03「俺達の物語は夜明け前から始まった」
03「俺達の物語は夜明け前から始まった」がプロット段階の第一話目です。
「01」「02」は、ある意味・・・裏側の設定で
読まなくても後々、断片的に出てきますので・・・
「03」から読んで頂いても楽しめる様に書かせて頂いています。
03「俺達の物語は夜明け前から始まった」
喧騒を忘れた街並み、寝起きを渋る様な空模様・・・
薄暗い部屋の中、携帯のメール着信音が微かに木霊する
響き跳ね返ってくる様に聞こえて来ている、この着信音は・・・
『ギルドメンバーから?』夢現にそう思い
「明人(アキト)」は眠い目を擦りながら、ベットから這い出し
机の上で充電していたスマホに手を伸ばす。
その日、外は雨が降っていた・・・
網戸越しに開け放たれたベランダに続くアルミサッシの引き戸からは
ヒンヤリとして湿った、しっとりとした空気が入り込んで来ている
今朝の気温は、半袖Tシャツとハーフパンツでは少し肌寒かった。
今の時間と、閉め忘れた扉に向かって舌打ちし
明人が欠伸をしながらメールを開く・・・と、同時に
「ドンドン」と、ベット横の壁が反対側から叩かれる音が聞こえてきた
メールをチェックし終え、明人は立ち上り網戸を開けてベランダに出る。
『メールは見たか?』
シンプルなパジャマらしいパジャマを着こなし
御互い生まれる前から隣に住んでる幼馴染兼、親友の「透矢(トウヤ)」が
30㎝程離れたベランダ越しに話し掛けてきた
隣同士、左右対称な部屋造り・・・隣り合う自室
明人の部屋の壁を反対側から苛立たしげに2度叩いたのは
毎度の事ながら・・・一見、眼鏡で真面目そうな人間に見える透矢だった。
『見たけど・・・お前、俺が寝てたり留守だった時の事考えた事ある?』
明人の言葉を透矢は鼻で笑い、当然の事みたいに言い放つ
『寝てたら起きるまで壁を叩くまでだ・・・
それに、お前に限って夜遊びで留守はありえないだろ?』
見透かされた態度に、明人は苦笑いし・・・溜息を吐いた
年若い両親の影響を受けて外見は相当、遊んでいる様に見える明人
周囲からも「そう扱われている」モノの実際は・・・
「ネトゲ(ネットゲーム)」の住人なのです
一般高校生の遊びより、PCの前でネトゲに勤しむ方が好きなゲーマーです。
もう、既にと言うか・・・最初からそれを知っている透矢に対して
他人に言い慣れた「試す様な言い方」をしてしまった、と言う失態に
明人は少し後悔していた。
その様子に今度は、透矢が溜息を吐いた
『癖ってのは、なかなか厄介なモノだな・・・
最初は他人様からのイメージに合わせて、自分を演じてただけなのに
癖になると、要らん時まで自分を作ってしまう
俺も人の事は言えんが・・・お前が忘れるなよ?明人
俺等の関係に「自分を作って演技する必要なんて存在しない」だろ?』
嘗て、透矢が周囲との関係に悩んでいた時
透矢に言った自分の言葉を透矢に言われ・・・明人が笑い、それを見た透矢も笑った
2人、共に・・・他人様が持つイメージに苦悩し続ける
悩める男子高校生なのだ。
『ところで明人・・・「エスタシオン」からのメールの内容、お前はどう思う?』
和んだ空気を引き締める様に真剣な表情になる透矢
某オンラインゲームでメール交換する程に仲良くなった
「エスタシオン」からの携帯メールは・・・
『僕の「グチと悩み」をきいてくれて、ありがとうございました。
僕は決心しました、決着をつけてきます。』と、書かれていた
『談話的な決着を付けるには、不適切な時間のメールである事には間違いないな』
明人の判断は正しく・・・日の出の前に、このメールは届いている。
『今思ったんだけど透矢、お前・・・
寝覚めのよろしくないメールで起こされて腹が立つから
俺も起こして道連れにしてやろうなんて・・・・・・思ったんだな』
明人は言い掛けて・・・そう、透矢の表情から読み取った。
夜明け前に起こされ・・・もう一度寝るには気になり
2人にとって、眠れなくなる内容のメールである事には間違いなかったのだ
そして、今日は平日で雨・・・早めに家を出て電車に乗らないと
濡れた傘付きの満員電車でカナリ不快な思いをする羽目になりそうな感じ
どっち道、いつもより早起きして家を出なければイケナイ日
もう一度、床に入って仮眠を取る時間は・・・起きた時に既に存在しなかった
2人は肌寒い空気と、空色が変わる日の昇る時間から
一旦、話を区切り・・・今日の朝食は「牛丼屋の朝定食」と決め解散する。
去り際、木霊する様に聞こえた携帯の着信音の事を思い出し
『そうだ、窓閉めて寝ないと風邪ひくぞ』と・・・
互いを心配する互いの声がハモリ、互いにバツの悪い思いをして
2人は互いに自分の言葉に照れながら、自室に引っ込んでいった。
街は目を覚まし・・・至る所から生活音が生まれ
車の音や、遠くから緊急自動車のサイレンも聞こえてくる
昨日とは違う今日を開始する為に、いつもと同じ様な日常が目を覚ました。