07「雲の様に消えるクラウド世界の寿命告知」
07「雲の様に消えるクラウド世界の寿命告知」
AM3時半・・・明人と透矢は木霊する目覚ましの音に目を覚ましベランダへと出る
『眠れたか?』透矢の問いに・・・
明人は『それなりに・・・』と答えた
空に浮かぶ午前3時の月は・・・橙色で明るく大きく、空の闇の中に存在していた。
『こんな月を見てると・・・
ラテン語の「ルナ」から生まれた英語の「ルナシィ」が「狂気」で・・・
「ルナティック」が「狂気的」って意味を持つ理由が解る気がするな』
月を眺める透矢の言葉で、明人も月に目を向ける
『難しい事はわからんが・・・
月を見て狼になる狼男が存在してもアリな気がする程、綺麗な月だよな』
明人の言葉に透矢がニヤリと笑う
『それが・・・月見をしている女性陣に襲いかかる、痴漢で無い事を祈るよ』
『え・・・もしかして、狼男の狼ってそういう意味?』
驚きに目をしっかり覚ました明人が透矢を見た
透矢はくすくす笑って・・・その答えを明人に教えなかった。
AM4時・・・明人と透矢は普段、PSPで繋ぐスカイプを・・・PCで繋いだ
そして、晴季さんのスカイプへの参加を待って、ゲームへとログインする
それぞれグリースがINしていない事を確認し溜息を洩らした
『第一関門突破ね・・・』
晴季さんの声に2人は同意して、打ち合わせ通りエスタシオンの星へ向かう・・・
そこには、来るのを知っていたかのようにエスタシオンが待っていた。
『おにぃさん達来てくれてありがとう!
そして、夏おねぇさん・・・2人を連れて来てくれてありがとう』
スカイプの参加者は3人なのに、誰の声でもない4人目の声が聞こえてくる
心臓が一度、大きく波打つのを感じた
画面の中のエスタシオンは・・・首を傾げたり、お辞儀をしたり
と、動作設定に存在しな動きをして
画面の中からこちらを見て、アイコンには無い種類の笑顔を見せる。
普通とは違う滑らかなキャラクターの動作
自分達のキャラクターにはない行動・・・喋る口は言葉通りに動いていた
とても、ナチュラルな生きている様な動きに・・・
明人と透矢は、昨日逃げるエスタシオンから感じた時以上の・・・
全身を後ろから覆う様な悪寒に襲われる
それは・・・
職人やプロが「自己顕示欲」からやらかす御遊びの犯行とは一線を画していた。
『怖がらないでよインヴェルノおにぃさん、ビヤンコおにぃさん・・・
こうなっちゃった僕のが怖いんだから』
エスタシオンの不安そうな・・・泣き出しそうな微妙な表情への変化は
ゲームのキャラクターに設定する様な表情でも
努力して設定できる表情の移り変わりでもなかった。
『夏おねぇさんと一緒で・・・昨日、おにぃさん達には僕の声が聞こえたよね?
僕にはわかるんだ・・・ねぇ、おにぃさん達・・・僕を助けてよ』
エスタシオンは画面の中から、明人と透矢に救いを求めてきた
『この世界がサービス終了で無くなってしまう前に
今の僕が、この世界と一緒に消えてしまうまでに・・・
知りたい事があるんだ・・・その上で、伝えたい事もある・・・助けて欲しい
おにぃさん達には迷惑なだけって事は理解しているけど・・・
僕が大好きな人の元に帰れるように手を貸しておくれよ』
必死さが伝わってくる言葉の雰囲気や、表情に・・・2人は・・・
非現実的な現実を、エスタシオンの今を疑う事は・・・もう、できなかった。
【重要】と記された「お知らせ」に書かれたコンテンツ終了日の期日まで
既に3カ月を切っている・・・明人と透矢は頭を切り替えた
透矢は直感で・・・
明人が安請け合いしようとしているのを名を呼び押し留め、口火を切る
『俺等には「絶対に大丈夫だ」とも「任せておけ」とも言える力は無い
貸せる手があれば貸そう、但し・・・貸すからには返して貰う
お前は包み隠さず、全ての情報を俺等に提供しろ』
『勿論だよ!ありがとう、おにぃさん達』
晴季さんの安堵の溜息がエスタシオンの言葉の後ろから聞こえ・・・
泣き出しそうなエスタシオンの表情が笑顔に変化した。
エスタシオンから話を訊いた後・・・
2人は朝焼けに沈んで行く、15夜の満月より大きく見える月を眺めていた
『さっき一瞬、断るのかと心配したよ・・・
いつも、透矢は力量以上の事に手を出すなって俺に言っているから』
嬉しそうに微笑む明人に対し、透矢は鼻で軽く笑う
『俺が断っても、明人は安請け合いで引き受けて俺を強制的に巻き込むだろ?
それなら、条件付きで引き受けた方がマシなんだよ』
明人には透矢の言葉が「言い訳」にしか聞こえなかった
『俺が巻き込まなくても、最後には手を貸してくれる癖に・・・』
『勝手に言ってろ』
そっぽ向いた透矢の頬が少し色づいている
明人は透矢のツンデレ振りに笑いが込み上げてきた
透矢はそれに気付き
『腹減ったな・・・何処かに食いに行くぞ、早く準備して出て来い』と
部屋に先に帰ってしまった
答えを待たず言い逃げした透矢に従い
笑いが止まらなくなった明人も、肩を震わせながら部屋に戻る。
窓を閉め、カーテンを引く時・・・
2人が眺めていた月が3分の1程、建物や人工物の陰に沈み込み
醜悪な頬笑みを浮かべていた。
クラウドサーバーが安く利用できるようになった現代
生み出されては・・・「思ったより採算が取れないから・・・」と
雲のように消え去るネットゲームが増えてしまってますよね。