物を置き、バリスタの制服に着替え
いつも通り・・・勝手にコーヒーを飲みダラダラとカウンターで寛いだ。
『1時間以上早く来ても、シフト通りにしか給料は払わんし早退は許さんぞ
で、今回の悩みは昨日のフィゴーナかな?女性関係ならノンノは得意だぞ』
客が一段落ついた明人の祖父は・・・
嵐の様に現れ、2人の肩を抱きかかえる様に軽く叩き
新しいく入ってきた馴染みの女性客の元へ、誰より早く踵を返し飛んで行く
『明人、晴季さんの事だとは思うんだが・・・フィゴーナって』
『ノンノが颯爽と御迎えに行った、御客様みたいな女性の事だよ』
そこには・・・女性である事を強調するタイプの頭軽そうな女性ではなく
柔和で女らしさと知的センスを漂わせる大人の女性がいた。
『俺等の悩みを見抜く洞察力も然る事ながら・・・
女性に対する抜け目の無さにはいつも感服するよ、凄いよな師匠』
明人の祖父に尊敬の眼差しを向ける透矢に明人は・・・
「昨日くらいまで、師匠は俺の親父なんじゃなかったのか?」
と、思いながら上から目線な透矢の意見に同意する。
2人は・・・再び明人の祖父が2人の元に戻ってきた時、相談事を切り出した
店を他のアルバイトに任せ、明人の祖父は・・・
毎回、同じ様に2人の話を真面目に真剣に聴いてくれる・・・その上で・・・
エスタシオンの話を解決せずとも、訊くだけでも聴いた事を褒めてくれた。
そうしてから・・・エスタシオンと、その母親の事を愁いる
『「虐められている子供の親」を・・・
「子供が虐められている事」を理由に孤立させる事は難しいだろう・・・
偽善者は「虐められてる子の親」から崇拝されるチャンスを見逃さないのだよ』
昔、この日本で・・・人種差別を受けてきた明人の祖父は悲しげに語る。
『母親も同じ様に虐められている場合は、「母親達に問題」があって
「子が虐められている」そんな可能性も高いだろう
中には、母親達が「虐められる子供」を「1人」生贄にしている場合もある』
そう言って悲しそうに笑い・・・実体験を話し出す。
『昔・・・この日本で、イタリアの血が入った私が幼い頃に虐められた理由は
出会って直ぐに仲良くなった友人達の親の「差別発言」でね。
私が近くを通るとあからさまに口を噤み、こっちを見る母親達の姿を・・・
私はもっと気にして、自分と皆の違いを隠すべきだったんだ』
明人の祖父は悲しげに溜息を吐く
『子を洗脳するのは、子と長い時間を共有する母親である事を私は知らなかった
あの頃の事は今でも忘れられない・・・
最初は気にするまでも無い事だったのに日が経つにつれ
友人達は離れていった、その理由が・・・
「髪の色が違う」「肌の色が違う」「目の色が違う」「顔立ちが違う」
皆と違う事が、いつの間にか大罪の様に言われてしまっててね
その罪に罰が加えられるようになった頃には・・・』
一呼吸を置いた後・・・
『我慢の限界を越えて、私は不良と言うモノになってしまっていたよ』
と・・・笑顔が眩しい、明るく茶目っ気のある明人の祖父に戻っていた。
「ノンノ」とは・・・イタリア語で「おじいさん」
ノンノのエピソードに使われた人種差別は・・・
「我が師匠」と私が崇める方の「祖父様」が語った体験談です。
言わずと知れた事ですが・・・人種差別はしちゃ駄目な事です。